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6・茶道 探偵部(仮)と謎の美少女

6-9・男・漢のカラオケ、略してオトカラ

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 大浴場に隣接している、入浴しながら歌えるカラオケ、つまりフロカラオケ。

 そんなもんに一緒に行けるわけはないだろう、と、ネコ探偵のクロキはおれとミナセを引っ張ってぐいぐい別のところに、つまり男性専用フロカラオケに引っ張った。

 中は中ぐらいの広さで、部屋の1/3ぐらいに風呂があって、掃除はゆきとどいている。

「さあ、俺たちは朝までオトコのカラオケを歌うのだ!」と、クロキは張り切っている。

 漢のカラオケ、つまりオトカラオケ。

 クロサは、さささっ、と自分たちが歌いたい曲を入力している。

 ここで疑問に思いたいのは、これは経費で落ちるのか、というのと、コミーの行動の理由および学校にまた来させるための手段が、こんなことではっきりするのか、だ。

     *

 十分後、おれはもうそんなことはどうでもよくなった。

 オトカラ、楽しい!

 クロキが歌ったのは、昔のロボットアニメの主題歌で、萌えはしないけど燃えるうえ、うろおぼえのやつばかりだった。

 ザブングル、バイファム、コードギアス、ザンボット、マイトガイン、リューボット……かろうじてファースト・ガンダムは知ってるような気がする。

 どういうのかというとは、JASRACがうるさいので教えられない。

 ときどき女子たちの様子の実況を、見られるところだけ見ていたミナセも、しだいに引きずり込まれてしまっている。

 クロキは歌がうまくて、うろおぼえの曲に関してはていねいにフォローしてくれて、画面に映るレトロフューチャーのアニメもかっこいい。

「わたしたちはもう帰ります」という通知が、クルミから来て、それから翌朝の作業についてもワタルから連絡があったけど、そんなことはどうでもいい。

 男女で仲良く、スカした、チャラい流行りの歌など、漢には無用!

「アニキの別名はミズキ、って言うんだ」と、相棒のクロサが教えてくれた。

 イチロー・ミズキか、どうりで。

 クルミの話では、カラオケ勝負は音域が違うのでコミーとはうまい勝いにはならなかったらしい。

 つまり、得意な曲がちょっと違う、ということである。

 あと、コミーはマイ・マイクを持っていた。

 送られた女子サイドの動画を確認すると、クルミとコミーのデュオ曲もいくつかあって、ふたりはすでに友だちのように見えた。

 クルミの謎のコミュ能力は何なんですかね、中小国家の姫のディプロマシーとかネゴシエーションみたいなもんなんだろうか。

 ミドリは……なんというか、ヘタじゃないけどボカロが歌ってるみたいだった。

 ワタルは噛みまくりだった、「ロマンチュのかみちゃま」ぐらい。

 ミロクは、ヒトには誰だって弱点はあ、と言いたくなるくらいただのノイズだった。

 しかし、コミーがわざわざ、自宅じゃなくてここに来る理由は「歌の練習」だな。

     *

 ぜんぜん眠れないまま、おれはがーがー寝ているミナセの目覚ましを、いつもより10分だけ早くセットして、学校のほうよろしく、とメモを残しておいた。

 そうすると、もうちょっと寝とくかー、と二度寝してしまい、一時間ぐらい遅刻してしまうのである、くくく。

 春はあけぼの、と言いたくなるくらいの春で、まだ暑くなりきらない太陽が、地上から上がりきらないトワイライト・タイムに、すこし寒さを感じながらも、おれとワタルは、クロキから仕入れた情報をもとに早朝の探索をすることにした。

 コミーは夜明けまで、学校の課題をせっせと片づけたあと、ちょっとした散歩にでかける、とクロキは教えてくれたのだった。
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