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6・茶道 探偵部(仮)と謎の美少女

6-11・昼休みの来訪者

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 ひと眠り、不安な夢を見たあと昼休みに学校、のいつもの部室に行くと、きたきた、と、作戦会議をしていた部員たちは言った。

 ワタルは池のほうに行っている、とのこと。

「問題が解決したから、コミーは今日の放課後から学校に来れると思うのね」と、ミドリは言った。

「なんで学校に来てなかったのか、理由はわかったんだな」

「わからないけど、データがそろったから」

     *

「魔法でなんとかしてもいい、ってヤマダに言われたから、何日かだけはなんとかします、と答えたのです」と、クルミは言った。

「指人形は無理があるから、ホムンクルスかゴーレムを作ることにしたのね。クローン? それは魔術じゃなくて科学だし、時間がかかるのよね」

 ただし、ホムンクルスには生殖系に属するヒトの体液が必要らしい。

「ぼくは、体液注入するのはできるけど、抜くことは無理だからなー」と、ミナセは言った。

「コミーが寝てる間に、妖精の決死隊を何体か派遣して、そのうちの1体が血液採取に成功したのよね。で、音声と動きのデータがある程度揃ったから、池の近くの土でコミーを育ててんの」

 どんどん、と庵の戸口を叩く音がする。

 どんどん、どどんがどん。

 戸口は、横に開けば簡単にあくはずなんで、これは部員以外の誰か、つまりコミーのゴーレム、ゴミーに違いない。

「やあ、どうぞ奥へ」と、ミナセは案内した。

「あぁ?」

「しばらく調整すれば普通に日本語しゃべれるようになるのよね」と、ミドリは言った。

「あぁ?」

 できて間もないゴミーは、すこし湿った土のにおいがかすかにした。

 全裸ではなく、服はクルミがなんらかの方法で手配したという、新入生らしさとマジカルエフェクトらしさがところどころに感じられる、ちゃんとした学校の制服だった。

     *

「するとなにかい、なんだってぇのかい、あたしがにせもので、本物の代わりに学校に通え、ってぇのかい、冗談言っちゃいけねぇ」

 江戸弁っぽくするつもりなのが、方向すこし間違えたのね、と、ミドリは微調整した。

 やはり、コミーの代わり、というのが引っかかりどころらしい。

 あたしは誰かの代わりなんかじゃないっつーの、とゴミーは言い、たしかにその通りなんだよな。

 たとえついさっき、土と魔法で作られたにしても、人格があって、当人には思い出せない過去があるからには、ヒトとして扱ったほうがいいと思う。

 午後のクラス・ミーティングがはじまるから、一緒に教室行こうよ、と、クルミは誘って、しょうがねぇなあ、とゴミーは頭をかきながら部室を出ていった。

「コミーが学校に来れなかった理由は、別にいじめとか人間関係じゃなくて、単に時間帯が合わなかっただけだな」と、おれは言った。

「夜中のカラオケに、早朝の害鳥駆除、あ、ごめん、ワタル、えーと、知力の高い鳥への説教? その合間に勉強してるから、しょうがないかな」

「あのさあ」と、ソファから起きあがったミロクはずばりと言った。

 片手には、ミニサイズのコミーの魔法少女風フィギュア、もう片方の手には小さいガーゼ付き絆創膏を持っている。

「なんでコミーの足、片方がうまく動かない、ってこと読者に示さないんだよ、ぜんぜんダメなミステリーだろ、それじゃ」

 そう言いながらミロクは、フィギュアの右足にガーゼ付き絆創膏を貼った。

 えーと……おれ、説明してなかったかな?

 違和感を感じる、的なことは言ったけど、それがなにか、は隠してたかもしれない。

 コミーの右足は、ほんのすこし、気づくヒトには気づく程度にうまく上がっていない。

 バドミントンでショットするときも、通常、右利きのヒトが軸足にするのとは違う足だったけど、利き足・軸足は必ずしも利き腕とは違うことがあるわけで……。

 思い出したよ、ミロクがおれに、早朝ワタルと一緒に行動してくれ、と言ったのは、ワタルではなくてコミーをよく観察しろ、ということだったんだ。

 おれではなく、ミロクとワタルが一緒だったら、おれは伝聞情報でヒントを得なければいけなかった。
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