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6・茶道 探偵部(仮)と謎の美少女
6-8・意外な人物との再会
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おれとミナセは、となりの女湯からかすかに漏れる、きゃっきゃした声を聞きながら、地元自治体が運営している公衆浴場の男湯で背中を洗い流していた。
まず、おれがミナセの背中を洗ったあと、向きを変えてミナセがおれの背中を洗う。
「ふたりで一緒にお風呂なんて、小学校以来だね、ウルフ」とミナセは言うけど、いや、それは……。
お互いの体をお互いに洗いあうのは冒涜的すぎるので、それはやめて、おれは頭を洗いながら、捜査対象である美少女・コミーの異常行動について考えていた。
なぜコミーは、夜中に自動販売機の空き缶ボックスを蹴飛ばし、それからしばらくたって戻って缶を入れ直し、入浴しに来ているのか。
確かに、服が汚れるようなことをしたあとはお風呂に入るものだけど、公衆浴場である必要はあまり感じられない。
……あやかしか、あやかしのせいなのか、みたいな、よくある「あやかし系」のネタは置いといて。
あやかし風呂とかいいね、もう宮崎駿がアニメ化しちゃってるけどね。あやかしの湯。
だとすると、自動販売機が異世界転生して置かれてて……異世界に飲み物の自動販売機なんてあるんだろうか、今度クルミに聞いてみようか、でもクルミの場合は「そういう異世界もあります!」と力強く断言するだけだから、ほかのふたりのほうがいいかな…………。
と考えていると、いきなり背中に冷水をかけられたので、おれは、ひゃうひっ、と、あやかしが正体ばれたときみたいな恥ずかしい声をあげて、全裸で立ち上がった。
女湯のほうのはしゃいだ声も、たちどころに止まった。
悪い冗談はやめろよ、ミナセ、と言おうと思ったら、黒いタオルで股間を隠している、以前会ったような、そうでもないような痩せた男が立っていた。
「整った?」と、その男の相棒のような、やや小さめの男がおれに聞いた。
じゃねーよ。
誰だよおまえら、とおれが言うと、忘れるなんて切ない、と小さめの男は言って、ほら、これだよこれ、と、両手を耳に当てて前後に動かした。
「えーと……ウサギ男さん?」
なお、ミナセは壁に耳を当てて、女子湯のほうの情報収集をしている。
おれがいないところでは三人称になって、女子湯のほうでの会話が語られるなどという甘い物語構成ではないので仕方ない。
ふたりの男は、揃って右向いてにゃんにゃん、左向いてにゃんにゃん、のポーズをした。
「わかった、ネコ探偵の……えーと……キムラ?」
「キしか合ってないよ、クロキだって、ク・ロ・キ!」と、大きいほうの男は怒った。
たしかに始業式の前日の夜、行方不明になったネコを探すのに協力してくれたふたりで、偽名はクロキとクロサだ。
しかし準レギュラーっぽくなっているとは知らなかったな。
「きょうはきみたちに、いいものを上げるためにやってきた」と、クロキは言い、脱衣所まで行って筒状のものを持ち込み、おれの前にあった鏡の前に広げた。
「これは……地図?」
町内のレアアイテムが手に入る秘宝地図、ということではなく、ゴミ収集場を中心にした、生ゴミ回収日の曜日がわかる、便利な……考えたらそんなに便利ではないな。
六区画、3色に塗り分けられてて、月・木、火・金、水・土がゴミ出しの日ということで、確かに、うっかり出しそこねたゴミを別の地区に持っていって捨てるときには便利かもしれない。
「使いみちに関しては、きみの友だちであるワタルが知っているはずだ。飛び上がって喜ぶよ」
ところでこれ、筒状にして向こう見たら壁が透けて見えたりする魔法の地図とかじゃないの、あ、逆さまだこりゃ、と、ミナセはうっきうきしながら、おれの頭をとんとん、と叩いた。
大正天皇かよ、あるいは極東軍事裁判の大川周明か。
*
「どどどどこでこれを!」
たしかにワタルは飛び上がって喜んだ。
公衆浴場の2階にある、居心地のよい休憩所兼ファミレスで、おれたち男子組と女子組は合流した。
クルミとコミーはもう、勝負に行ってるのよね、とミドリは言った。
女子組の残りの3人は、ゆるい普段着に着替えていて、いつもと印象が違うのは、ミドリはメガネを、ワタルは片目眼帯を外していて、ミロクはつやつやの髪と死んだ目をしていたせいだろう。
きっとごしごし、クルミに鬼のように洗われたんだろうな、鬼洗い。
ワタルの片目眼帯は、ときどき右目と左目を入れ替えたりするファッショナブル眼帯だけど、ミドリはこのメガネがないともののサイズが測れないのよね、という程度の実用性はあるらしい。
しかし、なんの勝負?
「歌に決まってんだろう、大浴場にはカラオケルームが隣接していで、個別浴槽も備わってるんだ」
フロカラオケ!
