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午後2時40分~50分 事件と凶器に関する真相のようなものが語られる
51・だめじゃないか、妹よ。勝手にそんなことをしては
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ルージュ・ブラン(ルーちゃん)先輩は、実在を超えた妖槍・蜻蛉切(仮名)を、おれの手の中から消して、自分の手に移した。
その移行はあまりにも自然すぎて、おれ自身がルーちゃん先輩に渡したかのようにすら見えた。
「実戦で使われる、武器としての槍は、これより遥かに大きくて重たいものと想定されているが、これは何でも切れる」
ルーちゃん先輩は、物語部に4つ置かれている会議室用の長机の、窓と直角に並べてあるもののひとつにその刃を押しつけた。
机はカステラを切るよりも容易にふたつになり、薄黄色くなった断面を床に向けて倒れた。
ルーちゃん先輩は、すばやくその断面をまた重ね合わせたので、薄黄色の光は消えて、ふたつになった机は元に戻った。
「この通り、生命を持たない、つまり意識というものを持たない存在は、どんなに固くて大きくても、切ろうと思えば切れないものはない。そして、切ったものは急いで繋げると元に戻る。我とユクが実験してみた結果、だいたい3秒以内なら大丈夫ということが確認できている。魚や人の場合は、縦にふたつに切ると、左右に行きたいという意識が存在するから、戻らない。胴体と首の場合でも、多分同じことである」と、ルーちゃん先輩は説明した。
「きのうの夜、俺の机の引き出しの中を整理したらそれが出てきたんで、なつかしいなあ、と思って出しっぱなしのまま、妹が風呂空いたよ、って言ったからその場を離れたんだ」と、樋浦遊久先輩(首)は説明した。
妹というのは、おれと同じ物語部の新一年生である樋浦清だ。
「だめじゃないか、妹よ。勝手にそんなことをしては」と、遊久先輩は清を叱り、清はしゅんとした。
*
実在は、人の認識によって生じる、というのが、非実在っぽいものに関しての哲学的な解釈だ。
いや、人に限定したことではなく、モノと自分自身とを分離して認識できるあらゆる存在だ。
魚は多分それができている。
外の世界から内の世界へ、なにかを取り入れたり吐き出したりできる存在は、世界を呪術的な方法で理解・解釈している。
ソラリスの海も、太陽の光からエネルギーを得ているので、外の世界を知っている。
魚、ヒト、ソラリスの海、そしてまだ不十分だが十分に発達した機械などは、それぞれ違うレベルで同じ世界を理解・認識している。
ヒト同士でも違う形で世界を認識している。
ある者には何かが罪となり、別の者にはそれが神聖なものになる。
認識は解釈なので、この妖槍・蜻蛉切は実在しないものである、という解釈も可能だけれども、とりあえず実在するものとして、われわれ物語部の部室にいた人間は扱うことにした。
そうすると、それを使ってスイカが切れるからである。
スイカの実在性は疑わない。
*
「不思議だな。俺たちの世界でも、確かに似たようなのを俺と真・ルーちゃんは見つけたけど、それはただの赤錆びた、かつては刃物だったものでしかなかった。そして俺は、ルーちゃんにあげた」と、真・遊久先輩(首)は言った。
「俺は、その蜻蛉切をあずかり、柄を台所の包丁的なものに変えた。確かにスイカでもジャガイモでも切れるし、研がなくても切れ味がにぶることはないんだけど、手加減が難しいんだ。ちょっとしたはずみで、まな板まで真二つだから。この、台につくかな、つかないかな、というところで止めるわけよ」と、遊久先輩は言った。
おれは物語部の隅にあるがらくた置き場から、未使用のプラスチックのまな板を見つけ、包装フィルムを剥がしてスイカの下に敷き、スイカを分割することにした。
やっぱり机は切らなかったけど、まな板は何度か失敗した。
しかし、人の首とか切ったかもしれない、というか明らかに切っている刃物なのに、みんなかまわないのか。
*
こうやってだらだらと、名探偵ごっこをやっているうちに、校庭から4人が、ひどい格好で戻ってきた。
顔に黒い縦線が入っている感じの千鳥紋先輩、背中の傷はほぼ塞がっているけど瀕死状態の年野夜見先輩、ふたりを支えたり背負ったりしてくれた真・物語部の真・年野夜見先輩と真・立花備(おれ)だ。
