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第二章:自由と束縛と
第93話:シルバー冒険者アリシア 2
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村に到着して早々、おかしなことになっているとアリシアたちは気づいた。
というのも、村の様子が魔獣に襲われているといった雰囲気ではないのだ。
「……至って普通ですね」
「……そうだな」
「……もしかして、問題が解決しちゃったんですかね?」
大きな都市から離れた小さな村ではよくある話で、たまたま訪れた冒険者が村人に懇願されて問題を解決してしまったパターンだ。
冒険者と依頼人が直接やり取りをして、解決したら報酬も直接渡す。
報酬を自分たちで交渉できるのでお互いが納得できれば問題ないのだが、場合によっては問題が生じることもあり、冒険者ギルドでは推奨されていない。
「報酬が折り合わずにその場を離れるってだけならいいんだが、中には受けた依頼を途中で放り出して、怒った魔獣が近隣の村を見境なしに襲う、なんて話もあったわね」
「なんですかそれ、怖いですよ」
「すでに解決しているならいいが、依頼した冒険者が討伐中とかだとマズいな」
「そうですね。一応、こっちは正式に依頼を受けた立場なので話を聞いてみましょう」
もともとは冒険者ギルドを通した依頼であり、それを受けたアリシアたちは状況を知る権利がある。
アリシアたちはリティから教えられていた村長の家を訪ねると、そこで黒髪の青年と顔を合わせた。
「あの、村長さんはいらっしゃいますか?」
「……なんで、お前がここに?」
「……ん? 私がどうかしましたか?」
アリシアは青年のことを知らないはずだが、相手はアリシアの顔を見て驚いた表情を浮かべている。
今世のアリシアの記憶だけではなく、前世の記憶まで遡ってみたものの、青年が誰なのか思い出せないでいた。
「どうしたんだ、アリシア?」
「お知合いですか、アリシア様?」
「えっと、その……」
「やっぱりアリシアか! お前、俺が誰だか忘れたのか?」
青年はとても悲しそうな表情でアリシアを見ているが、それでも思い出せないことに申し訳なさが募ってくる。
そこへアリシアたちの声を聞いた村長と思しき老人が家の奥から姿を現した。
「おや? どうしたのですかな、ネイド殿?」
「ネイド? ……ネイ、ド…………ええええぇぇっ! ネ、ネイド兄なのおおおおぉぉっ!!」
「そうだよ! ネイドだよ、ディラーナ村でアーノルドさんに剣を教えてもらったネイド!」
まさかこのような場所で同郷の、それもアリシアからすれば兄弟子と言っても過言ではないネイドと再会できるなど、夢にも思わなかった。
アリシアは彼が父親のアーノルドから剣を習っている姿を見て、自らも剣を振ってみようと考えた、いわばきっかけを与えてくれた人物でもある。
一つ年上のヴァイスと同じように、アリシアはネイドのことも実の兄のように慕っていた。
「どうしてここにいるの! それよりも、久しぶりだねー!」
「それはこっちのセリフだっての。いったいどうしてこの村に? っていうか、ディラーナ村を出たのか? アーノルドさんは?」
「ちょっと待って! 聞きたいことは私も多いけど、まずは事情を説明しないと! みんなもだけど、村長さんも困ってるよ!」
一緒にいるゼーアやケイナだけではなく、あとから顔を出した村長も困惑顔を浮かべている。
「おっと、そうだったな。俺はラクドウィズに用があって向かっている途中でこの村に寄ったんだ。そしたら魔獣被害を受けていると聞いてな」
「私たちは冒険者ギルドで魔獣討伐依頼を受けてここに来たの。彼らは私のパーティメンバーだよ」
話の流れからゼーアとケイナを紹介し、アリシアたちは本題へ入っていく。
「村の様子を見ると、みんな普段通りの生活をしているみたいだけど、もう解決しちゃったの?」
「あー、すまん。特に強敵でもなかったからな、終わらせてしまった」
「あぁぁ、申し訳ございません、冒険者殿。一刻も早く魔獣被害を減らしたく思い、無理を承知でネイド殿にお願いしてしまったのです。まさか、こうも早く依頼を受けてくれる冒険者殿がいるとは思いもしませんで」
「ううん、いいんですよ。被害が少ない方がいいですものね。でも、その場合の報酬はどうなるの?」
アリシアは視線をネイドへ向けた。
「本来なら村長と一緒にラクドウィズまで行って事情を説明、それから報酬を俺が受け取る予定だったんだが……この依頼、アリシアたちが達成したことにした方が話が早そうだな」
「そ、それはダメだよ! 私たちは何もしていないんだから!」
「だが、村長も一緒の移動となるとそれなりに時間が掛かるぞ?」
「ほ、本当に申し訳ございません」
恐縮しきりの村長を見たネイドは腕組みして考え始めたが、アリシアは一つの提案を口にした。
「それじゃあ、私たちがギルドマスターに話を通してみますよ。それで、ネイドが依頼を終わらせたことも説明します」
「……ギルドマスターにか?」
「これでもギルドマスターのメリダさんとは良い関係を築いているんだからね」
胸を張りながらそう口にしたアリシアを見て、ネイドは最初こそ驚いた様子だったがすぐに笑みを浮かべた。
「……はは、分かったよ。そういうことだ、村長。俺たちだけでラクドウィズへ向かうから、あとは任せてくれ」
「本当に何から何までありがとうございました。冒険者殿も本当にありがとうございます」
