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エピローグ 妄想の中の真実
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「はぁーーーー」
俺こと、小林ヒロキは警察署の前で大きなため息をついた。
おっさん……あんたなんてことしてしまったんだ……と俺はそう思うと同時に自分の行動にも後悔していた。
あの日、あの時、俺がもっとおっさんを引き留めておくべきだった。まさかあの日に藤田京平を殺しに行くなんて思ってなかったから、引っ越しの挨拶をするぐらいで、やり過ごしてしまった。
おっさんには置き土産に藤田京平は市議会議員ではないことを伝えたつもりだが、あれでは効果はほとんどなかったようだった。
「ああっ!もうっ!」
俺があの時、もっと気がきいたことを言えていれば良かった。
『藤田京平はさっき警察に捕まったぞ』とか『藤田京平はおっさんに勝てないと分かって、自首したぞ』とかもっと、こう……おっさんの心を動かすセリフを言ってあげるべきだった。
俺がしたことと言えば、おっさんの世界を否定してしまったということぐらいか。
市議会議員名簿はググればすぐに出てくる。市議会議員に藤田京平という名前の人物がいないのは、明白な事実だ。
それでもおっさんの中には市議会議員の汚職事件の黒幕である藤田京平はしっかりと実在してたんだよな……と思うとなんとも言えない気持ちになった。
ただの隣りに住んでて、めちゃくちゃおっさんの騒音に苦しめられていた俺が、そんなに気に病む必要はもちろんないんだけど、
そう思っていても俺はやっぱり、あの時、もう少しなんとかしていれば、おっさんは人を殺すこともなく、藤田京平も殺されずにすんだのではないか?と思ってしまうのだ。そしておっさんも自殺してしまうなどという救いようのない未来は、来なかったかもしれないと……
「はぁ~」
俺はまたため息をはいた。今度は小さいヤツだ。
俺はそんな罪悪感を抱えて、警察署の前までやってきた。
俺は見たのだ。
俺とおっさんのボロアパートから出てきた、モデルのような美女を。
ボロアパートから出てきただけで、おっさん宅に行ったかどうかまでは正直、分からない。
分からないが俺にはどうしても、あの女があのボロアパートから出てきたのは偶然とは思えなかった。
それは俺だけが知ってるおっさんの通話内容に起因する。おっさんは毎日のようにあの女の記録と藤田京平の動向の記録を、どこかに電話していた。
おっさんはどこかに電話していたが、固定電話と思われる電話機のボタンはいつも3つしか押されない。もしかしたらリダイヤルボタンでも押している可能性はあるが、おっさんは適当に電話をかけて、適当に一方的に話しているだけのような気がした。
それでもおっさんは電話の先で至極、真面目に毎日、藤田京平の仲間の魔の手から怯えて過ごしていた。俺はうっすい壁の隣でその電話をちょくちょくを聞いていた。
今にして思えば俺が全部聞いていればよかったのか?と思わない訳もない。何か手掛かりがあったかもしれない。それでもいや、かなりおっさんはうるさくて俺からしたら迷惑以外の何者でもなかった。
俺はすぐにおっさんが何度も口にする市議会議員の藤田京平の名前をネットで調べるが、そんな男の名は名簿になく、ああ……すべてはおっさんの妄想なのかと哀れんだ俺だったが、とにかく毎日、毎日、毎日、うるさくて、うるさくて仕方なかった。
うるささに耐えられず、俺が怒鳴り込みに行ったのは奇しくも、あの女を見た翌日だった。
俺があの女を見た日。おっさんのテンションは爆上がりでうるさいどころではなかったので、よく覚えている。
内容も意気揚々としゃべっていたんで、いつもより聞き取りやすいぐらいだった。おっさんはあの女に逃げろと警告したその返事が返ってきたようだった。
『逃げろと手紙をくれたのはあなたですか?』と返事が来たとはっきりとおっさんは言っていた。嬉しそうだっだが、それと同時に俺に我慢の限界がきた。
うるささに耐えられず、俺は翌日に隣りのおっさんの玄関を叩きまくり、「いい加減にしろよぉぉぉーー!!うっせんだよーー!」と怒鳴り散らした。
その日の電話報告で俺は藤田京平とグル疑惑をかけられてしまったことを知る。
そんなわきゃねーだろーーーー!!!
