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ランキング対策

勝負に向けて

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 翌日から廻達は動き出した。
 まずはニャルバンに話をしてアークスの移住手続きを済ませてしまう。
 移住申請用紙を発行してもらいアークスにサインしてもらうと、とんぼ返りで経営者の部屋マスタールームへ。
 ニャルバンに移住申請用紙を渡すとメニュー画面のダンジョン情報にある鍛冶師の項目が明るくなった。
 さらに鍛冶師に付随する研ぎ師も明るくなったのでランキングへの影響は大きいだろうと廻は嬉しくなる。

 次に動いたのがモンスターに関してだ。
 ロンドには一日一回、五階層まではダンジョンに潜ってもらっているものの、やはりそれだけではモンスターのレベル上げも上手くは進まない。
 そこで考えた方法として、料理や道具目当てにやってきた冒険者へダンジョンに潜ってもらうようお願いをすることだ。
 もちろん廻自身が頭を下げてお願いするのだが、ここでは少し手こずってしまう。
 経営者が頭を下げれば何かあるんじゃないかと疑ってしまうのがこの世界の当たり前であり、それが冒険者ともなれば疑いの気持ちは人一倍高いだろう。
 何と言ってもダンジョンに潜ってほしいというお願いは、命の危険が関わるお願いだからだ。

 しかし助けてくれる冒険者もいた──ヤダンだ。
 ヤダンは廻の性格を知ったうえでアークスを連れてきてくれた。
 そんな廻が、自分が連れてきたアークスの為に頭を下げて動いてくれているとなれば、自分が動かないわけにはいかないと助けてくれたのだ。
 知り合いの冒険者に声を掛けて一緒にダンジョンへと潜りモンスターを倒しては戻ってきてくれる。
 賛同する冒険者は少なかったが、ロンドだけで行うよりも格段に効率は上がった。
 もちろんタダではない。ニーナの料理を無償提供して胃袋をしっかりと握り、再度ダンジョンに潜ってくれるよう英気を養ってもらう。

 そして一番反響があったのが、移住してきたアークスの研ぎ師としての腕前だった。
 アルバスが褒めていた通り他の冒険者もその腕前には驚かされたようで、最初はぽつぽつとしかいなかった冒険者だったが、数時間後には行列ができる程の賑わいを見せていたのだ。
 こうなると料理や道具だけを目当てにやってきた冒険者もダンジョンに潜ってみようかという気持ちになっていた。
 最下層まで潜る冒険者は稀ではあったが、その事も予想してストナの配置を五階層、進化用のゴーストナイトを三階層に配置して冒険者との遭遇率を高めている。
 その決断が功を奏したのか、三日目になるとストナはレベルが最大となり、進化用のゴーストナイトもレベル67と後レベル3で最大になるところまで来ていた。

「順調じゃないか?」
「そうだといいんですけどねー」

 アルバスの褒め言葉に普段の廻ならすぐに喜びそうなところだが、今日はなぜか元気がない。
 疑問に感じながらもさらによくする為の指摘も忘れずに伝える。

「だからって頭を下げるのを止めるなよ? 今が踏ん張りどころだからな」
「もちろんです! 頭を下げるくらい減るもんじゃないし、何度だって下げてやりますよ!」

 アルバスは冷静な目で状況を見ている。
 廻もニーナに指摘された、知らないではすまされない、を心に刻みアルバスに対しても積極的に質問をしていた。

「ここまで来たら、何匹か三軍を使ってゴーストナイトのレベルを最大まで上げてもいいんじゃないか?」
「私もそう思ったんですけど、もう経験値の実がないので進化した時のことを考えるとむやみやたらに使えないんですよね」
「うーん、それもそうだな」
「ヤダンさん達も毎日のようにダンジョンへ潜ってくれてますし、本当に皆さんいい人ばかりですね」

