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第一章:勇者誕生?
三人と一匹の夜
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狭い家の中にベッドが二つとソファが一つ。
……うん、さらなる改築か増築が必要だ。もしかしたら完全に新しい家を建てる必要だってあるかもしれない。
そこは今後の課題になりそうだな。
「……ねえ。起きてる、スウェイン?」
「……起きてるぞ」
「……うふふ、みんな起きてるのね」
「……ガァァ……クゥゥ……」
いや、ツヴァイルだけは爆睡だぞ。
「……なあ、リリル。どうしてお前のベッドがリビングにあるんだ? ルリエが俺の部屋、俺がリビングで話が付いただろう」
「だって、スウェインがルリエさんを襲わないとも限らないし」
「リリルのことも襲ってないだろうが! そしてルリエもなんでリビングにベッドを出したかね!?」
「だって、一人で寝るなんて寂しいじゃないのよ」
……はぁ。こいつら、寂しがり屋なのか? だったら最初から、リリルの部屋でルリエと二人、寝かせればよかった。
「これから、人族はどうなるのかしらね」
「どういうことだ?」
「だって、勇者がスローライフを送る為にこんな辺境に閉じこもっているし、賢者は魔人になって死んじゃったし、剣聖の私も勇者殺しの悪名が広がって動けない。……正直、このまま魔族に攻め滅ぼされるんじゃないかなってね」
「それを言うなら魔族だって同じよ。お父様……魔王が魔皇将軍に裏切られて深手を負い、今では身を隠しているんだからね」
今では人族も魔族も身内で揉めてしまっている。
ある意味、このままの状況が続けば何も起こらないと言えなくもないが、一方が体制を整えてしまえば戦況は一気に傾くだろう。
まあ、人族側の勇者がここにいて、スローライフを送ることに熱意を燃やしている時点で、人族が体制を整えることはあり得ないのだが。
「スウェインはずっとここで寂しく暮らしていくつもりなの?」
「さ、寂しくってのは心外だな。でもまあ、そうなるかな。女神様が言うには、勇者の職業が取り上げられることはないらしいけど、今さらNを見下し罵るような奴らを助けたいとは思えないよ」
「……ねえ、スウェイン」
「なんだ、リリル?」
突然、神妙な声で話し掛けられたので何事だろうと顔を向ける。
現在、ベッドの並びは俺が真ん中で左にリリル、右にルリエとなっている。
俺は左右どちらかの端っこがよかったのだが、二人に反対されてしまったのだ。……理由は、分からない。
「助けてもらったあの日、魔族にはNはいなくて、最低ランクのRでも普通に生活しているって言ったじゃない?」
「あぁ、確かに言ってたな。あの話を聞いて、魔族が羨ましくなったよ」
「実はね……あの話、嘘なの」
「……そうなのか? どうして嘘をついたんだ?」
いや、別に嘘をつかれたことに驚いているわけではない。むしろ、人族も魔族も似た者同士何だと納得してしまったくらいだ。
ただ、どうしてリリルが嘘をついていたのかが気になってしまった。
「違うでしょ、リリルさん」
「ルリエ?」
「魔王が統治していた時は差別なんてなかった。でも、魔皇将軍がトップに立ってから変わった。違うかしら?」
「……その通りよ、ルリエさん」
なるほど。ということは、リリルはここに来るまでに魔王城から様々な魔界の都市を見て回ったはずだ。
そして、魔王が統治していた時との大きな変化にも悲しくなっていたのかもしれない。
だからすぐには言い出せなかった。魔王が統治していた頃を思い出して、嘘をついてしまったのかも。
「結局、一番上が変わらないと、何も変わらないってことか」
「人族はトップが変わらないせいでNが罵られ、魔族はトップが変わったからRが罵られる」
「なんだか、この世界は荒れに荒れているわね」
俺が、ルリエが、リリルが順に口にすると、その後には無言の時間が続いた。
本来なら、二人ともURの職業を与えられているので生活には困らないはずだった。
それなのに、リリルは魔皇将軍の反乱によって刺客を差し向けられ、ルリエは勇者殺しの悪名が広がり都市では普通に過ごせなくなっている。
……この二人だけでも、俺の力で助けることはできないかなぁ。
「リリルさんはいいわねー。ここでゆっくり暮らせるんだもの」
「それなら、ルリエさんも一緒に暮らしたらいいと思うわ!」
「えっ、いいの?」
「もちろんよ! 構わないわよね、スウェイン!」
「うーん」
「ほら! うん、って言ったわよ!」
「……そ、そうね! 助かったわ、スウェイン!」
「……うん? 何の話だ?」
「私もここで暮らすから、よろしくね!」
「……はい?」
いやいや、何を勝手に決めちゃってるんだよ!
確かに助けたいとは思っていたけど、俺になんの相談も無しに決めるとかあり得ないだろう!
「いや、さすがにいきなり過ぎないか? もっと色々と話し合いをしながらだなぁ」
「でも、さっきスウェインも頷いてくれたじゃない」
「そうよ、スウェイン。それとも、ルリエさんを追い出すつもりなのかしら?」
「……ま、待て! 俺が頷いたって、いつだよ!」
「「さっき」」
「……聞いてないぞ?」
「「ちゃんと聞いたわよ」」
「……俺、頷いたのか?」
「「うん」」
……た、助けたいって思ってたから、自然と頷いてしまったのか、な?
「……分かった。それじゃあ、明日はルリエが暮らす家を建てないと――」
「えっ、いらないわよ?」
……待て待て。この流れ、前にもあった気がするぞ?
