最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

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第一章:勇者誕生?

情報を整理します

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 俺は部屋にこもり羊皮紙の内容を確認していく。
 一方でリリルとツヴァイルは、もう一つの部屋で遊んでいた。
 リリルは同じ部屋でもいいと言っていたのだが、さすがに宿屋でまで負担を掛けさせたくないので部屋を別にしたのだ。
 ここでも何やら怒っている様子だったが、何が嫌なのかが俺には分からなかった。

「……へぇー、結構魔族に押し込まれてるんだな」

 人界と魔界の境が、村で聞いていた時よりもやや押し込まれている。そして、その範囲にはかつて俺の故郷があった場所も含まれていた。

「こりゃあ、誰も助からなかっただろうな」

 村を捨てて逃げ延びるか、そのまま残って魔族に殺されたか。
 どちらにしても、今の俺にとってはどうでもいいことだった。
 俺は村人から、友人から、そして一番心を許していた家族にすら見捨てられてしまったのだから。

「……さて、二枚目はっと」

 少しばかり感傷に浸ってしまった気持ちを切り替える為、あえて口に出しながら二枚目の羊皮紙に目を通す。
 こちらには両陣営の戦力が記されているって言ってたが、これは俺が見てもさっぱり分からなかった。
 何やら桁の大きな数字が書かれており、その横には数名の個人名が記されている。

「魔族側の数字が大きいけど、名前は人族側の方が多いんだよな。……まあ、これは別にどうでもいいか」

 貴重な情報だということは分かるので、念の為に空間庫へしまっておく。何せ、3000デリも支払って手に入れた情報だからな。
 最後の三枚目に目を通すと、そこには気になる内容が記されていた。

「えぇっと……『勇者と共に行動していた賢者、ついに動く!』か。……魔族も魔族なら、人族も人族だな、こりゃ」

 その記事にはこう書かれている。

『賢者の職業を持つ英雄エレーナ・フォンブラウスは、疾走した剣聖ルリエ・ヴィスコが犯人だと突き止めた』

 実際の演説では、逃げた、責任がある、などと言ってはいるが、犯人だとは一言も口にしていない。
 それでも情報屋から購入した羊皮紙にはいくつかある記事の中でも一番上にこの内容を載せている。
 ということは、この記事にはいくらかの信憑性があるのではないかと俺は考えた。

「勇者が剣聖に殺されて、それを賢者が追い掛けているのか。あれ? そういえばもう一人、勇者と行動してなかったっけ?」

 俺の記憶では、勇者は四人パーティだったはずだ。
 勇者、賢者、剣聖、そして聖女。
 勇者以外の全員が女性だったから、当時の俺は勇者がわざと女性だけを選んだんだろうなぁ、と変な勘繰りをしていたから良く覚えている。
 いったい聖女はどこに行ったのか。そして、剣聖はどこに逃げたのか。

「……まあ、これも俺には関係ないか」

 他の記事にも目を通したが、特に気になる内容はなかったので三枚目も空間庫にしまった。
 窓から外を見ると夕焼けに空が染まり、出歩くには遅い時間になっている。
 今日は晩ご飯を食べて寝るだけだなと考えて立ち上がり、俺は向かいの部屋のドアをノックした。

「――はーい」
「スウェインだけど」

 そう返事をすると、しばらくしてドアが開いた。

「もういいの?」
「あぁ。必要な情報は手に入れられたから、明日はボートピアズを楽しんで、明後日には装備を受け取って家に帰ろう」
「グルウウゥゥゥゥ」
「ツヴァイルがお腹空いたんだってよ?」
「俺も同じだ。ここは酒場も併設されているから、そこで食事をして今日はもう休もう」

 俺の提案に頷いた二人を見て、そのまま酒場に移動して女主人に声を掛けた。

「なんだ、ここで食べていくのかい? せっかくなんだから雰囲気のいいお店で食べてきたらどうだい?」
「予想外の出費で節約が必要になったんですよ」
「うちは美味い! 安い! 早い! をモットーにしてるから問題ないけど、ガラの悪い連中もいるから気をつけなよ。特に彼女さんはね!」

 そう言って俺の背中を強く叩いてきた女主人は豪快に笑っていた。
 ……ものすごく痛かったけど。
 そして、メニューを受け取りその場で注文を入れると、女主人は厨房に声を掛けた。

「空いている席で待っていておくれ!」

 戻り掛けにそう言われたので、俺たちはツヴァイルもいることから他のお客さんの邪魔にならないよう壁際の席に移動した。
 注文した料理が運ばれてきて食事を始めると、徐々にお客さんの数が増えていき、五分もしないうちに満席になってしまった。
 さらに、女主人が言った通りで冒険者風の人たちが集まり始め、飲めや歌えの大騒ぎである。
 これではゆっくりと食事を楽しむこともできないと思い、急いで手を動かしたのだが――面倒はどうしてこうもあちらからやって来るのだろうか。

「おいおい、兄ちゃん。えらい美人さんを連れてるじゃねえかよー」

 丸坊主で上半身裸の男性が、わざわざ逆側の壁際からこちらまでやって来て絡んできたのだ。
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