49 / 100
第一章:勇者誕生?
何やら色々ありまして
しおりを挟む
その後、驚愕のあまりに呆けてしまった大人たちが冷静になるのを待ってから話し合いは再開された。
魔王の娘も衝撃だが、元勇者がNを罵り、虐げてきた事実は人界だけではなく魔界にも広がっている。
元勇者と違うとはいえ、勇者がいるここに留まりたいと思うかどうかは人それぞれだろう。
「……あの、俺は、このままこちらでお世話になりたいと思っています!」
「わ、私も! 私と彼は、夫婦なんです」
「ぼくもここでくらしたーい!」
「ごはんがおいしいもんね!」
こちらの家族は問題なさそうだ。だが……。
「……勇者様と、元勇者様が違うというのは、分かっているんです」
「……私たちは一度、元勇者様を拝見したことがあるんですが……その、あまりに酷かったもので……」
どう酷かったのかが気になったものの、そこを聞くと二人に不快な思いをさせてしまうと考えて聞かないことにした。
だが、Nがどのような扱いを受けるかを考えれば予想することはできる。
侮蔑の目を向けられただろう。罵声を浴びせられただろう。もしかしたら、暴力を受けていたかもしれない。
普通なら誰がNかなんて分からないだろう。しかし、Nはまともな衣服すら用意することができず、いつも薄汚れたものを身に付けている。
職業ランクが分からなくとも、身なりを見ればNかどうかなんて分かってしまうものだ。
「……そうですか」
「その点に関しては、私が謝罪いたします。皆さん、元勇者が働いた蛮行、申し訳ありませんでした」
その時、俺の隣で黙り込んでいたルリエが立ち上がると頭を下げた。
これは俺にとっても驚きの行動だ。
それは何故か? URの剣聖がNに頭を下げているのだ、そりゃ驚くだろう。
「あ、頭を上げてください、剣聖様!」
「私たちに頭を下げてはなりません!」
姉妹の女性たちは慌てふためきながら声をあげた。
だって、元Nの俺ならいざ知らず、ルリエは生まれ持ってのURである。
ラクスライン国の人間でNに対し偏見を持たない人族がいること自体驚きなのだから、それをRでもSRでもない、URが頭を下げている今の状況こそが、この国では異常なことなのだ。
……まあ、Rですら頭を下げるなんて滅多にないんだけど。
「私は、元勇者を止めることができなかった。正直、あいつの蛮行は滞在した各都市で行われていたので、皆さんが受けた仕打ちを思い出すことすらできない。そんな自分にも、嫌気がさす」
しかし、ルリエは本当に変わった性格なのだろう。
Nも同じ人族だと思うことができるという、職業ランクが分かる前では当たり前だったはずのことを、URだと分かった今でも大切にしている、変わった性格。
……俺は大事だと思うけど、ラクスライン国では、ルリエみたいな性格を変わった性格って言ってしまうんだから、本当に嫌になる。
「今の私にできることは限られているが、それでも皆さんに対する罪滅ぼしができるのであれば、力になりたいと思っています」
ルリエがそこまで考えているとは思わなかった。
だが、変わった……いや、優しい性格をしているからこそ、ずっと後悔の念に苛まれていたのだろう。
「私も皆さんに協力いたします」
次に口を開いたのはリリルだ。
「魔族。それも魔王の娘と聞いた後では信用するのは難しいかもしれません。ですが、私もスウェインに助けられた一人です。ですから、私も皆さんの力になりたいと思っています。どうか、信じてください!」
俺の左右に座っていた二人が、今では立ち上がって頭を下げている。
ここで俺が何もしないわけにはいかないか。
「……勇者がいる。そして、剣聖と魔王の娘がいる。さらに言えば、ツヴァイルは神獣です」
「ガウ?」
そう、ここには考えただけでも恐ろしいくらいに戦力が揃っている。
ちょっとやそっとの襲撃になら簡単に対処できてしまうだろう。
「Nであるお二人が俺たちを信用してくれるのであれば、俺もお二人を受け入れて、全力で守ります」
俺は姉妹の目を見ながらはっきりとそう口にした。
スローライフとはかけ離れてしまうかもしれないが、これくらいの人数ならお隣さんと近所付き合いをする程度に考えれば問題はないはずだ。
近所付き合いがあれば、助け合いがあってもいいと思う。
そして、それは職業ランクで差別するものであってはならないのだ。
「……わ、私たちの方こそ、すみませんでした」
「……ここまで連れてきていただき、本当に感謝しているんです。こちらからお願いします、ここに、住まわせてください!」
姉妹は立ち上がり、二人で頭を下げて移住を決意してくれた。
ちょうど新築した家が、ここを除いて四軒ある。
そのうちの二つを家族と姉妹に与えれば、生活は問題ないだろう。
「それじゃあ、決まりですね」
「ありがとう、スウェイン」
「いや、ここは村長と呼ぶべきじゃないかしら、リリルさん」
「止めろよ、そんな柄じゃない」
その後からは、四軒の家をみんなで見て回り、どの家で暮らすのかを決めてもらった。
野菜に関してはまだ畑が小さいのでやりくりが大変だが、そのうちみんなで農作業に従事できれば十分な量が確保できるはずだ。
……スローライフとかけ離れると思っていたけど、これはこれで悪くないのかもしれないな。
魔王の娘も衝撃だが、元勇者がNを罵り、虐げてきた事実は人界だけではなく魔界にも広がっている。
元勇者と違うとはいえ、勇者がいるここに留まりたいと思うかどうかは人それぞれだろう。
「……あの、俺は、このままこちらでお世話になりたいと思っています!」
「わ、私も! 私と彼は、夫婦なんです」
「ぼくもここでくらしたーい!」
「ごはんがおいしいもんね!」
こちらの家族は問題なさそうだ。だが……。
「……勇者様と、元勇者様が違うというのは、分かっているんです」