「リリルもいるんだし、一緒で良くない?」
「いいわね! それでいきましょう!」
「……俺の家なんだが。俺に決定権はないのか?」
いや、リビングにベッドが二つある時点でなかったわ。
……うん、さらなる改築か増築が必要だ。もしかしたら完全に新しい家を建てる必要だってあるかもしれない。
そこは今後の課題になりそうだな。
「……ねえ。起きてる、スウェイン?」
「……起きてるぞ」
「……うふふ、みんな起きてるのね」
「……ガァァ……クゥゥ……」
いや、ツヴァイルだけは爆睡だぞ。
「……なあ、リリル。どうしてお前のベッドがリビングにあるんだ? ルリエが俺の部屋、俺がリビングで話が付いただろう」
「だって、スウェインがルリエさんを襲わないとも限らないし」
「リリルのことも襲ってないだろうが! そしてルリエもなんでリビングにベッドを出したかね!?」
「だって、一人で寝るなんて寂しいじゃないのよ」
……はぁ。こいつら、寂しがり屋なのか? だったら最初から、リリルの部屋でルリエと二人、寝かせればよかった。
「これから、人族はどうなるのかしらね」
「どういうことだ?」
「だって、勇者がスローライフを送る為にこんな辺境に閉じこもっているし、賢者は魔人になって死んじゃったし、剣聖の私も勇者殺しの悪名が広がって動けない。……正直、このまま魔族に攻め滅ぼされるんじゃないかなってね」
「それを言うなら魔族だって同じよ。お父様……魔王が魔皇将軍に裏切られて深手を負い、今では身を隠しているんだからね」
今では人族も魔族も身内で揉めてしまっている。
ある意味、このままの状況が続けば何も起こらないと言えなくもないが、一方が体制を整えてしまえば戦況は一気に傾くだろう。
まあ、人族側の勇者がここにいて、スローライフを送ることに熱意を燃やしている時点で、人族が体制を整えることはあり得ないのだが。
「スウェインはずっとここで寂しく暮らしていくつもりなの?」
「さ、寂しくってのは心外だな。でもまあ、そうなるかな。女神様が言うには、勇者の職業が取り上げられることはないらしいけど、今さらNを見下し罵るような奴らを助けたいとは思えないよ」
「……ねえ、スウェイン」
「なんだ、リリル?」
突然、神妙な声で話し掛けられたので何事だろうと顔を向ける。
現在、ベッドの並びは俺が真ん中で左にリリル、右にルリエとなっている。
俺は左右どちらかの端っこがよかったのだが、二人に反対されてしまったのだ。……理由は、分からない。
「助けてもらったあの日、魔族にはNはいなくて、最低ランクのRでも普通に生活しているって言ったじゃない?」
「あぁ、確かに言ってたな。あの話を聞いて、魔族が羨ましくなったよ」
「実はね……あの話、嘘なの」
「……そうなのか? どうして嘘をついたんだ?」
いや、別に嘘をつかれたことに驚いているわけではない。むしろ、人族も魔族も似た者同士何だと納得してしまったくらいだ。
ただ、どうしてリリルが嘘をついていたのかが気になってしまった。
「違うでしょ、リリルさん」
「ルリエ?」
「魔王が統治していた時は差別なんてなかった。でも、魔皇将軍がトップに立ってから変わった。違うかしら?」
「……その通りよ、ルリエさん」
なるほど。ということは、リリルはここに来るまでに魔王城から様々な魔界の都市を見て回ったはずだ。
そして、魔王が統治していた時との大きな変化にも悲しくなっていたのかもしれない。
だからすぐには言い出せなかった。魔王が統治していた頃を思い出して、嘘をついてしまったのかも。
「結局、一番上が変わらないと、何も変わらないってことか」
「人族はトップが変わらないせいでNが罵られ、魔族はトップが変わったからRが罵られる」
「なんだか、この世界は荒れに荒れているわね」
俺が、ルリエが、リリルが順に口にすると、その後には無言の時間が続いた。
本来なら、二人ともURの職業を与えられているので生活には困らないはずだった。
それなのに、リリルは魔皇将軍の反乱によって刺客を差し向けられ、ルリエは勇者殺しの悪名が広がり都市では普通に過ごせなくなっている。
……この二人だけでも、俺の力で助けることはできないかなぁ。
「リリルさんはいいわねー。ここでゆっくり暮らせるんだもの」
「それなら、ルリエさんも一緒に暮らしたらいいと思うわ!」
「えっ、いいの?」
「もちろんよ! 構わないわよね、スウェイン!」
「うーん」
「ほら! うん、って言ったわよ!」
「……そ、そうね! 助かったわ、スウェイン!」
「……うん? 何の話だ?」
「私もここで暮らすから、よろしくね!」
「……はい?」
いやいや、何を勝手に決めちゃってるんだよ!
確かに助けたいとは思っていたけど、俺になんの相談も無しに決めるとかあり得ないだろう!
「いや、さすがにいきなり過ぎないか? もっと色々と話し合いをしながらだなぁ」
「でも、さっきスウェインも頷いてくれたじゃない」
「そうよ、スウェイン。それとも、ルリエさんを追い出すつもりなのかしら?」
「……ま、待て! 俺が頷いたって、いつだよ!」
「「さっき」」
「……聞いてないぞ?」
「「ちゃんと聞いたわよ」」
「……俺、頷いたのか?」
「「うん」」
……た、助けたいって思ってたから、自然と頷いてしまったのか、な?
「……分かった。それじゃあ、明日はルリエが暮らす家を建てないと――」
「えっ、いらないわよ?」
……待て待て。この流れ、前にもあった気がするぞ?
「リリルもいるんだし、一緒で良くない?」
「いいわね! それでいきましょう!」
「……俺の家なんだが。俺に決定権はないのか?」
いや、リビングにベッドが二つある時点でなかったわ。
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