逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

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第二章:自由と束縛と

第87話:冒険者アリシア 12

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 自らの足でアリシアとゼーアのもとに戻ってきたケイナだったが、その体には鎖で打ち据えられた跡が痛々しく残っていた。

「もう! 無理はしないでって言ったでしょう!」
「あれは生理的に無理な話ですよね? それに、私は無理をしていませんよ?」
「女の子の体にこんな傷……あの男、どうしてやりましょうか?」
「おいおい、すげぇ怖いこと言ってんぞ、アリシアよう」
「はっ! そんなことより、まずは傷の手当てをしなきゃだよね!」

 呆れたようにゼーアが声を掛けると、ハッとした様子でアリシアはまたケイナへ視線を戻して両手を傷跡に添えた。
 直後には暖かな白い光が顕現し、あっという間にケイナの体に残っていた傷跡が消えてしまった。

「……うわぁ、何度見てもすごいです! ありがとうございます、アリシア様!」
「これくらいどうってことないわよ!」
「それにしてもケイナもやるじゃないか。すこーしだけ見直したぜ」
「ゼーアさん! すこーしじゃなくて、いーっぱい見直してくださいよ!」
「それにはまだまだ足りんな!」

 アリシアたちが普段通りの会話を繰り広げている中、ガルアは怒りにわなわなと拳を震わせ、眼光だけで射殺してしまえそうな視線をアリシアへ向けた。

「ふざけんじゃねえぞてめえら!」
「……すでにこちらは二勝、そちらの負けは決定ですね」
「バカ言ってんじゃねえぞ! 俺がいる! こんなザコに任せたのが間違いだったんだ、俺様がてめえら三人をまとめて相手してやるよ!」

 そう言ったガルアは背負っていた大剣を抜き放つと、そのまま地面に突き刺した。
 ゼーアが使う大剣よりも長く、太く、重い。
 一撃の威力で言えばこの場にいる誰よりも強烈なものを持っているかもしれない。

「俺様がてめえら三人をぶっ殺せば、俺様の勝ちだ!」
「やり過ぎですよ、ガルア」
「外野は引っ込んでろ!」
「私は審判であり、ギルドマスターです。この場であなたを裁くこともできるのですよ?」
「……あぁん? 言ってくれるじゃねぇか、ババアが!」

 怒りの矛先がアリシアからメリダへ向かおうとした――その時である。

「いいわ、やりましょう」
「……てめぇ、いい度胸してるじゃねえか!」
「アリシアさん、意味のない争いは避けるべきでは?」
「ここで避けたとしても、どうせ別の所で絡まれますよ。そうなると、そっちの方が面倒です」
「かかか、わかってるじゃねえか!」

 アリシアの言葉にニヤリと笑いながら肯定を口にしたガルアを見て、メリダはため息をつきながら彼女の耳元で囁いた。

「……勝てるのですか? 彼は他の二人とは違い、強いですよ?」
「そうですか? 私から見れば、お父さんの方が強かったのでどうとでもなると思います」

 ガルアを刺激しないよう囁き声で問い掛けたメリダだったが、それを気にすることもなくアリシアはいつもと同じトーンで返事をする。
 その声は当然ながらガルアにも届いており、彼はこめかみをピクピクさせるほどの怒りを覚えていた。

「挑発も簡単ですね」
「……もしや、あなたも問題児ですか?」
「そんなつもりはありませんよ? ただ、理不尽に売られたケンカは叩き潰したい、それだけです」
「……はぁ。わかりましたが、無茶だけはしないように」
「お心遣い感謝いたします、メリダさん」

 そう口にしたアリシアは最後に笑みを浮かべると、愛剣を抜いて訓練場の中央へ移動する。
 ゼーアもケイナも彼女が負けるとは微塵も思っておらず、二人の姿を見たメリダも覚悟を決めた。

「二人とも、準備はよろしいですか?」

 メリダが二人の間に立って確認を取ると、同時に頷いた。

「……わかりました。それでは試合――」
「ぶっ殺す!」
「ガルア! 止まりなさい!」

 ガルアはメリダの開始の合図を待たず、制止の声も聞かず、アリシアめがけて突っ込んでいった。
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