「……私たちは一度、元勇者様を拝見したことがあるんですが……その、あまりに酷かったもので……」
どう酷かったのかが気になったものの、そこを聞くと二人に不快な思いをさせてしまうと考えて聞かないことにした。
だが、Nがどのような扱いを受けるかを考えれば予想することはできる。
侮蔑の目を向けられただろう。罵声を浴びせられただろう。もしかしたら、暴力を受けていたかもしれない。
普通なら誰がNかなんて分からないだろう。しかし、Nはまともな衣服すら用意することができず、いつも薄汚れたものを身に付けている。
職業ランクが分からなくとも、身なりを見ればNかどうかなんて分かってしまうものだ。
「……そうですか」
「その点に関しては、私が謝罪いたします。皆さん、元勇者が働いた蛮行、申し訳ありませんでした」
その時、俺の隣で黙り込んでいたルリエが立ち上がると頭を下げた。
これは俺にとっても驚きの行動だ。
それは何故か? URの剣聖がNに頭を下げているのだ、そりゃ驚くだろう。
「あ、頭を上げてください、剣聖様!」
「私たちに頭を下げてはなりません!」
姉妹の女性たちは慌てふためきながら声をあげた。
だって、元Nの俺ならいざ知らず、ルリエは生まれ持ってのURである。
ラクスライン国の人間でNに対し偏見を持たない人族がいること自体驚きなのだから、それをRでもSRでもない、URが頭を下げている今の状況こそが、この国では異常なことなのだ。
……まあ、Rですら頭を下げるなんて滅多にないんだけど。
「私は、元勇者を止めることができなかった。正直、あいつの蛮行は滞在した各都市で行われていたので、皆さんが受けた仕打ちを思い出すことすらできない。そんな自分にも、嫌気がさす」
しかし、ルリエは本当に変わった性格なのだろう。
Nも同じ人族だと思うことができるという、職業ランクが分かる前では当たり前だったはずのことを、URだと分かった今でも大切にしている、変わった性格。
……俺は大事だと思うけど、ラクスライン国では、ルリエみたいな性格を変わった性格って言ってしまうんだから、本当に嫌になる。
「今の私にできることは限られているが、それでも皆さんに対する罪滅ぼしができるのであれば、力になりたいと思っています」
ルリエがそこまで考えているとは思わなかった。
だが、変わった……いや、優しい性格をしているからこそ、ずっと後悔の念に苛まれていたのだろう。
「私も皆さんに協力いたします」
次に口を開いたのはリリルだ。
「魔族。それも魔王の娘と聞いた後では信用するのは難しいかもしれません。ですが、私もスウェインに助けられた一人です。ですから、私も皆さんの力になりたいと思っています。どうか、信じてください!」
俺の左右に座っていた二人が、今では立ち上がって頭を下げている。
ここで俺が何もしないわけにはいかないか。
「……勇者がいる。そして、剣聖と魔王の娘がいる。さらに言えば、ツヴァイルは神獣です」
「ガウ?」
そう、ここには考えただけでも恐ろしいくらいに戦力が揃っている。
ちょっとやそっとの襲撃になら簡単に対処できてしまうだろう。
「Nであるお二人が俺たちを信用してくれるのであれば、俺もお二人を受け入れて、全力で守ります」
俺は姉妹の目を見ながらはっきりとそう口にした。
スローライフとはかけ離れてしまうかもしれないが、これくらいの人数ならお隣さんと近所付き合いをする程度に考えれば問題はないはずだ。
近所付き合いがあれば、助け合いがあってもいいと思う。
そして、それは職業ランクで差別するものであってはならないのだ。
「……わ、私たちの方こそ、すみませんでした」
「……ここまで連れてきていただき、本当に感謝しているんです。こちらからお願いします、ここに、住まわせてください!」
姉妹は立ち上がり、二人で頭を下げて移住を決意してくれた。
ちょうど新築した家が、ここを除いて四軒ある。
そのうちの二つを家族と姉妹に与えれば、生活は問題ないだろう。
「それじゃあ、決まりですね」
「ありがとう、スウェイン」
「いや、ここは村長と呼ぶべきじゃないかしら、リリルさん」
「止めろよ、そんな柄じゃない」
その後からは、四軒の家をみんなで見て回り、どの家で暮らすのかを決めてもらった。
野菜に関してはまだ畑が小さいのでやりくりが大変だが、そのうちみんなで農作業に従事できれば十分な量が確保できるはずだ。
……スローライフとかけ離れると思っていたけど、これはこれで悪くないのかもしれないな。
22
あなたにおすすめの小説
追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。
しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。
全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。
超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!?
万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。
一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。
「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」
――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。
これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる