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第一章:逆行聖女
第8話:剣士アリシア 2
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まだ威圧感によって十分に動けるとは言い難い。
しかし、これ以上はどれだけ耐えようとも慣れることがないとアリシアは判断した。
ズシリと重い木剣を持ち上げながら前進、ネイドと一緒に素振りをしていた頃を思い出しながら渾身の一撃を放つ。
当然ながらアーノルドはそれを容易く受け止めると、腕を軽く押し出すだけでアリシアはたたらを踏んでしまう。
「くっ! ……でやああああっ!」
それでもすぐに構え直したアリシアは、再び木剣を握りしめて駆け出した。
何度も、何度もアーノルドが構える木剣へと自らの木剣をぶつけていく。
勝つためではなく、自分が本気なのだとアーノルドに知ってもらうために。
「はぁ、はぁ……くっ!」
しかし、今のアリシアは一〇歳の少女である。
体も同年代の女のこと比べると小さく、体力があるわけでもない。
限界はすぐに訪れ、アリシアは木剣を握り続けることができないほど疲労困憊になっていた。
「はぁ! はぁ! ふぅ! ふぅ!」
「呼吸を整えなさい、アリシア」
「は、はい! はぁ! はぁ……ふぅ……ふぅぅぅぅ……」
最初こそなかなか呼吸が整わなかったものの、目を閉じて精神に意識を集中させることで気持ちと同時に呼吸も落ち着いていく。
その様子を一言も発することなく見守っていたアーノルドは、頭の中でアリシアをどのように鍛えるべきかを考え始めていた。
「……ありがとう、お父さん」
「ん? はは、気にするな。それにしてもすごいじゃないか! ネイドよりも筋がいいんじゃないのか?」
「あはは! それは褒め過ぎだよー!」
アリシアはお世辞だと思っていたが、アーノルドは本気でそう思っていた。
アーノルドから見ればネイドの隣で遊びの延長で素振りをしていただけの少女なのだが、アリシアからすれば精神はれっきとした大人の女性のものである。
剣術も僅かに習った程度だったが、そこを大人の精神で理解して振り抜けば、当時のアリシアよりも力強く鋭い一撃になるのは当然だ。
さすがにそこまで想像を働かせることはできないが、アーノルドの中ではネイド以上、さらにいえば現役の自警団よりも強い剣士になれるのではないかと考えていた。
「ふーむ、そうなると、指導計画をしっかりと練らなければならないなぁ」
「そうなの?」
「あぁ。アリシアが本気で学びたいという思いはしっかりと伝わったからね。場当たり的な指導よりも、しっかりと教えてあげた方がいいと思ったんだよ」
とはいえ、今ここで何も指示を出さないというわけではなかった。
「ただ、現時点での指摘としては、やはり体力がないところだな」
「うっ! ……そこはまあ、そうだよね」
「だから、ひとまずは友達と一緒に走り回って遊びなさい」
「えっ?」
「子供の体力というものは、元気よく遊んでつけるものだからね」
そう口にしたアーノルドは柔和な笑みを浮かべ、大きな手で優しくアリシアの頭を撫でた。
「……これで終わり、じゃないよね?」
「もちろんだ。私はこれからアリシアにあった指導計画を立てないといけないからね。体力をつけるのも大変だけど、楽しみながらできればそれに越したことはないさ」
アリシアが手放した木剣を拾い上げながら、アーノルドは大きく伸びをした。
「とはいえ、まずはお昼からだけどね」
「えっ? 何を言っているのよ、お父さん。まだ朝ご飯を食べたばっかり――」
――ぐううぅぅぅぅ。
「……あ、あれ~?」
「ははははっ! アリシアは本当に集中していたんだね。今はもう、お昼前の時間だよ?」
「え……ええええぇぇええぇぇっ!?」
朝から始めた剣の指導だが、集中するあまり時間経過が全くわからなくなっていた。
それでも何時間も経っているとは思っておらず、長くても一時間くらいだと思っていた。
「も、もうそんな時間なの! 大変、何も準備していないよ!」
「これから一緒に準備をしたらいいじゃないか」
「それはそうだけど……はぁぁ、ごめんなさい、お父さん」
「謝る必要なんてないさ。さあ、まずは家に入ろうか」
「……うん」
