最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

文字の大きさ
26 / 100
第一章:勇者誕生?

予定について

しおりを挟む
 外に出ると、日はすっかり傾いており、結局はほとんど観光もできなかった。
 リリルは落ち込んでいるだろう、と思ったのだが案外平気なようで仕方がないと笑っている。
 だが、それが無理をしているようにも見えてしまい、時間ができればまた来ようと心に決めた。

 さて、今の俺たちは宿屋の酒場に移動している。
 もちろん酒を飲む! ……為ではなく、明日以降の予定を確認する為だ。

「私はいつでも出発できるけど、スレイたちは?」
「俺たちは明日の朝で依頼している装備を受け取る必要があるから、早くても午後になら出発できるかな」
「そう。だったら、明日のお昼にボートピアズの門の前で集合ってことでいいかしら?」

 ヴィリエルの言葉に俺とリリルが頷くと、そのまま500デリを置いて立ち上がった。

「なんだ、もう行くのか?」
「私の宿は別だし、道具の買い出しが必要だからね」
「買い出しって、今から行くのかしら?」
「夜にしか開いてないお店もあるのよ」

 少しばかり訝しく見つめながら問い掛けたリリルに対して、ヴィリエルはさも当然のように返して宿屋を出ていった。

「……どうするの、スウェイン」

 おいおい、ヴィリエルがいなくなったからっていきなり普通の呼び名に戻すのはどうなんだよ。
 まあ、女主人がいるからその方がいいのかもしれないけど。

「どうするもこうするも、行くしかないだろう」
「でも、家が見つかったらどうするの? あんなところで生活してるってなったら、絶対に怪しまれるわよ?」
「分かってるが、放っておくこともできんだろう。監視のつもりで同行するのが一番だ」

 それに、人界と魔界の境の調査といっても、その境が一人では到底調査できないくらいに広いことは理解している。
 おそらく、境に到着したらそれぞれで空虚地帯がないか探すことになるだろうから、俺たちが家のある方面を調査することができれば誤魔化しも利くはずだ。

「そう上手くいくかしら」
「やるしかないんだよ。それに、リリルも見ただろう――ヴィリエルの気配の隠し方を」

 喫茶店での出会いは本当に驚いた。俺だけではなくリリルですら気配を全く感じてなかったのだから。
 あの状態で襲われでもしたら、あっという間に殺されていたかもしれない。
 ヴィリエルを敵に回すのは、得策ではないと判断したまでのことだ。

「Sランク冒険者って言っていたけど、それってURの職業持ちってことよね。いったい何者なのかしら」
「もしかして、英雄の一人だったりしてな」
「ちょっと。縁起でもないこと言わないでよね」
「なんで縁起でもないんだ?」
「……まだ敵か味方かも分からないのよ? 英雄となんて、戦いたくないんだからね」

 言われてみればその通りだ。
 ヴィリエルの実力は計り知れない。
 そんなヴィリエルが仮に英雄だとしたならば、多くの戦場を経験しているだろう。
 今の俺たちでは場数が違い過ぎる。
 XRの勇者やURの宵闇の魔法師であっても、戦略で手玉に取られてもおかしくはないのだ。

「なるべくことは穏便に済ませるようにしましょう。もし戦うことにでもなったら、逃げるが一番ですからね?」
「それもそうだな。俺だって、せっかく第二の人生を得たんだから、こんなところで死にたくはないよ」

 そう、今の俺は第二の人生を送っているようなものだ。
 Nの俺が行き倒れて死ぬ間際に授かった第二の人生。

「運命から解放されたんだから、自由気ままに生きていきたいもんな」
「運命?」
「そう、運命。前にも言ったけど、人界のNは人として生きていけないからな。奴隷になるか、野垂れ死ぬかしかないからな」

 昨日は食べ損ねた女主人の料理を頬張り、俺は笑みを浮かべる。

「こうして美味い飯を食べる機会を与えられ、都市の中を堂々と歩く権利を得られた。それに……」
「それに?」
「……こうして、リリルやツヴァイルと一緒にいられるってのも、第二の人生だからなんだよ」

 今の俺はどういった表情をしているだろうか。自分で口にしてなんだか恥ずかしくなってしまう。
 ただ、リリルの表情は頬を赤く染めているように思える。
 ……なんだ、恥ずかしくなったのか?

「そ、そうなの。まあ、私もスウェインには助けられているし、第二の人生がなかったらここにはいなかったもんね」
「……そういうことになるのか?」
「なるのよ。案外、人族が信じる神様ってのは良い神様なのかもしれないわね」
「どうだろうな。本当に良い神様なら、こんな世界にはしていないだろうからな」
「ガウ?」

 神、という言葉に反応したのかは分からないがツヴァイルが食事から顔を上げてこちらを見ている。

「神獣のお前のことじゃないぞ。お前は最高のパートナーだからな!」
「ガウッ!」
「ちょっと、私はどうなのよ!」
「いやいや、リリルはリリルだろう」
「パートナーじゃないの! 一つ屋根の下で暮らしているって言うのに!」
「おい! こ、声がでかいって! ……お前、まさか酔ってるのか!?」
「酔ってないわよ! お酒なんて……にょんで……にゃいわよ~」
「酔ってるじゃねえかよ!」

 頬を赤くしていたのは、単純に酔ってたからかよ。
 というか、明日が出発なのに大丈夫なのか?

「……わたしは……いちゅだって……シュウェインの……みかたぁ~……グー」
「……誰だよ、シュウェインって」

 嘆息しつつも、このままにしておくわけにもいかないのでリリルを背負って席を立つ。
 女主人も俺たちの様子に気づいたようですぐに鍵を持ってきてくれた。

「可愛い彼女の寝込みを襲うなんてするんじゃないよ?」
「彼女じゃありませんから! 襲いませんから!」
「にゃにおう! ……グー」

 ……そこ、怒るところじゃねえだろうが!
 なんだか最後にドッと疲れてしまった。俺も明日に備えて眠るとしよう。

「……ヴィリエル、お前はいったい何者だ?」

 俺のスローライフを妨げるようであれば、全力で排除する必要もあるのかもしれない。
 そんなことを考えながら、俺は目を閉じて深い眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...