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6・茶道 探偵部(仮)と謎の美少女
6-10・カラスの呪い
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春はあけぼの、と言いたくなるくらいの春で、まだ暑くなりきらない太陽が、地上から上がりきらないトワイライト・タイムに、すこし寒さを感じながらも、おれとワタルは、クロキから仕入れた情報をもとに早朝の探索をすることにした。
コミーは夜明けまで、学校の課題をせっせと片づけたあと、ちょっとした散歩にでかける、とクロキは教えてくれたのだった。
闇が東の空から徐々に濃い青に、そして暗い赤に染まるころが東雲~曙で、一年のうちでは春がいい、とされている。
おれはワタルと待ち合わせして、ふたりでコミーの早朝の散歩を尾行した。
コミーは片手にバドミントンのラケット、もう片手に複数のシャトルが入った大きめの網を持っている。
夜半からワタルが仕掛けておいた「餌」の狙い通りに、カラスが生ゴミを漁っていて、コミーは物陰から手にしていた武器を取り出した。
高め、中くらい、ななめ横に、シャトルを上げると、ばし、と素早くカラスに当てる。
バドミントンのシャトルは世界一速い初速を持つ飛び道具で、時速500キロぐらいは出るらしい。
減速度も早いけど、数羽のカラスは、何が起こったかもわからないうちに狙い撃ちされて倒れてた。
殺されるほどではないけど、ほどほどに痛いらしい。
さて次、と打ち込むシャトルを、ワタルは1メートルぐらいの距離から素手で受け止めた。
「カラスをいじめてはいけない」と、ワタルは言った。
カラスがいつもより集まって生ゴミを荒らしていたのは、ワタルが部室からあちこちのゴミ収集所に、ネコを助手にしてばらまいておいたミカンの皮のせいだった。
ミカンじゃなくて日向夏という柑橘類の皮で、学校図書室の謎を解決したお礼に、図書委員のミカンちゃんからもらったものを、漢方系の薬材になるから、と干しておいたのだ。
カラスはなぜか、柑橘系の皮が好きなのである。
本当はもっとオレンジ油が残っているものがいいらしいけど、カラスは生ゴミの肉、特に脂身と同じようにがさごそ、カラスよけネットをくぐって、選んで食べていた。
「いじめちゃいねぇよ、害鳥駆除だっつーの」と、コミーは答えた。
コミーは口を聞かないで立ってると、特にモデル立ちをしていると、周辺10メートル以内の男子はみんな、はっ、という感じで呆然とするんだろうけど「あぁ、何見てんだこら」と、その口からアルトの江戸弁が出るのだった。
「きみは知ってる、噛みちゃまのワタルだっけ。で、一緒にいるやつは誰だよ」
前日会っただけなのに名前と特技を覚えている、つまりコミーは友だちが少ない子なのかもしれない。
別にワタルがキョドるのは、歌のときだけだけれども。
「部下」と、ワタルは答えた。
子分、と言ったクルミよりもひどい扱いだけど、コミーはなぜか納得している。
「コラ、おまえたち、ゴミをあさっちゃダメだろ! あとでいいもんあげるから!」と、ワタルはカラスたちに呼びかけた。
ゴミ漁りを積極的にしていたのはワタルのせいだろう。
「物陰からこっそり撃っても、カラスは驚くだけだ。「コラ」「ダメ」をしっかり言い続けると、顔と声を認識して、すばやく逃げるようになる。言うことをきかない不良系のカラスを退治するには、このようなものを使う」
そう言ってワタルは、特攻服みたいなつなぎの右ポケットからパチンコ玉、右上ポケットからスリングショットを出した。
「まず、殺傷力のないもので見本をお目にかける」と、ワタルは左のポケットから煎り大豆を出し、スリングショットをおれに渡した。
「あの木の上で、クッククー、とうるさいドバトがいるだろ、あれに当ててみよう」
ひゅん。
ひゅん。
ひゅん。
間をおいて、もうひとつ、ひゅん、と指弾。
「ハトは気配を感じて飛び立つから、その飛ぶ方向を察知して2発打つ。まさか最初に止まっていたところに玉が来ないだろう、と考えてるところに、ほら」
ハトは、ななななんじゃこりゃ、みたいな感じで、木の枝に止まったまま逆さにぶらさがった。
豆鉄砲をくらったハトだな。
「アメリカの潜水艦が日本の輸送船を沈めたみたいにやるんだ。魚雷回避して、同じコースをたどる魚雷はもうないだろう、と思ってるところに、どかーん」
ゲームだと、ヒトの家のタンスとか引き出しとかツボとか勝手に中身のぞいて、ひととおり見た結果なんにもないので引き上げようと思っても、実はもう一度ツボを覗くとお宝があったりする、という隠しパターンで、攻略サイトとか見ておくとその手の知識もつくのだった。
これでわかったのは、コミーは「早朝はバドミントンの練習をしている」ということだった。
