最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎

文字の大きさ
192 / 361
代表選考会

アルの周囲

しおりを挟む
 女子たちを撒いたアルだったが、教室の前にはまた別の集団が戻ってくるのを待っている。
 今日何度目になるか分からない嘆息を漏らすと教室には戻らずに学園長室へと向かう。
 ノックをして中に入ると、そこにはニヤニヤと笑いながら出迎えてくれたアミルダが立っていた。

「今日も大量だったかな、有名人!」
「茶化さないでください、ヴォレスト先生。アイテムボックスの中身を渡しませんよ?」
「あはは、冗談よ。でも、本当に有名になっちゃったわね」
「今は冗談が冗談に聞こえないんですよ」

 表情を苦笑に変えてそう口にしたアミルダはアルに椅子を勧めると断りを入れてそのまま腰掛けたのだが、ドアの挟んだ廊下からはアルを探しているだろう女子たちの声が聞こえてくる。
 ここまでしつこく探し回る理由が何なのか分からないアルとしては面倒以外の何ものでもなかった。

「明日も明後日もこれが続くと考えたら、朝が憂鬱で仕方ないんですから」
「これがアルの運命だったと考えたら諦めも付くんじゃないの? それに、ザーラッド家の取り潰しに関わっていたのも事実なんだからね」
「事実はゾランの自業自得なんですから、俺の名前が出てくるのがそもそも間違いなんですよ」

 アルはゾランとの模擬戦に勝利し、またエルクに対して行われていた嫌がらせを阻止しただけに過ぎない。
 その後の行動には一切関与しておらず、言葉通りゾランは自業自得でザーラッド家をも潰してしまったのだ。

「それでも噂を消すことはできないよ。状況は時間が解決してくれるだろうから、今は我慢することだね」
「ヴォレスト先生は学園長なんですから、何とかできませんか?」
「無理だな!」
「……そんな即答しなくても」

 ここでも嘆息を漏らしながら机に出されたお茶を一口すすると、ダンジョンからここまで走ってきたので喉が渇いていたのかそのまま一気に飲み干してしまう。
 そして、そのままダンジョンで手に入れた素材をアミルダのアイテムボックスに移す作業へと移行した。

「それにしても、綺麗に殺しているんだな。まるで魔法ではなく刃物で殺したように見えるが?」
「その通りですよ」
「……そうなのか?」
「魔法剣も見せているヴォレスト先生だから言いますけど、剣の形をした魔法装具を作ってもらったんです。……どうしましたか?」

 作業の手が止まったのでアルが顔を上げると、アミルダは口を開けたままこちらを見て固まっている。
 どうしたのかとアルが首を傾げると、何度か口をパクパクさせた後にアル以上の溜息を吐き出していた。

「本当にどうしたんですか?」
「……いや、何だかもうアルが規格外という言葉だけでは言い表せなくなったなと思ってな」
「いや、魔法装具を持っている学生なら他にもいるでしょう。それに剣の魔法装具なんて学園では大手を振って使えないんですからここではあまり意味を成しませんよ」
「いや、その年齢で魔法装具を二本も持っていること自体がおかしいんだが……まあ、アルだからいいか」

 今のは絶対に褒められていないと思いながらもツッコミを入れるだけの元気も今はなく、素材の移動を再開させた。
 出てくる素材の量にアミルダは呆れていたが、アルとしてはアイテムボックスの代金を返さなければいけないので実を言えば必死で魔獣の討伐を行っている。

「これで全部ですね」
「今日も大量だな。この調子なら、一年でアイテムボックスの元を取れるかもしれんぞ」
「今だけですよ。他の学生が下層まで潜れるようになったら俺も自由に戦えませんからね」

 アルディソードが無くてもアルの魔法技量であれば一〇階層でも問題はないだろうが、さらに下の階層となれば分からない。
 事実、ペリナと一緒に一五階層まで下りた時には斬鉄にソードゼロと剣術も遺憾なく発揮していたのだから魔法だけで無理をしようとは考えていなかった。

「ユージュラッドだけでもいいので、剣術を評価に入れてくれませんか?」
「無茶を言うな。実戦重視の授業内容に変えていっているが、いきなり剣術を評価に加えるのはできないよ」
「まあ、そうですよね。すみません、ちょっと疲れているので先に失礼します」

 そう言って立ち上がろうとしたアルだったが、再び廊下から女子の声が聞こえてきたので中腰のまま固まってしまう。

「……あはは! アル、もう少しここでゆっくりしていけ」
「ですが、お邪魔ではないですか?」
「構わんよ。あまり力はないが、学生を守るのも学園長の仕事だからな!」

 立ち上がったアミルダがアルの肩を叩くと、嘆息しながらアルは再び腰掛ける。
 そこに入れ直されたお茶が出されたので世間話をしながら時間を潰し、時間も遅くなり女子たちの声が聞こえなくなったタイミングでお礼を口にして学園長室を後にする。

「気をつけて帰るんだぞ」
「はい。ありがとうございました」

 廊下に出て肩を回しながら大きく伸びをするとわざわざ気配察知まで行いながら教室へと戻り、背中を丸めながら帰路についたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...