千鳥紋先輩は、おれが手にしている蜻蛉切を見て、とても驚いたように見え、動きが止まった。
その移行はあまりにも自然すぎて、おれ自身がルーちゃん先輩に渡したかのようにすら見えた。
「実戦で使われる、武器としての槍は、これより遥かに大きくて重たいものと想定されているが、これは何でも切れる」
ルーちゃん先輩は、物語部に4つ置かれている会議室用の長机の、窓と直角に並べてあるもののひとつにその刃を押しつけた。
机はカステラを切るよりも容易にふたつになり、薄黄色くなった断面を床に向けて倒れた。
ルーちゃん先輩は、すばやくその断面をまた重ね合わせたので、薄黄色の光は消えて、ふたつになった机は元に戻った。
「この通り、生命を持たない、つまり意識というものを持たない存在は、どんなに固くて大きくても、切ろうと思えば切れないものはない。そして、切ったものは急いで繋げると元に戻る。我とユクが実験してみた結果、だいたい3秒以内なら大丈夫ということが確認できている。魚や人の場合は、縦にふたつに切ると、左右に行きたいという意識が存在するから、戻らない。胴体と首の場合でも、多分同じことである」と、ルーちゃん先輩は説明した。
「きのうの夜、俺の机の引き出しの中を整理したらそれが出てきたんで、なつかしいなあ、と思って出しっぱなしのまま、妹が風呂空いたよ、って言ったからその場を離れたんだ」と、樋浦遊久先輩(首)は説明した。
妹というのは、おれと同じ物語部の新一年生である樋浦清だ。
「だめじゃないか、妹よ。勝手にそんなことをしては」と、遊久先輩は清を叱り、清はしゅんとした。
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実在は、人の認識によって生じる、というのが、非実在っぽいものに関しての哲学的な解釈だ。
いや、人に限定したことではなく、モノと自分自身とを分離して認識できるあらゆる存在だ。
魚は多分それができている。
外の世界から内の世界へ、なにかを取り入れたり吐き出したりできる存在は、世界を呪術的な方法で理解・解釈している。
ソラリスの海も、太陽の光からエネルギーを得ているので、外の世界を知っている。
魚、ヒト、ソラリスの海、そしてまだ不十分だが十分に発達した機械などは、それぞれ違うレベルで同じ世界を理解・認識している。
ヒト同士でも違う形で世界を認識している。
ある者には何かが罪となり、別の者にはそれが神聖なものになる。
認識は解釈なので、この妖槍・蜻蛉切は実在しないものである、という解釈も可能だけれども、とりあえず実在するものとして、われわれ物語部の部室にいた人間は扱うことにした。
そうすると、それを使ってスイカが切れるからである。
スイカの実在性は疑わない。
*
「不思議だな。俺たちの世界でも、確かに似たようなのを俺と真・ルーちゃんは見つけたけど、それはただの赤錆びた、かつては刃物だったものでしかなかった。そして俺は、ルーちゃんにあげた」と、真・遊久先輩(首)は言った。
「俺は、その蜻蛉切をあずかり、柄を台所の包丁的なものに変えた。確かにスイカでもジャガイモでも切れるし、研がなくても切れ味がにぶることはないんだけど、手加減が難しいんだ。ちょっとしたはずみで、まな板まで真二つだから。この、台につくかな、つかないかな、というところで止めるわけよ」と、遊久先輩は言った。
おれは物語部の隅にあるがらくた置き場から、未使用のプラスチックのまな板を見つけ、包装フィルムを剥がしてスイカの下に敷き、スイカを分割することにした。
やっぱり机は切らなかったけど、まな板は何度か失敗した。
しかし、人の首とか切ったかもしれない、というか明らかに切っている刃物なのに、みんなかまわないのか。
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こうやってだらだらと、名探偵ごっこをやっているうちに、校庭から4人が、ひどい格好で戻ってきた。
顔に黒い縦線が入っている感じの千鳥紋先輩、背中の傷はほぼ塞がっているけど瀕死状態の年野夜見先輩、ふたりを支えたり背負ったりしてくれた真・物語部の真・年野夜見先輩と真・立花備(おれ)だ。
千鳥紋先輩は、おれが手にしている蜻蛉切を見て、とても驚いたように見え、動きが止まった。
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