昼休みが終わったら部室に行くから、と、ミナセを含むほかの部員には連絡して、おれは自宅に帰って寝ることにした。
しかし、やはり気になることが……。
コミーは引き続き、ワタルの説明を聞いていた。
コミーは夜明けまで、学校の課題をせっせと片づけたあと、ちょっとした散歩にでかける、とクロキは教えてくれたのだった。
闇が東の空から徐々に濃い青に、そして暗い赤に染まるころが東雲~曙で、一年のうちでは春がいい、とされている。
おれはワタルと待ち合わせして、ふたりでコミーの早朝の散歩を尾行した。
コミーは片手にバドミントンのラケット、もう片手に複数のシャトルが入った大きめの網を持っている。
夜半からワタルが仕掛けておいた「餌」の狙い通りに、カラスが生ゴミを漁っていて、コミーは物陰から手にしていた武器を取り出した。
高め、中くらい、ななめ横に、シャトルを上げると、ばし、と素早くカラスに当てる。
バドミントンのシャトルは世界一速い初速を持つ飛び道具で、時速500キロぐらいは出るらしい。
減速度も早いけど、数羽のカラスは、何が起こったかもわからないうちに狙い撃ちされて倒れてた。
殺されるほどではないけど、ほどほどに痛いらしい。
さて次、と打ち込むシャトルを、ワタルは1メートルぐらいの距離から素手で受け止めた。
「カラスをいじめてはいけない」と、ワタルは言った。
カラスがいつもより集まって生ゴミを荒らしていたのは、ワタルが部室からあちこちのゴミ収集所に、ネコを助手にしてばらまいておいたミカンの皮のせいだった。
ミカンじゃなくて日向夏という柑橘類の皮で、学校図書室の謎を解決したお礼に、図書委員のミカンちゃんからもらったものを、漢方系の薬材になるから、と干しておいたのだ。
カラスはなぜか、柑橘系の皮が好きなのである。
本当はもっとオレンジ油が残っているものがいいらしいけど、カラスは生ゴミの肉、特に脂身と同じようにがさごそ、カラスよけネットをくぐって、選んで食べていた。
「いじめちゃいねぇよ、害鳥駆除だっつーの」と、コミーは答えた。
コミーは口を聞かないで立ってると、特にモデル立ちをしていると、周辺10メートル以内の男子はみんな、はっ、という感じで呆然とするんだろうけど「あぁ、何見てんだこら」と、その口からアルトの江戸弁が出るのだった。
「きみは知ってる、噛みちゃまのワタルだっけ。で、一緒にいるやつは誰だよ」
前日会っただけなのに名前と特技を覚えている、つまりコミーは友だちが少ない子なのかもしれない。
別にワタルがキョドるのは、歌のときだけだけれども。
「部下」と、ワタルは答えた。
子分、と言ったクルミよりもひどい扱いだけど、コミーはなぜか納得している。
「コラ、おまえたち、ゴミをあさっちゃダメだろ! あとでいいもんあげるから!」と、ワタルはカラスたちに呼びかけた。
ゴミ漁りを積極的にしていたのはワタルのせいだろう。
「物陰からこっそり撃っても、カラスは驚くだけだ。「コラ」「ダメ」をしっかり言い続けると、顔と声を認識して、すばやく逃げるようになる。言うことをきかない不良系のカラスを退治するには、このようなものを使う」
そう言ってワタルは、特攻服みたいなつなぎの右ポケットからパチンコ玉、右上ポケットからスリングショットを出した。
「まず、殺傷力のないもので見本をお目にかける」と、ワタルは左のポケットから煎り大豆を出し、スリングショットをおれに渡した。
「あの木の上で、クッククー、とうるさいドバトがいるだろ、あれに当ててみよう」
ひゅん。
ひゅん。
ひゅん。
間をおいて、もうひとつ、ひゅん、と指弾。
「ハトは気配を感じて飛び立つから、その飛ぶ方向を察知して2発打つ。まさか最初に止まっていたところに玉が来ないだろう、と考えてるところに、ほら」
ハトは、ななななんじゃこりゃ、みたいな感じで、木の枝に止まったまま逆さにぶらさがった。
豆鉄砲をくらったハトだな。
「アメリカの潜水艦が日本の輸送船を沈めたみたいにやるんだ。魚雷回避して、同じコースをたどる魚雷はもうないだろう、と思ってるところに、どかーん」
ゲームだと、ヒトの家のタンスとか引き出しとかツボとか勝手に中身のぞいて、ひととおり見た結果なんにもないので引き上げようと思っても、実はもう一度ツボを覗くとお宝があったりする、という隠しパターンで、攻略サイトとか見ておくとその手の知識もつくのだった。
これでわかったのは、コミーは「早朝はバドミントンの練習をしている」ということだった。
昼休みが終わったら部室に行くから、と、ミナセを含むほかの部員には連絡して、おれは自宅に帰って寝ることにした。
しかし、やはり気になることが……。
コミーは引き続き、ワタルの説明を聞いていた。
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