341 / 361
魔法競技会
進化する魔獣②
しおりを挟む
魔獣の姿を黙視するために前に出たアルとジャミール。
攻撃のあった方向へ全力で進んでいたのだが、すでに魔獣は移動した後だった。
「……ここにいたみたいですね」
「そうだね~。でも……うん、見られているね」
「……はい」
本能のままに攻撃を仕掛けてくるわけではなく、遠くから見て観察している。
この事実から、相手がSランク以上の実力を秘めているだろう事を二人は実感していた。
「……それにしても、あの二人を置いてきて良かったのかい?」
「キリアン兄上がいますからね。上手くまとめてくれると思います」
「まあ、年長者だしね。……追い返した方がやりやすかったんじゃないかい? キリアン様の力が借りられない状況をわざわざ作る方がもったいないんじゃないかい?」
ジャミールの言葉も理解できる。
相手が未知の魔獣である事以外に情報がない。この状況で戦力を分散させる事自体が間違いではないかと進言したのだ。
「先輩の言っている事も分かります。ですが、あの二人の力は絶対に必要になりますよ」
「どうして言い切れるのかな?」
「……戦士の勘です」
ニヤリと笑いながらそう口にしたアルを見て、ジャミールは驚きの表情を浮かべるとすぐに似たような笑みを浮かべた。
「……なるほどね。アル君の勘って事なら、正しいのかもしれないね~」
「だから、俺たちは兄上が二人を説得するまでの時間稼ぎだ」
「損な役回りだね~」
「まあ、その前に俺たちで片付けてもいいんだけどな」
「……それが一番だね~」
笑いながら軽口を言い合っていた二人だったが、直後には左右に飛び退いていた。
そして、先ほどまで立っていた場所の地面が弾け飛び、いくつもの穴が出来上がっていた。
「ジャミール!」
「行こう!」
弾道から魔獣の居場所を予測し駆け出した二人は、ついに魔獣を視界に捉えた。
三つの長い首が蠢いており、首の付け根には巨大で漆黒の胴体が存在している。
胴体が巨大になり過ぎたのか、四肢はとても短く場所によっては腹を地面に引きずった跡がある。
鈍重なのかと勘違いすれば直後に殺されてしまうだろう。
『『『グルオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』
「瞬歩!」
「うわあっ!」
短い四肢は強靭な筋肉で覆われており、その巨体を予想以上の速度で加速させてくる。
その事に気づいたアルはジャミールの体に腕を回して瞬歩でその場を緊急離脱していた。
「……た、助かったよ、アル君」
「いや、俺も間一髪だった。あの図体であの加速力は反則だろう」
魔獣が着地した場所の地面はその巨体に合わせて抉れており、大木が何本も薙ぎ倒されている。
直撃すれば即死、掠ったとしても弾き飛ばされて動きが制限される事だろう。
「あの巨体に注意しながら、さらに魔法にも注意が必要か」
「確実にSランク相当……いや、それ以上だね――っと!」
情報をまとめている間にも魔獣から漆黒の弾丸が撃ち出される。
「あの魔法、レベル2のダークバレットだよ? レベル2でこの威力ってあり得ないよね?」
「その事実を体感しているのですから、その言葉は正しくないのでは?」
「……そうだね。それじゃまあ、僕も同じ闇属性持ちとして撃ち返そうかな!」
グラムの剣先を魔獣へ向けて撃ち出されたジャミールのダークバレットだったが、その威力には明らかな差がある。
同じく魔獣から撃ち出されたダークバレットによって打ち消され、真っすぐにジャミール目掛けて飛んできたからだ。
「本当に苛立つね!」
グラムでダークバレットを切り裂くものの、魔力の余波で衣服が裂けていく。
魔獣の目がジャミールに向いている間にアルは大きく回り込んで迫る。
だが、三つあるうちの一つの首がアルに気づくと魔法とは違う攻撃が襲い掛かった。
「漆黒のブレス!」
『グルアアアアッ!』
アースウォールを何重にも作り出してその勢いを殺しながら回避する。
ブレスに触れた土壁から黒く変化して崩れていくのを確認すると、小さく舌打ちしながらアルディソードに魔力を纏わせていく。
「……物は試しか。だが、守り一辺倒は趣味じゃないからな――疾風飛斬・烈風!」
飛ぶ斬撃と共にシルフブレイドを飛ばしたアル。
魔獣もダークバレットを飛ばして魔法を破壊していくが、そのうちの一つが巨体に命中した。だが――
『……グルオオアアアアッ!』
「……ダメージなしか」
この状況を打破するには二人ではどうしようもない。
この場にいない三人がやって来てくれることを信じて、アルは全力で時間稼ぎをしようと考えていたのだった。
攻撃のあった方向へ全力で進んでいたのだが、すでに魔獣は移動した後だった。
