29 / 99
第一章:逆行聖女
第29話:自警団員アリシア 7
しおりを挟む
いったい何を話せばいいのかと考えていると、シエナはくすりと笑いながら口を開いた。
「団長のことが気になるの?」
「……えっ?」
突然の質問にアリシアはどう答えるべきか悩んでしまう。
そんな彼女の様子を見てか、シエナは続けて話をしていく。
「団長って、何か危ないことがあるとああやって分隊長だけを集めるのよ」
「……そ、そうなんですか?」
「うん。だから、今回も何かあったんだろうなーって思っているんだけど、それがなんなのかはわからなかったりするのよ」
「……わからないんですか?」
まさかの答えにアリシアは困惑してしまう。
しかし、その答えはすぐにシエナから口にされた。
「危ないことを自分と分隊長だけで抱えて、下の団員には無理をさせないって感じかな。まあ、団員は誰もそんなこと望んでいないんだけどね」
自分たちもディラーナ村の危機を一緒になって救いたい、そう考えている自警団員の方が大半だった。
よく見ると訓練に身が入っていなかったのはアリシアだけではなく、他の自警団員たちも詰め所に視線を送っている者が多かった。
「だからさ、私はアリシアちゃんが事情を知っているなら聞いておきたかったんだよね」
「そ、それは……」
そこまで口にしたアリシアは、横目でヴァイスとジーナを見た。
もしも二人に聞かれてしまえば、父親の形を取るために自ら危険へ飛び込んでいってしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
アリシアが二人のことを気にしていると気づいたシエナは、僅かに立ち位置を変えた。
「……シエナさん?」
「これで私からも、アリシアちゃんからも、二人が見えるでしょ? 大丈夫、二人が聞き耳を立てていると思ったら黙ってもいいからさ」
ニコリと笑いながらそう口にされたアリシアは、少しだけ内容を変えてシエナに伝えることにした。
「……実は、森の中で一際大きなシザーベアが目撃されたみたいなんです」
「シザーベアが? うーん、そんな情報、自警団には入ってきていないけどなぁ」
「お父さんに直接報告があったみたいで、たぶんそのことを話し合っているんだと思います」
アリシアが伝えたこと、そしてヴォルスを殺した個体であることは伏せた。
シエナがこの説明で納得してくれるかはわからないが、それでも今のアリシアにできる最大限の説明だった。
「……シザーベアかぁ」
「……どうしたんですか?」
「……団長、ヴォルスさんのことを言っていなかった?」
「ど、どうしてそれを!?」
驚いたアリシアは僅かに声を大きくしてしまう。
するとヴァイスとジーナがこちらに視線を向けたものの、シエナが笑いながら軽く手を振ると、首を傾げたもののそのまま訓練に戻っていった。
「……す、すみません、シエナさん」
「ううん、いいのよ。でも……そっかぁ。やっぱりねぇ」
「……シエナさんも、ヴォルスさんのことを知っているんですか?」
アリシアの言葉にシエナは珍しく困惑顔を浮かべたものの、小さく息を吐き出してから口を開いた。
「……私も助けられたの」
「……えっ?」
「三年前。ヴォルスさん……いいえ、副団長が亡くなったあの日、私も助けられた自警団員の一人だったのよ」
まさかの事実にアリシアは両手で口を押えながら驚いてしまう。
シエナは一九歳と自警団の中でも若い方に入る。
三年前となれば彼女は一六歳だが、そんな少女が自警団に入っており、なおかつシザーベアと相対していたのかと考えると、当時の恐怖は計り知れなかっただろう。
「最初こそやってやるって気持ちだったんだけど、あのシザーベアを目の当りにしたら、心が折れちゃったんだよね」
「……そんなに怖い、魔獣なんですか?」
「シザーベア自体がそうじゃないのよ。ただ、あの個体だけは特別だったのかもしれないわ」
「お父さんは、森の主かもしれないと言っていました」
アリシアがそう伝えたところで、シエナは腕を組み考え込んでしまう。
その姿に不安を覚えたアリシアだったが、シエナはすぐに視線を彼女に戻してニコリと笑った。
「まあ、団長たちがきっとなんとかしてくれるでしょう! 何せ、剛剣のアーノルドだもんね!」
「……はい」
シエナの言葉にアリシアも笑って答えたが、心の底から笑うことはできなかった。
何故ならアリシアは知っているから。
このままではアーノルドが剣を持つことができなくなるかもしれないということに。
――結局この日、アーノルドから自警団員にシザーベアのことが伝えられることはなかった。
