最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

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第一章:勇者誕生?

冒険者ギルドですよ

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 両開きの扉を開けて中に入ると、そこには多くの冒険者が行き交っており、俺はその人数の多さに呆気に取られてしまう。
 だが、ここで何もせず時間を使うのはもったいないのでどこか話を聞いてくれそうな窓口を探す。

「――どうかしましたか?」

 田舎者丸出しでキョロキョロしていると、制服を身に付けた女性から声を掛けてくれた。

「あの、えっと、ちょっと教えて欲しいことがあるんですが」
「冒険者登録か何かですか?」
「いえ、違います。その、ボートピアズに来たばかりなのですが宿屋が見つからなくて」
「宿屋がですか?」

 そこで首を傾げてしまった職員さん。
 それも当然で、ボートピアズには宿屋が数多くある。特別な催し物がない限りは満室になることもないのだ。

「実は、ツヴァイル……こいつと契約をしていないからダメだって言われてしまって」
「あぁっ! 獣魔契約のことですね!」

 職員さんはツヴァイルと俺の言葉を聞いて何かに気づいたらしく、その獣魔契約を行う為の窓口まで案内してくれた。
 すると、案内してくれた職員さんがそのまま担当してくれるようで自己紹介をしてくれた。

「私は獣魔契約を担当しているシェリカと申します」
「よ、よろしくお願いします。俺は……あー、スレイと言います」

 ここでスウェインと名乗ればどこかで俺を知る者にバレるかもしれないと、咄嗟に偽名を名乗ることにした。

「スレイ様ですね。それでは、獣魔契約についてですが、登録料が1500デリとなります。契約を行った本人と魔獣には、目に見えるところにこちらを身に付けていただきます」

 そう言いながらシェリカさんが取り出したのは白と黒で編まれた組紐だ。

「こちらには獣魔契約を証明する印が施されており、契約をした主と魔獣であることを証明することができます」
「具体的にはどうやって証明するんですか?」
「はい。先ほど伝えた通り、目に見えるところに付けてもらえば自動的に最適な大きさになるのですが、その際に組紐の色が変わります」
「色が変わる?」
「はい。その色というのが、主と獣魔で同じ色になるんです」

 何とも不思議な組紐である。
 心配な点といえば同じ色の組紐が他にもいるんじゃないかと思ったのだが、色合いだったりが多少なり変わり、全く同じ色の組紐ができることはないのだとか。

「獣魔契約が成立すると、その魔獣が主の言うことを聞くという証明となり、宿屋も安心して泊まらせてくれるんですよ」
「そうなんですね」
「もちろん、主と獣魔に信頼関係が無ければ印が発動することもなく、大きさが最適かされることもないので、もし試してみて起動しなければ契約は不成立となりますけどね」

 そこで俺は新たな問題に行き当ってしまう。
 それは、ツヴァイルが魔獣ではなく神獣だということ。
 そもそも魔獣と人族が契約できること自体驚きなのだが、その魔獣契約が神獣にも適用されるのかが問題なのだ。

「……物は試しか」
「はい?」
「いえ、こっちの話です。それじゃあ、お願いできますか?」

 俺は素材屋で手に入れたお金の中から1500Dを取り出して窓口に置く。

「……確かに受け取りました。では、組紐をお渡しします。どの部分にお付けになりますか?」

 目に見えるところにと言われて、俺自身は左腕に、ツヴァイルには左前脚に付けることにした。

「まずは主となるスレイ様の左腕に付けて、その後に獣魔に付けてみてください」

 言われた通りに左腕に組紐を巻くと、自動的に大きさが最適化される。

「おぉ、すごいな、これ」
「最初は皆様、同じことを言いますよ」

 慣れた反応なのか、シェリカさんは営業スマイルでもう一方の組紐を手渡してくれた。
 これをツヴァイルの左前脚に巻いて、大きさが最適化されれば獣魔契約の成立だ。
 俺はゆっくりとツヴァイルの左前脚に組紐を持っていく……緊張の瞬間である。

 ――シュルシュル。

 組紐を近づけた瞬間、勝手に動き出すとそのままツヴァイルの左前脚に巻き付いて大きさも最適化された。

「おめでとうございます、これで獣魔契約は終了です」
「……えっ、もう終わりですか?」
「はい。これで以上となります」

 予想以上に呆気なく終了してしまった獣魔契約に驚きつつも左腕に目を向ける。

「……あれ?」

 俺は組紐の色を見て堪らず声を漏らしてしまう。
 色が変わるというのは聞いていたので納得なのだが、その色というのが何とも不思議な色をしている。
 使われていた組紐は二本で白と黒だったのだが、さらに二本の色が加わり合計四色の組紐になっていたのだ。

「あの、組紐の色が」
「変わりましたか? それがスレイ様と獣魔の契約の色となり……えっ? よ、四色?」

 シェリカさんの反応を見て、やはりこれはおかしな現象なのだということが分かった。

「えっと、過去にもこんなことがあったりは?」
「……五年間勤めていますけど、見たことも聞いたこともありません」

 これはあれだ。明らかにツヴァイルが神獣だから起きたことに違いない。
 とはいえ、獣魔契約が成立したのなら問題ないのでそのままお暇することとしよう。

「まあ、獣魔契約は成立しましたし、俺たちは失礼しますね」
「いや、あの、ちょっと――」
「ご親切にありがとうございました」
「いや、待ってください、スレイ様!」

 問題になる前に出て行こう。
 俺はリリルを伴いそそくさと冒険者ギルドを後にしたのだった。
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