もうやってられんか!と思い、俺は引っ越しを決意した。
翌日から学校に行って引っ越し費用のためにアルバイトも増やしたんで、家に帰る頃にはクタクタになっておっさんの妄想電話には付き合えなくなっていた。合わせて不動産屋に足を運んで数件のアパートを見回り、次はうるさそうな住人がいないかどうか慎重に選んだ。
そして引っ越しを翌日に控えたあの日。
俺はおっさんとばったり会った。
そしてあの事件が発生した。
日本の警察は優秀だ。俺が何も言わなくても事件の真実に辿り着ける可能性はあるだろう。
でもあのおっさんの嘘にまみれた妄想の中で、ひとつの真実に辿り着けるだろうか?
岡本進とその岡本が殺した藤田京平のその妻である藤田志穂は、手紙のやりとりをしていた可能性があると……
一番可哀想なのは殺されてしまった藤田京平だが、おっさんの大好きなセリフ『黒幕』ーーーその正体が実は妻の藤田志穂だったら………
おっさんのあの汚い部屋の中に藤田志穂からの手紙が出てくればいいなと思いながら、俺は警察署に藤田志穂がうちのアパートから出ていく姿を見たことと、隣に住む容疑者の岡本進が、同じ日に彼女から手紙が来たと話しており、それはまるで奇跡のように喜び、かなりうるさかったことを伝えに来たのだった。
おっさん……おっさんはもしかして藤田志穂に騙された可能性はないのかよ?
あの妄想の中で『藤田志穂に助けて欲しいと言われたんだ!夫を殺してって!彼女に頼まれたんだ!!』という経緯が本当はあったんじゃないのか?
例えそうだとして……
果たしてその妄想の中の真実に
一体、誰が気づいてくれるというのか。
俺には今の俺のこの行動の意味も、その先にある結果もどうなるかさっぱり分からないが……
おっさん、次の人生は幸せになれるといいな
と俺は警察署に足を踏み入れた。
俺こと、小林ヒロキは警察署の前で大きなため息をついた。
おっさん……あんたなんてことしてしまったんだ……と俺はそう思うと同時に自分の行動にも後悔していた。
あの日、あの時、俺がもっとおっさんを引き留めておくべきだった。まさかあの日に藤田京平を殺しに行くなんて思ってなかったから、引っ越しの挨拶をするぐらいで、やり過ごしてしまった。
おっさんには置き土産に藤田京平は市議会議員ではないことを伝えたつもりだが、あれでは効果はほとんどなかったようだった。
「ああっ!もうっ!」
俺があの時、もっと気がきいたことを言えていれば良かった。
『藤田京平はさっき警察に捕まったぞ』とか『藤田京平はおっさんに勝てないと分かって、自首したぞ』とかもっと、こう……おっさんの心を動かすセリフを言ってあげるべきだった。
俺がしたことと言えば、おっさんの世界を否定してしまったということぐらいか。
市議会議員名簿はググればすぐに出てくる。市議会議員に藤田京平という名前の人物がいないのは、明白な事実だ。
それでもおっさんの中には市議会議員の汚職事件の黒幕である藤田京平はしっかりと実在してたんだよな……と思うとなんとも言えない気持ちになった。
ただの隣りに住んでて、めちゃくちゃおっさんの騒音に苦しめられていた俺が、そんなに気に病む必要はもちろんないんだけど、
そう思っていても俺はやっぱり、あの時、もう少しなんとかしていれば、おっさんは人を殺すこともなく、藤田京平も殺されずにすんだのではないか?と思ってしまうのだ。そしておっさんも自殺してしまうなどという救いようのない未来は、来なかったかもしれないと……
「はぁ~」
俺はまたため息をはいた。今度は小さいヤツだ。
俺はそんな罪悪感を抱えて、警察署の前までやってきた。
俺は見たのだ。
俺とおっさんのボロアパートから出てきた、モデルのような美女を。
ボロアパートから出てきただけで、おっさん宅に行ったかどうかまでは正直、分からない。
分からないが俺にはどうしても、あの女があのボロアパートから出てきたのは偶然とは思えなかった。
