最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

文字の大きさ
93 / 100
第二章:集落誕生?

豪華な屋敷と豪華な食事

しおりを挟む
 リッフェミー様の屋敷は隠れ里の中央にそびえる一際高い大木を削って造られたものだ。
 木の中に入るというのは不思議な感覚になってしまったが、自然の心地よい香りに包まれているようでとても癒される。

「まずは体を流してきてください。ここには体に良い温泉がありますからね」
「……温泉?」
「えっ! スウェイン、温泉を知らないの?」

 初耳だが、それは良いものなのか? 風呂の中でも豪華な風呂って事なのか?

「うふふ。人族にはあまり馴染みがないか、貴族くらいしか知らないでしょうしね。肩こり腰痛、その他にも様々な持病に効果のある妖精族自慢の温泉なんですよ」
「うーん……まあ、良いものって事ですか?」
「そんな簡単なものじゃないわよ!」

 ど、怒鳴るなよ。知らないものは仕方ないじゃないか。

「皆様が温泉に浸かっている間に夕食を準備しておきますね」
「ここの食事は美味であるぞ! 我はもう魔王城の飯は食いたくないぞ!」
「あら? だったらスウェインの料理もとても美味しいわよ?」
「お前! 変な事を言うなよ!」

 お前がそんな事を言うとマジで変な事に――

「……ほほ~う? 勇者よ、貴様は我が娘の胃袋を掴んでいるとでも言いたいのか~?」

 ほらな!

「俺が言ったわけじゃないからな! リリルが勝手に言ってるだけだからな!」
「ならば勇者も料理を作るが良い! 我が確かめてやるわ!」
「俺は風呂に入る! それでゆっくりするんだよ!」
「許さん! 勇者も料理を作るのだああああぁぁっ!」

 ……結局、俺も料理を作る事になってしまった。何故だ!

「あはは! 面白いねぇ、君たちは~」
「笑い事じゃないですよ、リーレインさん」
「まあ、僕もスー君の料理は好きだから楽しみにしてるよ~」

 笑いながら立ち去っていくスーレインさんの背中を見送った。

「はぁ。……あれ? スーレインさん、風呂は?」

 俺の向かっている方向が男湯のはず。そこへ向かわないって事は……え? もしかして、スーレインさんって、女性なのか?
 …………うん、分からない事を考えても仕方がないな。相手はエルフだし、よく分からない事を多いだろう。

「……とりあえず、俺は俺で温泉に入るか」

 この後に料理を作らなければならないのかと考えれば不満もあるが、今だけは忘れる事にしよう。そうでなければリッフェミー様に申し訳がない。
 俺は『男湯』と書かれた暖簾を潜り、その先にある籠に脱いだ洋服を入れる。
 備え付けの大きめの布を腰に巻き付けて先へと進んでいく。
 すると、先の方から大量の白い湯気が流れ込んでいる場所を見つけた。
 やや匂いはきついが、温泉はそういうものだと事前に教えられているのでそのまま進んでいった。

「……ここがそうか」

 乳白色のお湯が張られた場所に辿り着くと、結構な熱気に全身から汗が噴き出してくる。
 これが本当に体に良いのか気になるが、俺は言われた通りにまずは体を流すことにした。汚れたままで入るのは衛生上良くないらしいからな。

「まずは体に掛けてっと……うん、少し熱いけど、我慢できない程じゃないな」

 全身をお湯で濡らしてからしっかりと体の汚れを落とし、ついにその時がやって来た。

「さて! それじゃあ入るとしますか、温泉に!」

 俺は足からゆっくりと温泉に浸からせていく。最初に比べると慣れたもので、そのまま膝、腰と沈めていき、最終的には首まで浸からせた。
 ……おぉぉ……うん……これは……。

「はああぁぁぁぁぁぁ……ヤバい、気持ちいいなぁ」
「そうであろうなぁ」
「あぁ、そうだなぁ。……ん?」
「なんじゃ、どうした? 勇者?」
「…………どわああああぁぁっ!? な、なんでグラインザ様がいるんだよ!」

 俺だけだと思っていたのに、まさかのグラインザ様かよ!

「我も男じゃからな! 男湯にいるのは当たり前じゃろうが!」
「いや、そうだけどさ! そうじゃないんだよ!」
「何が言いたいのじゃ? ああぁぁぁぁぁぁ……気持ち良いのう」

 ……なんかもう、どうでもいいや。確かにこれは気持ちいいからな。

「……のう、勇者よ」
「……なんですか、グラインザ様?」
「……娘を助けてくれて感謝しておるぞ」
「……まあ、成り行きでしたけどね」
「……それでもじゃよ。魔王の娘を助けるなど、普通はしないからのう」
「……成り行きですよ、成り行き。そこまで感謝される事じゃないですって」
「……」
「……」

 そこからの会話はなく、俺たちは温泉を堪能したのだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...