どこまでも優しいアーノルドに感謝しながら、アリシアは一緒に家の中へ入り昼ご飯の準備を始めたのだった。
しかし、これ以上はどれだけ耐えようとも慣れることがないとアリシアは判断した。
ズシリと重い木剣を持ち上げながら前進、ネイドと一緒に素振りをしていた頃を思い出しながら渾身の一撃を放つ。
当然ながらアーノルドはそれを容易く受け止めると、腕を軽く押し出すだけでアリシアはたたらを踏んでしまう。
「くっ! ……でやああああっ!」
それでもすぐに構え直したアリシアは、再び木剣を握りしめて駆け出した。
何度も、何度もアーノルドが構える木剣へと自らの木剣をぶつけていく。
勝つためではなく、自分が本気なのだとアーノルドに知ってもらうために。
「はぁ、はぁ……くっ!」
しかし、今のアリシアは一〇歳の少女である。
体も同年代の女のこと比べると小さく、体力があるわけでもない。
限界はすぐに訪れ、アリシアは木剣を握り続けることができないほど疲労困憊になっていた。
「はぁ! はぁ! ふぅ! ふぅ!」
「呼吸を整えなさい、アリシア」
「は、はい! はぁ! はぁ……ふぅ……ふぅぅぅぅ……」
最初こそなかなか呼吸が整わなかったものの、目を閉じて精神に意識を集中させることで気持ちと同時に呼吸も落ち着いていく。
その様子を一言も発することなく見守っていたアーノルドは、頭の中でアリシアをどのように鍛えるべきかを考え始めていた。
「……ありがとう、お父さん」
「ん? はは、気にするな。それにしてもすごいじゃないか! ネイドよりも筋がいいんじゃないのか?」
「あはは! それは褒め過ぎだよー!」
アリシアはお世辞だと思っていたが、アーノルドは本気でそう思っていた。
アーノルドから見ればネイドの隣で遊びの延長で素振りをしていただけの少女なのだが、アリシアからすれば精神はれっきとした大人の女性のものである。
剣術も僅かに習った程度だったが、そこを大人の精神で理解して振り抜けば、当時のアリシアよりも力強く鋭い一撃になるのは当然だ。
さすがにそこまで想像を働かせることはできないが、アーノルドの中ではネイド以上、さらにいえば現役の自警団よりも強い剣士になれるのではないかと考えていた。
「ふーむ、そうなると、指導計画をしっかりと練らなければならないなぁ」
「そうなの?」
「あぁ。アリシアが本気で学びたいという思いはしっかりと伝わったからね。場当たり的な指導よりも、しっかりと教えてあげた方がいいと思ったんだよ」
とはいえ、今ここで何も指示を出さないというわけではなかった。
「ただ、現時点での指摘としては、やはり体力がないところだな」
「うっ! ……そこはまあ、そうだよね」
「だから、ひとまずは友達と一緒に走り回って遊びなさい」
「えっ?」
「子供の体力というものは、元気よく遊んでつけるものだからね」
そう口にしたアーノルドは柔和な笑みを浮かべ、大きな手で優しくアリシアの頭を撫でた。
「……これで終わり、じゃないよね?」
「もちろんだ。私はこれからアリシアにあった指導計画を立てないといけないからね。体力をつけるのも大変だけど、楽しみながらできればそれに越したことはないさ」
アリシアが手放した木剣を拾い上げながら、アーノルドは大きく伸びをした。
「とはいえ、まずはお昼からだけどね」
「えっ? 何を言っているのよ、お父さん。まだ朝ご飯を食べたばっかり――」
――ぐううぅぅぅぅ。
「……あ、あれ~?」
「ははははっ! アリシアは本当に集中していたんだね。今はもう、お昼前の時間だよ?」
「え……ええええぇぇええぇぇっ!?」
朝から始めた剣の指導だが、集中するあまり時間経過が全くわからなくなっていた。
それでも何時間も経っているとは思っておらず、長くても一時間くらいだと思っていた。
「も、もうそんな時間なの! 大変、何も準備していないよ!」
「これから一緒に準備をしたらいいじゃないか」
「それはそうだけど……はぁぁ、ごめんなさい、お父さん」
「謝る必要なんてないさ。さあ、まずは家に入ろうか」
「……うん」
どこまでも優しいアーノルドに感謝しながら、アリシアは一緒に家の中へ入り昼ご飯の準備を始めたのだった。
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