それは俺だけが知ってるおっさんの通話内容に起因する。おっさんは毎日のようにあの女の記録と藤田京平の動向の記録を、どこかに電話していた。
おっさんはどこかに電話していたが、固定電話と思われる電話機のボタンはいつも3つしか押されない。もしかしたらリダイヤルボタンでも押している可能性はあるが、おっさんは適当に電話をかけて、適当に一方的に話しているだけのような気がした。
それでもおっさんは電話の先で至極、真面目に毎日、藤田京平の仲間の魔の手から怯えて過ごしていた。俺はうっすい壁の隣でその電話をちょくちょくを聞いていた。
今にして思えば俺が全部聞いていればよかったのか?と思わない訳もない。何か手掛かりがあったかもしれない。それでもいや、かなりおっさんはうるさくて俺からしたら迷惑以外の何者でもなかった。
俺はすぐにおっさんが何度も口にする市議会議員の藤田京平の名前をネットで調べるが、そんな男の名は名簿になく、ああ……すべてはおっさんの妄想なのかと哀れんだ俺だったが、とにかく毎日、毎日、毎日、うるさくて、うるさくて仕方なかった。
うるささに耐えられず、俺が怒鳴り込みに行ったのは奇しくも、あの女を見た翌日だった。
俺があの女を見た日。おっさんのテンションは爆上がりでうるさいどころではなかったので、よく覚えている。
内容も意気揚々としゃべっていたんで、いつもより聞き取りやすいぐらいだった。おっさんはあの女に逃げろと警告したその返事が返ってきたようだった。
『逃げろと手紙をくれたのはあなたですか?』と返事が来たとはっきりとおっさんは言っていた。嬉しそうだっだが、それと同時に俺に我慢の限界がきた。
うるささに耐えられず、俺は翌日に隣りのおっさんの玄関を叩きまくり、「いい加減にしろよぉぉぉーー!!うっせんだよーー!」と怒鳴り散らした。
その日の電話報告で俺は藤田京平とグル疑惑をかけられてしまったことを知る。
そんなわきゃねーだろーーーー!!!
もうやってられんか!と思い、俺は引っ越しを決意した。
翌日から学校に行って引っ越し費用のためにアルバイトも増やしたんで、家に帰る頃にはクタクタになっておっさんの妄想電話には付き合えなくなっていた。合わせて不動産屋に足を運んで数件のアパートを見回り、次はうるさそうな住人がいないかどうか慎重に選んだ。
そして引っ越しを翌日に控えたあの日。
俺はおっさんとばったり会った。
そしてあの事件が発生した。
日本の警察は優秀だ。俺が何も言わなくても事件の真実に辿り着ける可能性はあるだろう。
でもあのおっさんの嘘にまみれた妄想の中で、ひとつの真実に辿り着けるだろうか?
岡本進とその岡本が殺した藤田京平のその妻である藤田志穂は、手紙のやりとりをしていた可能性があると……
一番可哀想なのは殺されてしまった藤田京平だが、おっさんの大好きなセリフ『黒幕』ーーーその正体が実は妻の藤田志穂だったら………
おっさんのあの汚い部屋の中に藤田志穂からの手紙が出てくればいいなと思いながら、俺は警察署に藤田志穂がうちのアパートから出ていく姿を見たことと、隣に住む容疑者の岡本進が、同じ日に彼女から手紙が来たと話しており、それはまるで奇跡のように喜び、かなりうるさかったことを伝えに来たのだった。
おっさん……おっさんはもしかして藤田志穂に騙された可能性はないのかよ?
あの妄想の中で『藤田志穂に助けて欲しいと言われたんだ!夫を殺してって!彼女に頼まれたんだ!!』という経緯が本当はあったんじゃないのか?
例えそうだとして……
果たしてその妄想の中の真実に
一体、誰が気づいてくれるというのか。
俺には今の俺のこの行動の意味も、その先にある結果もどうなるかさっぱり分からないが……
おっさん、次の人生は幸せになれるといいな
と俺は警察署に足を踏み入れた。
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