「……ここにいたみたいですね」
「そうだね~。でも……うん、見られているね」
「……はい」
本能のままに攻撃を仕掛けてくるわけではなく、遠くから見て観察している。
この事実から、相手がSランク以上の実力を秘めているだろう事を二人は実感していた。
「……それにしても、あの二人を置いてきて良かったのかい?」
「キリアン兄上がいますからね。上手くまとめてくれると思います」
「まあ、年長者だしね。……追い返した方がやりやすかったんじゃないかい? キリアン様の力が借りられない状況をわざわざ作る方がもったいないんじゃないかい?」
ジャミールの言葉も理解できる。
相手が未知の魔獣である事以外に情報がない。この状況で戦力を分散させる事自体が間違いではないかと進言したのだ。
「先輩の言っている事も分かります。ですが、あの二人の力は絶対に必要になりますよ」
「どうして言い切れるのかな?」
「……戦士の勘です」
ニヤリと笑いながらそう口にしたアルを見て、ジャミールは驚きの表情を浮かべるとすぐに似たような笑みを浮かべた。
「……なるほどね。アル君の勘って事なら、正しいのかもしれないね~」
「だから、俺たちは兄上が二人を説得するまでの時間稼ぎだ」
「損な役回りだね~」
「まあ、その前に俺たちで片付けてもいいんだけどな」
「……それが一番だね~」
笑いながら軽口を言い合っていた二人だったが、直後には左右に飛び退いていた。
そして、先ほどまで立っていた場所の地面が弾け飛び、いくつもの穴が出来上がっていた。
「ジャミール!」
「行こう!」
弾道から魔獣の居場所を予測し駆け出した二人は、ついに魔獣を視界に捉えた。
三つの長い首が蠢いており、首の付け根には巨大で漆黒の胴体が存在している。
胴体が巨大になり過ぎたのか、四肢はとても短く場所によっては腹を地面に引きずった跡がある。
鈍重なのかと勘違いすれば直後に殺されてしまうだろう。
『『『グルオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』
「瞬歩!」
「うわあっ!」
短い四肢は強靭な筋肉で覆われており、その巨体を予想以上の速度で加速させてくる。
その事に気づいたアルはジャミールの体に腕を回して瞬歩でその場を緊急離脱していた。
「……た、助かったよ、アル君」
「いや、俺も間一髪だった。あの図体であの加速力は反則だろう」
魔獣が着地した場所の地面はその巨体に合わせて抉れており、大木が何本も薙ぎ倒されている。
直撃すれば即死、掠ったとしても弾き飛ばされて動きが制限される事だろう。
「あの巨体に注意しながら、さらに魔法にも注意が必要か」
「確実にSランク相当……いや、それ以上だね――っと!」
情報をまとめている間にも魔獣から漆黒の弾丸が撃ち出される。
「あの魔法、レベル2のダークバレットだよ? レベル2でこの威力ってあり得ないよね?」
「その事実を体感しているのですから、その言葉は正しくないのでは?」
「……そうだね。それじゃまあ、僕も同じ闇属性持ちとして撃ち返そうかな!」
グラムの剣先を魔獣へ向けて撃ち出されたジャミールのダークバレットだったが、その威力には明らかな差がある。
同じく魔獣から撃ち出されたダークバレットによって打ち消され、真っすぐにジャミール目掛けて飛んできたからだ。
「本当に苛立つね!」
グラムでダークバレットを切り裂くものの、魔力の余波で衣服が裂けていく。
魔獣の目がジャミールに向いている間にアルは大きく回り込んで迫る。
だが、三つあるうちの一つの首がアルに気づくと魔法とは違う攻撃が襲い掛かった。
「漆黒のブレス!」
『グルアアアアッ!』
アースウォールを何重にも作り出してその勢いを殺しながら回避する。
ブレスに触れた土壁から黒く変化して崩れていくのを確認すると、小さく舌打ちしながらアルディソードに魔力を纏わせていく。
「……物は試しか。だが、守り一辺倒は趣味じゃないからな――疾風飛斬・烈風!」
飛ぶ斬撃と共にシルフブレイドを飛ばしたアル。
魔獣もダークバレットを飛ばして魔法を破壊していくが、そのうちの一つが巨体に命中した。だが――
『……グルオオアアアアッ!』
「……ダメージなしか」
この状況を打破するには二人ではどうしようもない。
この場にいない三人がやって来てくれることを信じて、アルは全力で時間稼ぎをしようと考えていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥風 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる