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第二章:自由と束縛と
第88話:冒険者アリシア 13
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完全なる不意打ちだったが、アリシアは冷静にガルアの一撃を見極めて軽やかに回避してみせる。
「まるで野獣ね……いいえ、魔獣、かしら?」
「てめぇ、やるじゃねえか!」
重量のある大剣を振り抜いているとは思えないほどの鋭さに、周囲の冒険者からは感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
リティに至ってはメリダに抗議の声をあげていた。
傍から見ればガルア攻勢に見えるかもしれないが、実際に相対している彼からするとそうも言えなかった。
(くそっ! この女、マジでやるじゃねえかよ!)
「どうしたんですか? 先輩?」
「こいつ! ぶっ殺してやる!」
アリシアがくすりと微笑みながらそう口にすると、ガルアの表情が怒りに染まる。
外で遭遇戦ということであればもしかすると平等な条件での試合になったかもしれない。
しかしここは訓練場であり、この場をよく理解しているのはガルアだ。
「どりゃあ!」
「うっ!?」
地面の砂を蹴り上げてアリシアの視界を妨げる。
咄嗟に腕を上げたことで目に入ることは避けられたが、この一瞬の隙を見逃すガルアではない。
「どらああああっ!」
渾身の袈裟斬りが舞い上がった砂を弾き飛ばしながらアリシアへと迫っていく。
「アリシアさん!」
リティの悲鳴に似た声が響き渡る中、アリシア自身はというと全く焦ってはいなかった。
砂を舞い上げた攻撃に対して腕を上げていたが、これは砂を防ぐために上げたわけではなかった。
相手にそう見えるよう上げただけで、本当の目的は別にある。
それは――ガルアに渾身の一振りを出させるためだった。
「……終わりね」
「て、てめえ!」
ガルアの目線からははっきり見えてしまった。
腕に隠されたアリシアの瞳が、今もなお閉じられていることに。
「俺を、誘い出しやがったな!」
誘い出されたことに気づいたガルアだったが、すぐに思考を切り替える。
すでに振り抜かれている渾身の袈裟斬りを、当ててさえしまえば勝利を手にできるのだと。
「うおおおおっ!!」
気合いを乗せた一撃はさらに加速していく。
一秒にも満たない加速だが、それが試合を決することも実力者同士の戦いであれば少なくない。
それだけガルアはアリシアの実力を認めたことになるが、そのことに彼は気づいていない。
ただ勝つ、その思いから気合いの乗った一撃に昇華させたのだ。
「――遅いわ」
しかし、アリシアにはガルアの渾身の袈裟斬りの軌道が完璧に読めていた。
足場が砂という動きづらい場所なのだが、アリシアは意にも介さず巧みな足さばきから華麗な回避をみせる。
大剣が地面に埋まり、ガルアは腰に差していた短剣を素早く抜き放つ――が、この時にはすでに彼の背後に回り込んでおり、首筋に刃が当てられていた。
「……参った」
「礼儀を教えていただき、ありがとうございました」
そう口にしたアリシアが剣を引くと、ガルアは噴き出していた汗を拭いながら彼女を睨みつける。
しかし、これ以上何か暴言を吐くということはなく、小さく舌打ちをしただけで目を覚ましたエビとガーニを引き連れて訓練場を去っていった。
「お疲れさん」
「お疲れ様です、アリシア様!」
一方でアリシアは仲間たちのもとへと戻り労いの言葉を掛けられていた。
「三連勝だね!」
「当然ですよ!」
「俺は完全に不完全燃焼だったがなー」
「それなら予定通り、もう一つ依頼を受けていきましょうか?」
「いいぜ! 魔獣狩りなら俺にやらせてくれよ! 鬱憤を晴らしてやるぜ!」
不完全燃焼のゼーアのために何か依頼でもと話していた三人だったが――
「お見事でした、皆さん」
「よかったですー!」
メリダが柔和な笑みを浮かべながら、リティは涙目になりながら声を掛けてきた。
「まるで野獣ね……いいえ、魔獣、かしら?」
「てめぇ、やるじゃねえか!」
重量のある大剣を振り抜いているとは思えないほどの鋭さに、周囲の冒険者からは感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
リティに至ってはメリダに抗議の声をあげていた。
傍から見ればガルア攻勢に見えるかもしれないが、実際に相対している彼からするとそうも言えなかった。
(くそっ! この女、マジでやるじゃねえかよ!)