歌いながら入浴できる、いやその逆かな、たしかに風呂の中では歌いたくなるけどね。
まず、おれがミナセの背中を洗ったあと、向きを変えてミナセがおれの背中を洗う。
「ふたりで一緒にお風呂なんて、小学校以来だね、ウルフ」とミナセは言うけど、いや、それは……。
お互いの体をお互いに洗いあうのは冒涜的すぎるので、それはやめて、おれは頭を洗いながら、捜査対象である美少女・コミーの異常行動について考えていた。
なぜコミーは、夜中に自動販売機の空き缶ボックスを蹴飛ばし、それからしばらくたって戻って缶を入れ直し、入浴しに来ているのか。
確かに、服が汚れるようなことをしたあとはお風呂に入るものだけど、公衆浴場である必要はあまり感じられない。
……あやかしか、あやかしのせいなのか、みたいな、よくある「あやかし系」のネタは置いといて。
あやかし風呂とかいいね、もう宮崎駿がアニメ化しちゃってるけどね。あやかしの湯。
だとすると、自動販売機が異世界転生して置かれてて……異世界に飲み物の自動販売機なんてあるんだろうか、今度クルミに聞いてみようか、でもクルミの場合は「そういう異世界もあります!」と力強く断言するだけだから、ほかのふたりのほうがいいかな…………。
と考えていると、いきなり背中に冷水をかけられたので、おれは、ひゃうひっ、と、あやかしが正体ばれたときみたいな恥ずかしい声をあげて、全裸で立ち上がった。
女湯のほうのはしゃいだ声も、たちどころに止まった。
悪い冗談はやめろよ、ミナセ、と言おうと思ったら、黒いタオルで股間を隠している、以前会ったような、そうでもないような痩せた男が立っていた。
「整った?」と、その男の相棒のような、やや小さめの男がおれに聞いた。
じゃねーよ。
誰だよおまえら、とおれが言うと、忘れるなんて切ない、と小さめの男は言って、ほら、これだよこれ、と、両手を耳に当てて前後に動かした。
「えーと……ウサギ男さん?」
なお、ミナセは壁に耳を当てて、女子湯のほうの情報収集をしている。
おれがいないところでは三人称になって、女子湯のほうでの会話が語られるなどという甘い物語構成ではないので仕方ない。
ふたりの男は、揃って右向いてにゃんにゃん、左向いてにゃんにゃん、のポーズをした。
「わかった、ネコ探偵の……えーと……キムラ?」
「キしか合ってないよ、クロキだって、ク・ロ・キ!」と、大きいほうの男は怒った。
たしかに始業式の前日の夜、行方不明になったネコを探すのに協力してくれたふたりで、偽名はクロキとクロサだ。
しかし準レギュラーっぽくなっているとは知らなかったな。
「きょうはきみたちに、いいものを上げるためにやってきた」と、クロキは言い、脱衣所まで行って筒状のものを持ち込み、おれの前にあった鏡の前に広げた。
「これは……地図?」
町内のレアアイテムが手に入る秘宝地図、ということではなく、ゴミ収集場を中心にした、生ゴミ回収日の曜日がわかる、便利な……考えたらそんなに便利ではないな。
六区画、3色に塗り分けられてて、月・木、火・金、水・土がゴミ出しの日ということで、確かに、うっかり出しそこねたゴミを別の地区に持っていって捨てるときには便利かもしれない。
「使いみちに関しては、きみの友だちであるワタルが知っているはずだ。飛び上がって喜ぶよ」
ところでこれ、筒状にして向こう見たら壁が透けて見えたりする魔法の地図とかじゃないの、あ、逆さまだこりゃ、と、ミナセはうっきうきしながら、おれの頭をとんとん、と叩いた。
大正天皇かよ、あるいは極東軍事裁判の大川周明か。
*
「どどどどこでこれを!」
たしかにワタルは飛び上がって喜んだ。
公衆浴場の2階にある、居心地のよい休憩所兼ファミレスで、おれたち男子組と女子組は合流した。
クルミとコミーはもう、勝負に行ってるのよね、とミドリは言った。
女子組の残りの3人は、ゆるい普段着に着替えていて、いつもと印象が違うのは、ミドリはメガネを、ワタルは片目眼帯を外していて、ミロクはつやつやの髪と死んだ目をしていたせいだろう。
きっとごしごし、クルミに鬼のように洗われたんだろうな、鬼洗い。
ワタルの片目眼帯は、ときどき右目と左目を入れ替えたりするファッショナブル眼帯だけど、ミドリはこのメガネがないともののサイズが測れないのよね、という程度の実用性はあるらしい。
しかし、なんの勝負?
「歌に決まってんだろう、大浴場にはカラオケルームが隣接していで、個別浴槽も備わってるんだ」
フロカラオケ!
歌いながら入浴できる、いやその逆かな、たしかに風呂の中では歌いたくなるけどね。
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