最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎

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魔法競技会

進化する魔獣②

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 魔獣の姿を黙視するために前に出たアルとジャミール。
 攻撃のあった方向へ全力で進んでいたのだが、すでに魔獣は移動した後だった。

「……ここにいたみたいですね」
「そうだね~。でも……うん、見られているね」
「……はい」

 本能のままに攻撃を仕掛けてくるわけではなく、遠くから見て観察している。
 この事実から、相手がSランク以上の実力を秘めているだろう事を二人は実感していた。

「……それにしても、あの二人を置いてきて良かったのかい?」
「キリアン兄上がいますからね。上手くまとめてくれると思います」
「まあ、年長者だしね。……追い返した方がやりやすかったんじゃないかい? キリアン様の力が借りられない状況をわざわざ作る方がもったいないんじゃないかい?」

 ジャミールの言葉も理解できる。
 相手が未知の魔獣である事以外に情報がない。この状況で戦力を分散させる事自体が間違いではないかと進言したのだ。

「先輩の言っている事も分かります。ですが、あの二人の力は絶対に必要になりますよ」
「どうして言い切れるのかな?」
「……戦士の勘です」

 ニヤリと笑いながらそう口にしたアルを見て、ジャミールは驚きの表情を浮かべるとすぐに似たような笑みを浮かべた。

「……なるほどね。アル君の勘って事なら、正しいのかもしれないね~」
「だから、俺たちは兄上が二人を説得するまでの時間稼ぎだ」
「損な役回りだね~」
「まあ、その前に俺たちで片付けてもいいんだけどな」
「……それが一番だね~」

 笑いながら軽口を言い合っていた二人だったが、直後には左右に飛び退いていた。
 そして、先ほどまで立っていた場所の地面が弾け飛び、いくつもの穴が出来上がっていた。

「ジャミール!」
「行こう!」

 弾道から魔獣の居場所を予測し駆け出した二人は、ついに魔獣を視界に捉えた。
 三つの長い首が蠢いており、首の付け根には巨大で漆黒の胴体が存在している。
 胴体が巨大になり過ぎたのか、四肢はとても短く場所によっては腹を地面に引きずった跡がある。
 鈍重なのかと勘違いすれば直後に殺されてしまうだろう。

『『『グルオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』
「瞬歩!」
「うわあっ!」

 短い四肢は強靭な筋肉で覆われており、その巨体を予想以上の速度で加速させてくる。
 その事に気づいたアルはジャミールの体に腕を回して瞬歩でその場を緊急離脱していた。

「……た、助かったよ、アル君」
「いや、俺も間一髪だった。あの図体であの加速力は反則だろう」

 魔獣が着地した場所の地面はその巨体に合わせて抉れており、大木が何本も薙ぎ倒されている。
 直撃すれば即死、掠ったとしても弾き飛ばされて動きが制限される事だろう。

「あの巨体に注意しながら、さらに魔法にも注意が必要か」
「確実にSランク相当……いや、それ以上だね――っと!」

 情報をまとめている間にも魔獣から漆黒の弾丸が撃ち出される。

「あの魔法、レベル2のダークバレットだよ? レベル2でこの威力ってあり得ないよね?」
「その事実を体感しているのですから、その言葉は正しくないのでは?」
「……そうだね。それじゃまあ、僕も同じ闇属性持ちとして撃ち返そうかな!」

 グラムの剣先を魔獣へ向けて撃ち出されたジャミールのダークバレットだったが、その威力には明らかな差がある。
 同じく魔獣から撃ち出されたダークバレットによって打ち消され、真っすぐにジャミール目掛けて飛んできたからだ。

「本当に苛立つね!」

 グラムでダークバレットを切り裂くものの、魔力の余波で衣服が裂けていく。
 魔獣の目がジャミールに向いている間にアルは大きく回り込んで迫る。
 だが、三つあるうちの一つの首がアルに気づくと魔法とは違う攻撃が襲い掛かった。

「漆黒のブレス!」
『グルアアアアッ!』

 アースウォールを何重にも作り出してその勢いを殺しながら回避する。
 ブレスに触れた土壁から黒く変化して崩れていくのを確認すると、小さく舌打ちしながらアルディソードに魔力を纏わせていく。

「……物は試しか。だが、守り一辺倒は趣味じゃないからな――疾風飛斬・烈風!」

 飛ぶ斬撃と共にシルフブレイドを飛ばしたアル。
 魔獣もダークバレットを飛ばして魔法を破壊していくが、そのうちの一つが巨体に命中した。だが――

『……グルオオアアアアッ!』
「……ダメージなしか」

 この状況を打破するには二人ではどうしようもない。
 この場にいない三人がやって来てくれることを信じて、アルは全力で時間稼ぎをしようと考えていたのだった。
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