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魔法競技会

進化する魔獣③

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 一方のキリアンたちは、いまだにシエラとレイリアが怒鳴り合いを繰り広げていた。

「――ふざけないで! あなたみたいなのが一人でもいたら空気が乱れるわ!」
「――それは私のセリフ! 前衛は足りているから帰って!」

 お互いに全く引こうとはせず、こちらの状況が大きく変わっている事にも気づいていなかった。
 キリアンはアルがリーダーだから二人を無理やりにでも連れ帰るという選択肢を排除していたが、そろそろ我慢の限界が迫っていた。

「……ねえ、君たち? 気づいているかな?」

 声のトーンは普段と変わらない。しかし、声に乗せられた殺気が二人の口を閉ざさせ、弾かれたようにキリアンの方へ振り返る。
 その表情は笑みを浮かべているが、目の奥は明らかに笑っていなかった。

「魔法が飛んでこないという事は理解しているかい?」
「……はい」
「……きっと、二人が魔獣と遭遇した」
「そうだね。という事は、アルとジャミール君は危険な魔獣と戦っている最中だって事だ」
「「あ……」」

 キリアンの言葉に二人は殺気に当てられたからではなく、本当の意味で言葉が出なくなった。
 自分たちは何をしていたのか、何故こんな無駄な時間を使ってしまったのかと。
 その時、森の奥から大きな爆発音が聞こえてきた。

「……戦っているね」
「「……はい」」
「君たちがここで言い合いを続けるというなら、僕は君たちを置いて二人のところへ向かう。ジャミール君は優秀な後輩だし、何よりアルは僕の弟だ。こんなところで失うわけにはいかないんだよ」

 ジャミールの名前を出したのは気を遣っただけだ。その事に二人はすぐに気づいた。
 何故なら、アルの名前が出た瞬間にキリアンから放たれた殺気は言葉に乗せられた以上のものを感じ取ったからだ。

「僕にとっては君たちも大事な後輩だけど、アルと比べればどうでも良い存在でもあるんだ。酷いと思うかもしれないけど、それが貴族というものだよ? 自分の利になる存在を優先するのは当然の事、違うかな?」

 目が笑っていない笑みを浮かべながら、一定のトーンで淡々と語っていくキリアン。軽い脅しに聞こえなくもないが、彼にとってすればそうするに値する状況だという事だった。

「君たちが言い争いをしている間にも、二人に死の危険が迫っているかもしれない。悠長におしゃべりをしている時間も付き合っている時間もないんだよね。レイリアさんは分からないけど、シエラさんは冒険者として依頼を受けてこの場にいるんだ。だったら、そりの合わない相手とでも仕事の間くらいは仲良くしてもらわないと困るよ?」

 そして、これが最後の言葉だと言わんばかりに今日一番の殺気を込めながらシエラにそう告げた。
 実際はレイリアも冒険者として活動をしており、だからこそリルレイも彼女を抜擢している。
 キリアンが告げた言葉は結局のところ、二人に対しての助言になっていた。

「……申し訳ありませんでした、キリアン様」
「……私も、申し訳ありません」
「……分かってくれればいいんだよ」

 二人から謝罪の言葉が飛び出すと先ほどまでの殺気はどこへやら、キリアンは普通の笑みを浮かべながら周囲に視線を向けた。

「それじゃあ、まずはレイリアさんがサモンで二人の状況を確認して」
「え? ……駆けつけないの?」
「僕もすぐに向かいたいけど、情報を得られるなら得てから向かった方が効率が良いからね。それに、有効な奇襲を仕掛ける事もできる」
「……分かりました。サモン!」

 キリアンの指示に従いレイリアはサモンで闇の眷族を召喚した。
 今回は魔獣に気づかれないようにするために上空に飛ばして上から迫っていく。

「シエラさんはレイリアさんの情報を元にして、奇襲を仕掛けてもらうよ」
「はい」
「いいかい、シエラさん。今回の奇襲をするにあたっては、レイリアさんからの情報が重要になってくる。彼女の情報を疑うような事はしないようにね」
「分かっています。私は今、彼女ともパーティを組んでいる冒険者ですから」

 キリアンの言葉にはっきりと返事をし、顏をレイリアに向けると二人の視線が交わる。

「……勝ちましょう」
「……はい」

 二人の雰囲気が変わった。そう判断したキリアンは一つ頷き、アルとジャミールを信じながらレイリアからの情報を待つのだった。
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