不遇天職と不遇スキルは組み合わせると最強です! ~モノマネ士×定着で何にでもなれちゃいました~

渡琉兎

文字の大きさ
43 / 46

閑話:大荒れのガゼルヴィード邸

しおりを挟む
 ――ドンッ!

 怒りの拳が、豪奢なテーブルに振り下ろされた。

「まだレギンとミリーは見つからないのか!」

 怒声を響かせているのは、ガゼルヴィード領主であるライアンだ。
 数日前、レギンとミリーが姿を消したことに気づくと、その日から常に苛立ちが止まらない。
 今日も怒りのまま言葉を発しており、部屋に集められたラスティンとルーカスは面倒くさそうな表情を浮かべていた。

「このままでは魔獣が増え続け、ガゼルヴィード領は大変なことになるぞ!」
「そんなことを言われましても、父上」
「あいつらが勝手に逃げたんだろう? 俺らには関係ねぇだろ」

 ライアンの怒声にラスティンとルーカスが答えるも、彼のイライラは収まらない。

「そう言うなら、貴様らも魔獣狩りでしっかりと働いて見せろ!」
「何を言っているんですか! 私たちはちゃんとやっています!」
「そうだ! 俺たちの働きよりも、魔獣が湧くのが多すぎるんだよ!」
「湧くのが多いから、働かないといけないんだろうが!」

 ここ最近のガゼルヴィード邸の日常が、今日も繰り返されようとしている。
 しかし、そこへ日常とは異なる人物が、扉を乱暴に開けて登場した。

「ライアン! 貴様、何をしている!」
「ち、父上!?」

 扉を開けた人物は、ユセフだった。
 彼はすでに鎧を身に着けており、怒りを湛えた表情でライアンの前に立つ。

「……ど、どうしたのですか、父上?」
「どうしただと? 貴様、領民が魔獣被害を訴えているというのに、魔獣狩りにも出ず何をしている!」

 ライアンが拳を振り下ろしていたテーブルに、ユセフも拳を叩きつける。
 するとライアンでは傷一つ付かなかったテーブルに、拳大のへこみが形作られた。

「……な、何をしているって、レギンとミリーを探して――」
「今この場にいない人物を頼るなど、言語道断だ! この状況下で何ができるのかをしっかり考えて行動しろ!」
「で、ですが、父上。銅級騎士の私たちだけでは限界が――」
「わしが出る。貴様らも来い!」

 レギンとミリーがガゼルヴィード邸を脱する手伝いをしたユセフは、彼らの代わりに魔獣狩りへ出ると宣言する。
 ガゼルヴィード領としては金級騎士のユセフが前線に立ってくれるのであればありがたいことで、それはラスティンとルーカスも同意見だ。
 しかしライアンだけは、ユセフが前線に出て、さらに活躍することを嫌がっていた。

「いいえ、父上。ここは私たちだけでどうにかします」
「な、何を言っているのですか、父上!」
「無理に決まってるじゃないか!」

 ユセフの参戦を断ったライアンに対して、ラスティンとルーカスが声を荒らげた。

「できると思っているのか?」
「やらなければならないのです。行くぞ、ラスティン、ルーカス!」
「父上!」
「くそっ、マジかよ!」

 椅子から立ち上がり、剣を手に取って部屋を出ていくライアンを追い掛けて、ラスティンとルーカスも飛び出していく。
 残されたユセフは小さく息を吐きながら、三人が出ていった扉へ視線を向ける。

「……わしの育て方が、間違ってしまったようだな」

 そう呟いたユセフは、真剣な面持ちとなり、腰に提げた剣に触れる。

「断られたからといって、何もしないわけにはいかん。わしは元、ガゼルヴィード領の領主だった人間だからな」

 自らの決意を口にしたユセフも部屋を飛び出していく。

(それに、レギンやミリーのためでもある。そして、アリウス……)

 アリウスだけではなく、レギンやミリーがナリゴサ村に残っていれば、こんなことにはなっていなかっただろう。
 だが、こうなることを予想しながら、ユセフは三人を送り出したのだ。

(お前たちが帰ってこれる場所を、守って見せるぞ!)

 愛する孫たちのために、ユセフは再び剣を握るのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

無能と蔑まれた悪役貴族、実は人の心を数値化できる最強の傀儡師でした ~感情を支配するスキルで、腐敗した帝国を裏から作り変えます~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死した元ブラック企業の中間管理職は、公爵家の三男アッシュとして転生した。しかし、魔力も才能もない彼は「出来損ない」と蔑まれ、いずれ権力争いの駒として捨てられる運命にあった。 破滅を前にした彼が手にしたのは、他人の忠誠心や憎悪を“数値”として可視化する唯一無二のスキル【感情経済】。もはや誰も信じられないと悟った彼は、この力で全てを支配し、安楽な生活を手に入れることを決意する。 兄の陰謀で反逆の濡れ衣を着せられ、極寒の辺境へ追放されるアッシュ。だがそれは、腐敗した帝国を裏から作り変える、壮大な計画の序章に過ぎなかった。 これは、人の心を操る冷徹な悪役貴族が、知略と謀略で頂点へと駆け上がる成り上がり譚。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...