「いえいえ。それじゃあ行きますね」
こうしてアリシアは、思いがけない再会と共にラクドウィズへ戻っていったのだった。
というのも、村の様子が魔獣に襲われているといった雰囲気ではないのだ。
「……至って普通ですね」
「……そうだな」
「……もしかして、問題が解決しちゃったんですかね?」
大きな都市から離れた小さな村ではよくある話で、たまたま訪れた冒険者が村人に懇願されて問題を解決してしまったパターンだ。
冒険者と依頼人が直接やり取りをして、解決したら報酬も直接渡す。
報酬を自分たちで交渉できるのでお互いが納得できれば問題ないのだが、場合によっては問題が生じることもあり、冒険者ギルドでは推奨されていない。
「報酬が折り合わずにその場を離れるってだけならいいんだが、中には受けた依頼を途中で放り出して、怒った魔獣が近隣の村を見境なしに襲う、なんて話もあったわね」
「なんですかそれ、怖いですよ」
「すでに解決しているならいいが、依頼した冒険者が討伐中とかだとマズいな」
「そうですね。一応、こっちは正式に依頼を受けた立場なので話を聞いてみましょう」
もともとは冒険者ギルドを通した依頼であり、それを受けたアリシアたちは状況を知る権利がある。
アリシアたちはリティから教えられていた村長の家を訪ねると、そこで黒髪の青年と顔を合わせた。
「あの、村長さんはいらっしゃいますか?」
「……なんで、お前がここに?」
「……ん? 私がどうかしましたか?」
アリシアは青年のことを知らないはずだが、相手はアリシアの顔を見て驚いた表情を浮かべている。
今世のアリシアの記憶だけではなく、前世の記憶まで遡ってみたものの、青年が誰なのか思い出せないでいた。
「どうしたんだ、アリシア?」
「お知合いですか、アリシア様?」
「えっと、その……」
「やっぱりアリシアか! お前、俺が誰だか忘れたのか?」
青年はとても悲しそうな表情でアリシアを見ているが、それでも思い出せないことに申し訳なさが募ってくる。
そこへアリシアたちの声を聞いた村長と思しき老人が家の奥から姿を現した。
「おや? どうしたのですかな、ネイド殿?」
「ネイド? ……ネイ、ド…………ええええぇぇっ! ネ、ネイド兄なのおおおおぉぉっ!!」
「そうだよ! ネイドだよ、ディラーナ村でアーノルドさんに剣を教えてもらったネイド!」
まさかこのような場所で同郷の、それもアリシアからすれば兄弟子と言っても過言ではないネイドと再会できるなど、夢にも思わなかった。
アリシアは彼が父親のアーノルドから剣を習っている姿を見て、自らも剣を振ってみようと考えた、いわばきっかけを与えてくれた人物でもある。
一つ年上のヴァイスと同じように、アリシアはネイドのことも実の兄のように慕っていた。
「どうしてここにいるの! それよりも、久しぶりだねー!」
「それはこっちのセリフだっての。いったいどうしてこの村に? っていうか、ディラーナ村を出たのか? アーノルドさんは?」
「ちょっと待って! 聞きたいことは私も多いけど、まずは事情を説明しないと! みんなもだけど、村長さんも困ってるよ!」
一緒にいるゼーアやケイナだけではなく、あとから顔を出した村長も困惑顔を浮かべている。
「おっと、そうだったな。俺はラクドウィズに用があって向かっている途中でこの村に寄ったんだ。そしたら魔獣被害を受けていると聞いてな」
「私たちは冒険者ギルドで魔獣討伐依頼を受けてここに来たの。彼らは私のパーティメンバーだよ」
話の流れからゼーアとケイナを紹介し、アリシアたちは本題へ入っていく。
「村の様子を見ると、みんな普段通りの生活をしているみたいだけど、もう解決しちゃったの?」
「あー、すまん。特に強敵でもなかったからな、終わらせてしまった」
「あぁぁ、申し訳ございません、冒険者殿。一刻も早く魔獣被害を減らしたく思い、無理を承知でネイド殿にお願いしてしまったのです。まさか、こうも早く依頼を受けてくれる冒険者殿がいるとは思いもしませんで」
「ううん、いいんですよ。被害が少ない方がいいですものね。でも、その場合の報酬はどうなるの?」
アリシアは視線をネイドへ向けた。
「本来なら村長と一緒にラクドウィズまで行って事情を説明、それから報酬を俺が受け取る予定だったんだが……この依頼、アリシアたちが達成したことにした方が話が早そうだな」
「そ、それはダメだよ! 私たちは何もしていないんだから!」
「だが、村長も一緒の移動となるとそれなりに時間が掛かるぞ?」
「ほ、本当に申し訳ございません」
恐縮しきりの村長を見たネイドは腕組みして考え始めたが、アリシアは一つの提案を口にした。
「それじゃあ、私たちがギルドマスターに話を通してみますよ。それで、ネイドが依頼を終わらせたことも説明します」
「……ギルドマスターにか?」
「これでもギルドマスターのメリダさんとは良い関係を築いているんだからね」
胸を張りながらそう口にしたアリシアを見て、ネイドは最初こそ驚いた様子だったがすぐに笑みを浮かべた。
「……はは、分かったよ。そういうことだ、村長。俺たちだけでラクドウィズへ向かうから、あとは任せてくれ」
「本当に何から何までありがとうございました。冒険者殿も本当にありがとうございます」
「いえいえ。それじゃあ行きますね」
こうしてアリシアは、思いがけない再会と共にラクドウィズへ戻っていったのだった。
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