 ヤダンはアークスを連れてきたという後ろめたさから潜っているのだが、廻がそこに気づくことはない。
 アルバスは気づいているのだが、口にすることでもないと黙っていた。

「それよりもだ、小娘」
「なんですか?」

 アルバスはここまでの行動の中で一つ気になることがあったので口を開く。

「いまだにガチャってやつでレア度3が出ないのはどういうことなんだ?」
「うぐっ!」
「……いや、誤魔化されんからな?」

 誤魔化すつもりはないのだが、以前にも口にした運の要素がとても強いものなので説明方法は一つしかないのだ。

「わ、私の運がないんです!」
「それは前にも聞いたが……はぁ」
「た、溜息は酷くないですか! 私だってレア度3レア度3って祈りながらガチャを引いてるのに!」
「それで出ないんだから相当な運の悪さだよな」
「……す、すいません」

 廻は本気で落ち込んでしまった。というのも、ランキングを上げる為にここまで上手く進んでいるのはアルバスを始めニーナ、ポポイ、ロンド、そしてアークスの力がとても高く、廻が何をしたのかと聞かれると廻自身が首を傾げてしまうくらい何もできていないのだ。
 頭を下げてはいるものの、それは廻の力というよりもダンジョンに潜ってくれている冒険者の力だと廻は思っているので自身喪失中であり、元気がないのもこのことが理由だった。

「……小娘がそんなんでどうするんだよ」

 その落ち込みようを見たアルバスは悪いと思いすぐに励ましの言葉をかけた。

「でも、本当に何もできてないんですもの。手に職がないって、こんなにも辛いことだとは思いませんでした」
「言っておくが、本来なら経営者は後ろで踏ん反り返っているのが普通なんだ。それを小娘はわざわざ前に出てきて自分から動いている。それだけでも役に立っていると思え」
「……なんか、怖い」
「……てめえ、人が励ましてやろうと思った時にはそれかよ!」
「冗談です。本当にありがとうございます」
「……何なんだよ、調子が狂うじゃねえか」

 換金所に立ちながらそんな会話をしていた二人は、その後は戻ってきた冒険者の対応に追われてしまうのだった。

 ※※※※

 翌日にはゴーストナイトのレベルが最大に上がったこともあり廻は経営者の部屋マスタールームでストナの進化を行った。
 ゴーストナイトからゴーストパラディンへと進化したストナのレベルは17。経験値の実を使い果たしていた廻にはこれが精一杯である。
 レベルアップの為に配置していた三軍もほとんど合成に回した結果、手元のモンスターはほとんどいなくなってしまった。

「……こ、これからどうしよう」
「今いるモンスターで頑張るしかないと思うにゃ」
「それはそうだけど……なんか、急に不安になってきたよ」

 昨日アルバスと話をした内容に廻は自信を失い始めていた。
 元々自信があったわけではないが、それでも一生懸命ダンジョンや都市を良くしようと動いている中で少しはやれているんじゃないかという気持ちを抱いていた。
 だが今はその少しの気持ちも徐々に崩れてしまいそうになっていた。

「メグルはしっかりやっているにゃ! 少なくてもここにいる人達はみんな楽しそうに過ごしているにゃ! アークスもそうだし、きっとカナタ達もそうなるのにゃ!」
「……そうかな?」
「そうだにゃ! 経営者がそんな顔をしていたらダメにゃ! 後ろで踏ん反り返っているのが普通の経営者なのにゃ!」
「それ、アルバスさんにも言われたんだけど」
「それが普通だからみんなそう言うにゃ!」

 ニャルバンの両手を広げて上下に振る姿になんだか癒された廻は小さく笑みをこぼす。
 その様子を見たニャルバンも笑みを浮かべてさらに激しく両手を動かしていた。

「……ニャルバン、動かしすぎだよ」
「にゃにゃ?」

 廻はこの時、神の使いがニャルバンで本当に良かったと心の底から思っていた。
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