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1・茶道 探偵部(仮)ができるまで

1-2・新一年生の3人は、エタっている物語世界から、このリアル世界にやってきたのだった

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 おれの名前(スクールネーム)はアキラ。「茶道 探偵部(仮)」の時期部長になる予定の2年生である。

 性格その他はのちに語ることになるだろうから省略して、ほかのメンバーを紹介しておこう。

 ところで誰にだよ。そんなことをするとまるでおれたちが物語の登場人物みたいじゃないか。気にするなって。そりゃ読者は(もしいたとしたら)気にならないだろうけど、登場人物は気になるんだよな。

 そんなことはともかく、部長のミロクは前に言った通りソファでゴロゴロしている、やや小さめの子である。

 普通の人間なら1回ゴロッとしただけでソファから落ちてしまうところを、1回半回れるぐらいの大きさで、おれだったら小脇にかかえて10メートルは歩けるだろう。

 黒い髪と金色の虹彩を持つ、それなりの美人、じゃないな、美少女だ。ボリューム感が足りないので、小学4年生ぐらいの子が好きな男子には好みかもしれない。実際、小学生時代がモテ期だったという話ではある。

 部長はごろごろしているけれども、それ以外の5人の部員は、掘りごたつ形式の机を前にして、座布団に腰をかけ、ほどほどに大きい携帯端末とか、プリントアウトした紙の資料を広げ、おれも含めて各人勝手に勉強をしている。だいたい放っておかれると勉強をどんどん進める部員ばかりなのである。

 南面の窓を背後にしているおれの右横にいるのは、おれと同じ2年生のミナセ。体格は普通、ということは、おれより10センチほど背が低く、真面目な男子で、誰に対しても当たりがソフトなため、たぶんおれよりも男女ともにモテる、というより知り合いが多い。

 おれの向かい側、南面している部員は新一年生の3人だった。

 まず、真正面にいるのはクルミ。整った体型と、日焼けに弱そうな北欧系を思わせる白い肌をしている。紺碧の虹彩で、すこしウエーブのかかった黄金色の長めの髪を、いつもは両脇に軽く編み込んだ、疑似ツインテール風にしているところを、きょうはおろしていていて、頭にウサギの耳の形をしたカチューシャをしている。

 机の上には大盆が置かれ、その中には黒・白・赤・緑・黄に色づけされた、地元名産の(京都由来のものとはすこし違う)五色豆が盛られている。

 各人の勉強道具のそばには魔法陣のように編み込まれたドイリーの上に飲み物、それに小分け用の小盆が並べられ、クルミはおれが大盆からひとつかみ取るのと同じペースでふたつかみ五色豆を取り、なぜかそのたびにおれのほうをじろじろっと睨む。

 だいたいラノベのヒロインでありがちな大食らいキャラだと思っておけば間違いはない。なお、おれが勉強に行き詰まってクルミの顔を見ているのに気づくと、クルミは少し顔を赤くして下を向く。

 カチューシャのうさ耳は、問題にてこずってくるとだんだん下に垂れてきて、完全に垂れきる前に、はっ、という感じでなにかわかったみたいにピンと立って、検索用携帯端末を、学習用携帯端末に並べていろいろ調べはじめる。そうするとピコピコそれが前後左右に動いて面白い。

 クルミはどうやら緑と黒の豆があまり好みではないらしく、緑豆を左隣りにいるミドリの小盆に、はい、という感じでこまめに移し、黒豆はまとめて大盆に戻している。

「これって、魔法力の回復とかに役立つの? ホーリービタンみたいな感じで」とおれが聞くと、クルミはすこし首をかしげて言った。

「それは別の物語の話なんじゃないかな。わたくしたちはたぶん、その話からは来ていないのです。」

 言い忘れているかもしれないというより、しばしば言うことになることかもしれないけれど、新一年生の3人は、エタっている物語世界から、このリアル世界にやってきたのだった。
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