最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

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第一章:勇者誕生?

何やら色々ありまして

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 その後、驚愕のあまりに呆けてしまった大人たちが冷静になるのを待ってから話し合いは再開された。
 魔王の娘も衝撃だが、元勇者がNを罵り、虐げてきた事実は人界だけではなく魔界にも広がっている。
 元勇者と違うとはいえ、勇者がいるここに留まりたいと思うかどうかは人それぞれだろう。

「……あの、俺は、このままこちらでお世話になりたいと思っています!」
「わ、私も! 私と彼は、夫婦なんです」
「ぼくもここでくらしたーい!」
「ごはんがおいしいもんね!」

 こちらの家族は問題なさそうだ。だが……。

「……勇者様と、元勇者様が違うというのは、分かっているんです」
「……私たちは一度、元勇者様を拝見したことがあるんですが……その、あまりに酷かったもので……」

 どう酷かったのかが気になったものの、そこを聞くと二人に不快な思いをさせてしまうと考えて聞かないことにした。
 だが、Nがどのような扱いを受けるかを考えれば予想することはできる。
 侮蔑の目を向けられただろう。罵声を浴びせられただろう。もしかしたら、暴力を受けていたかもしれない。
 普通なら誰がNかなんて分からないだろう。しかし、Nはまともな衣服すら用意することができず、いつも薄汚れたものを身に付けている。
 職業ランクが分からなくとも、身なりを見ればNかどうかなんて分かってしまうものだ。

「……そうですか」
「その点に関しては、私が謝罪いたします。皆さん、元勇者が働いた蛮行、申し訳ありませんでした」

 その時、俺の隣で黙り込んでいたルリエが立ち上がると頭を下げた。
 これは俺にとっても驚きの行動だ。
 それは何故か? URの剣聖がNに頭を下げているのだ、そりゃ驚くだろう。

「あ、頭を上げてください、剣聖様!」
「私たちに頭を下げてはなりません!」

 姉妹の女性たちは慌てふためきながら声をあげた。
 だって、元Nの俺ならいざ知らず、ルリエは生まれ持ってのURである。
 ラクスライン国の人間でNに対し偏見を持たない人族がいること自体驚きなのだから、それをRでもSRでもない、URが頭を下げている今の状況こそが、この国では異常なことなのだ。
 ……まあ、Rですら頭を下げるなんて滅多にないんだけど。

「私は、元勇者を止めることができなかった。正直、あいつの蛮行は滞在した各都市で行われていたので、皆さんが受けた仕打ちを思い出すことすらできない。そんな自分にも、嫌気がさす」

 しかし、ルリエは本当に変わった性格なのだろう。
 Nも同じ人族だと思うことができるという、職業ランクが分かる前では当たり前だったはずのことを、URだと分かった今でも大切にしている、変わった性格。
 ……俺は大事だと思うけど、ラクスライン国では、ルリエみたいな性格を変わった性格って言ってしまうんだから、本当に嫌になる。

「今の私にできることは限られているが、それでも皆さんに対する罪滅ぼしができるのであれば、力になりたいと思っています」

 ルリエがそこまで考えているとは思わなかった。
 だが、変わった……いや、優しい性格をしているからこそ、ずっと後悔の念に苛まれていたのだろう。

「私も皆さんに協力いたします」

 次に口を開いたのはリリルだ。

「魔族。それも魔王の娘と聞いた後では信用するのは難しいかもしれません。ですが、私もスウェインに助けられた一人です。ですから、私も皆さんの力になりたいと思っています。どうか、信じてください!」

 俺の左右に座っていた二人が、今では立ち上がって頭を下げている。
 ここで俺が何もしないわけにはいかないか。

「……勇者がいる。そして、剣聖と魔王の娘がいる。さらに言えば、ツヴァイルは神獣です」
「ガウ?」

 そう、ここには考えただけでも恐ろしいくらいに戦力が揃っている。
 ちょっとやそっとの襲撃になら簡単に対処できてしまうだろう。

「Nであるお二人が俺たちを信用してくれるのであれば、俺もお二人を受け入れて、全力で守ります」

 俺は姉妹の目を見ながらはっきりとそう口にした。
 スローライフとはかけ離れてしまうかもしれないが、これくらいの人数ならお隣さんと近所付き合いをする程度に考えれば問題はないはずだ。
 近所付き合いがあれば、助け合いがあってもいいと思う。
 そして、それは職業ランクで差別するものであってはならないのだ。

「……わ、私たちの方こそ、すみませんでした」
「……ここまで連れてきていただき、本当に感謝しているんです。こちらからお願いします、ここに、住まわせてください!」

 姉妹は立ち上がり、二人で頭を下げて移住を決意してくれた。
 ちょうど新築した家が、ここを除いて四軒ある。
 そのうちの二つを家族と姉妹に与えれば、生活は問題ないだろう。

「それじゃあ、決まりですね」
「ありがとう、スウェイン」
「いや、ここは村長と呼ぶべきじゃないかしら、リリルさん」
「止めろよ、そんな柄じゃない」

 その後からは、四軒の家をみんなで見て回り、どの家で暮らすのかを決めてもらった。
 野菜に関してはまだ畑が小さいのでやりくりが大変だが、そのうちみんなで農作業に従事できれば十分な量が確保できるはずだ。
 ……スローライフとかけ離れると思っていたけど、これはこれで悪くないのかもしれないな。
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