「どうしたんですか? 先輩?」
「こいつ! ぶっ殺してやる!」
アリシアがくすりと微笑みながらそう口にすると、ガルアの表情が怒りに染まる。
外で遭遇戦ということであればもしかすると平等な条件での試合になったかもしれない。
しかしここは訓練場であり、この場をよく理解しているのはガルアだ。
「どりゃあ!」
「うっ!?」
地面の砂を蹴り上げてアリシアの視界を妨げる。
咄嗟に腕を上げたことで目に入ることは避けられたが、この一瞬の隙を見逃すガルアではない。
「どらああああっ!」
渾身の袈裟斬りが舞い上がった砂を弾き飛ばしながらアリシアへと迫っていく。
「アリシアさん!」
リティの悲鳴に似た声が響き渡る中、アリシア自身はというと全く焦ってはいなかった。
砂を舞い上げた攻撃に対して腕を上げていたが、これは砂を防ぐために上げたわけではなかった。
相手にそう見えるよう上げただけで、本当の目的は別にある。
それは――ガルアに渾身の一振りを出させるためだった。
「……終わりね」
「て、てめえ!」
ガルアの目線からははっきり見えてしまった。
腕に隠されたアリシアの瞳が、今もなお閉じられていることに。
「俺を、誘い出しやがったな!」
誘い出されたことに気づいたガルアだったが、すぐに思考を切り替える。
すでに振り抜かれている渾身の袈裟斬りを、当ててさえしまえば勝利を手にできるのだと。
「うおおおおっ!!」
気合いを乗せた一撃はさらに加速していく。
一秒にも満たない加速だが、それが試合を決することも実力者同士の戦いであれば少なくない。
それだけガルアはアリシアの実力を認めたことになるが、そのことに彼は気づいていない。
ただ勝つ、その思いから気合いの乗った一撃に昇華させたのだ。
「――遅いわ」
しかし、アリシアにはガルアの渾身の袈裟斬りの軌道が完璧に読めていた。
足場が砂という動きづらい場所なのだが、アリシアは意にも介さず巧みな足さばきから華麗な回避をみせる。
大剣が地面に埋まり、ガルアは腰に差していた短剣を素早く抜き放つ――が、この時にはすでに彼の背後に回り込んでおり、首筋に刃が当てられていた。
「……参った」
「礼儀を教えていただき、ありがとうございました」
そう口にしたアリシアが剣を引くと、ガルアは噴き出していた汗を拭いながら彼女を睨みつける。
しかし、これ以上何か暴言を吐くということはなく、小さく舌打ちをしただけで目を覚ましたエビとガーニを引き連れて訓練場を去っていった。
「お疲れさん」
「お疲れ様です、アリシア様!」
一方でアリシアは仲間たちのもとへと戻り労いの言葉を掛けられていた。
「三連勝だね!」
「当然ですよ!」
「俺は完全に不完全燃焼だったがなー」
「それなら予定通り、もう一つ依頼を受けていきましょうか?」
「いいぜ! 魔獣狩りなら俺にやらせてくれよ! 鬱憤を晴らしてやるぜ!」
不完全燃焼のゼーアのために何か依頼でもと話していた三人だったが――
「お見事でした、皆さん」
「よかったですー!」
メリダが柔和な笑みを浮かべながら、リティは涙目になりながら声を掛けてきた。
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