「団長のことが気になるの?」
「……えっ?」
突然の質問にアリシアはどう答えるべきか悩んでしまう。
そんな彼女の様子を見てか、シエナは続けて話をしていく。
「団長って、何か危ないことがあるとああやって分隊長だけを集めるのよ」
「……そ、そうなんですか?」
「うん。だから、今回も何かあったんだろうなーって思っているんだけど、それがなんなのかはわからなかったりするのよ」
「……わからないんですか?」
まさかの答えにアリシアは困惑してしまう。
しかし、その答えはすぐにシエナから口にされた。
「危ないことを自分と分隊長だけで抱えて、下の団員には無理をさせないって感じかな。まあ、団員は誰もそんなこと望んでいないんだけどね」
自分たちもディラーナ村の危機を一緒になって救いたい、そう考えている自警団員の方が大半だった。
よく見ると訓練に身が入っていなかったのはアリシアだけではなく、他の自警団員たちも詰め所に視線を送っている者が多かった。
「だからさ、私はアリシアちゃんが事情を知っているなら聞いておきたかったんだよね」
「そ、それは……」
そこまで口にしたアリシアは、横目でヴァイスとジーナを見た。
もしも二人に聞かれてしまえば、父親の形を取るために自ら危険へ飛び込んでいってしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
アリシアが二人のことを気にしていると気づいたシエナは、僅かに立ち位置を変えた。
「……シエナさん?」
「これで私からも、アリシアちゃんからも、二人が見えるでしょ? 大丈夫、二人が聞き耳を立てていると思ったら黙ってもいいからさ」
ニコリと笑いながらそう口にされたアリシアは、少しだけ内容を変えてシエナに伝えることにした。
「……実は、森の中で一際大きなシザーベアが目撃されたみたいなんです」
「シザーベアが? うーん、そんな情報、自警団には入ってきていないけどなぁ」
「お父さんに直接報告があったみたいで、たぶんそのことを話し合っているんだと思います」
アリシアが伝えたこと、そしてヴォルスを殺した個体であることは伏せた。
シエナがこの説明で納得してくれるかはわからないが、それでも今のアリシアにできる最大限の説明だった。
「……シザーベアかぁ」
「……どうしたんですか?」
「……団長、ヴォルスさんのことを言っていなかった?」
「ど、どうしてそれを!?」
驚いたアリシアは僅かに声を大きくしてしまう。
するとヴァイスとジーナがこちらに視線を向けたものの、シエナが笑いながら軽く手を振ると、首を傾げたもののそのまま訓練に戻っていった。
「……す、すみません、シエナさん」
「ううん、いいのよ。でも……そっかぁ。やっぱりねぇ」
「……シエナさんも、ヴォルスさんのことを知っているんですか?」
アリシアの言葉にシエナは珍しく困惑顔を浮かべたものの、小さく息を吐き出してから口を開いた。
「……私も助けられたの」
「……えっ?」
「三年前。ヴォルスさん……いいえ、副団長が亡くなったあの日、私も助けられた自警団員の一人だったのよ」
まさかの事実にアリシアは両手で口を押えながら驚いてしまう。
シエナは一九歳と自警団の中でも若い方に入る。
三年前となれば彼女は一六歳だが、そんな少女が自警団に入っており、なおかつシザーベアと相対していたのかと考えると、当時の恐怖は計り知れなかっただろう。
「最初こそやってやるって気持ちだったんだけど、あのシザーベアを目の当りにしたら、心が折れちゃったんだよね」
「……そんなに怖い、魔獣なんですか?」
「シザーベア自体がそうじゃないのよ。ただ、あの個体だけは特別だったのかもしれないわ」
「お父さんは、森の主かもしれないと言っていました」
アリシアがそう伝えたところで、シエナは腕を組み考え込んでしまう。
その姿に不安を覚えたアリシアだったが、シエナはすぐに視線を彼女に戻してニコリと笑った。
「まあ、団長たちがきっとなんとかしてくれるでしょう! 何せ、剛剣のアーノルドだもんね!」
「……はい」
シエナの言葉にアリシアも笑って答えたが、心の底から笑うことはできなかった。
何故ならアリシアは知っているから。
このままではアーノルドが剣を持つことができなくなるかもしれないということに。
――結局この日、アーノルドから自警団員にシザーベアのことが伝えられることはなかった。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる