最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

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第一章:勇者誕生?

ベヒーモス討伐作戦

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 宣言通り、遠くの魔獣はリリルの魔法が、そして接近してきた魔獣はヴィリエルの大剣が排除してくれる。
 この陣形であれば、アリ一匹ですら俺のところにはたどり着けないだろう。
 俺はというと、聖剣だけではなく魔剣をも作り出して二刀をもって甲羅に傷をつける予定だ。
 一度に二つの強力なスキルを使うとあって、力を温存しておくようにと二人に言われている。

「前方からブラックウルフとポイズンスネイク! さらにオークとオーガが来るぞ!」
「後方のオークとオーガは任せて!」
「それなら、私が露払いをしてやろうじゃないのよ!」

 気合いの声を張り上げたヴィリエルが飛び出すと、鋭い横薙ぎが放たれる。

「……刃が、三つ?」

 目の錯覚かと思ったが、そうではなかった。
 刀身に沿うような形で風の刃が上下に一つずつ顕現していたのだ。
 その証拠に、斬り裂かれたブラックウルフもポイズンスネイクも三枚おろしになっている。
 ヴィリエルは役目を終えたと言わんばかりに飛び退くと、射線が開けたことで大量の魔力を内包した特大の魔法が放たれた。

「ファイアボルト!」

 それは人族が放つには到底不可能と思えるほどに強大で、炎と雷が合わさった凶悪な魔法へと昇華された。
 中型魔獣の群れは、ファイアボルトの一撃でその姿を灰へと変えて消失させる。

「これで!」
「行けるわね!」
「あぁ、助かった!」

 こちらを見下ろすように睨みつけているベヒーモスを見据え、俺は右手に聖剣を、左手に魔剣を顕現させる。
 相反する属性を持つ聖剣と魔剣を手にしたことで、俺の体は真っ二つに引き裂かれそうになるが、それでも構わない。
 ここで踏ん張れば、ベヒーモスをぶっ飛ばして、俺の家を、畑を、スローライフを守ることができるんだ!

「まずは、これを、受け取りやが――あれ?」

 俺がベヒーモスに飛び掛かろうとした直後、聖剣と魔剣がおかしな動きを始めた。
 先ほどまではお互いが相反して体が引き裂かれそうになっていたのだが、今はまるで求め合うかのように近づこうとしている。
 だが、聖剣と魔剣は間違いなく相反するものだ。
 それぞれが接触しようものなら、何が起こるのか予想もつかない。
 これは流れに逆らうべきか、乗るべきか。

「ここまで来たんだ、やってやるよ!」

 俺は――流れに乗ることに決めた。
 聖剣スキルと魔剣スキルの両方を習得しているということは、それ自体に何かしら意味があるはずだ。

「吉と出るか、凶と出るか、いっけええええええええぇぇっ!!」

 自ら両手を重ねるように握りしめると、直後には白の輝きと黒の輝きが絡み合い、そして一つとなる。
 直後、頭の中には謎の言葉が浮かび上がってきた。

【神剣スキルを習得しました】

 謎の言葉に困惑しながらも、これがその神剣スキルとやらで顕現した新たな剣なのだということを、俺は不思議と理解していた。

「ぶった斬ってやるぜええええええええええええぇぇっ!」

 黄金に輝く神剣が天を貫くかの如く伸びていく。
 そして、俺は迷うことなく振り下ろした。

 ――ザンッ!!

 甲羅を傷つけ、魔法で片を付けるつもりだった。
 聖剣と魔剣では、傷を付けることはできても断つことはできなかった。
 だが、神剣は全ての予定を覆し、ベヒーモスを甲羅もろとも両断してしまった。
 一切の抵抗もなく、まるで素振りをしているかのように両断したのだ。

「……えっと……これって、いいのか?」

 そして、神剣の余波と言えばいいのか、こちらへ向かっていた二桁を超える魔獣も一瞬のうちに光の粒子となってその姿を消失させたのだ。
 残されたのは俺と、リリルとツヴァイル、そしてヴィリエルの三人と一匹だけ。
 これで魔獣の脅威が去ったとはいえ、あまりにも呆気ない幕切れに少々拍子抜けである。

「スウェイン。お前って奴は、本当にすごい奴だな」
「いや、俺も何が起きたのかさっぱりなんだ。聖剣と魔剣のスキルを使った時、頭の中で神剣スキルを習得したとかなんとか聞こえてきたんだよ」
「……スウェイン?」
「「……あっ!」」
「ギャウッ!」

 ……リ、リリル~! お前、やってくれたな!

「……スレイ……いや、スウェイン。お前、偽名を使っていたのか?」
「だって、さっきは色々と端折って説明したけど、詳しく話すと偽名を使わないといけない理由があったんだよ!」
「……なるほど、偽装スキル持ちなのね。ということは、見た目も変えているのかしら?」

 ギクッ!

「「……」」
「変えているわよ」
「ちょーっと! リリルさーん!?」

 何を勝手に暴露してるんでしょうね、この人は!

「もうバレているんだから、隠す必要もないでしょう? それに、ヴィリエルさんはスウェインの知り合いなの?」
「違うけど……なんか、バレるきっかけになったお前に言われたのに腹が立った」
「そこはもう忘れましょう」

 て、てめぇ。満面の笑みで言っても許さないから、後で覚えてろよ。
 俺は嘆息しながらも偽装スキルを解除して、久しぶりの本来の自分の姿に戻った。

「……全く違うのね」
「まあな。その、俺だって次の勇者が赤子に与えられることくらい知っているよ。だけど、実際に俺の職業は突然変わったんだ」
「職業が変わったですって?」
「なんて説明したらいいのか。……本当に信じてもらえない話なんだ。だから、時間を掛けて説明したい」

 ヴィリエルは俺の言葉の意味を理解したのか、こちらも同じように嘆息して大剣を鞘に納めた。

「確かに、こんなところで長々と説明されたら危険よね」
「あ、ありがとう。それじゃあ、近くの俺の家があるからそこで話をしよう」
「……家が、あるの?」

 あー、うん。そりゃ驚くよな。
 でもまあ、話を聞いてくれることになったのは非常にありがたいことなので、全力でもてなさなければならない。
 とりあえずベヒーモスをそのまま空間庫に放り投げた俺は人界に向けて歩き出す。

「――見ぃぃつぅぅけぇぇたああああぁぁっ!!」

 しかし、そこに思いもよらない横やりが入ってきた。
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