異世界ダンジョン経営 ノーマルガチャだけで人気ダンジョン作れるか!?

渡琉兎

文字の大きさ
139 / 183
第4章:それぞれの過去

換金所の窓口願い

しおりを挟む
 ジレラ夫妻の家に到着した廻。
 リリーナが迎えてくれて中に入るとボッヘルもゆっくりしていた。

「メグルちゃん、どうしたんだい?」
「ちょっとリリーナさんにお願いがありまして」
「私に? またダンジョンに潜るとかですか?」
「いえ、ダンジョンは関係ない……いや、間接的には関係あるのか?」
「「……?」」

 やってくるなりぶつぶつと呟き出した廻にジレラ夫妻は顔を見合わせて首を傾げている。
 その様子に気がついた廻は慌てて背筋を正すと、リリーナへ換金所に立ってくれないかとお願いを口にした。

「私が、換金所の窓口に?」
「はい。現状、アルバスさんと私の二人しか窓口に立てる人がいないんです。特にアルバスさんは毎日仕事をしている状況で、休みを与えることもできなくて」
「……なるほど、それで元冒険者である私に声が掛かったということですね」
「はい。実力的にも元冒険者ランキング27位というのは申し分なく、さらに女性であれば冒険者の方からも好意的に見てもらえるかと」
「ですが、女性だからと甘くみられることもあるのでは?」

 リリーナからも甘くみられるのではという懸念が口をついたが、その点についての解消策も説明していく。

「そうですね……アルバス様が見てくれるなら問題はなさそうですが、それでも双剣のリリーナという名前にどれだけの効果があるかは未知数ですよ?」
「アルバスさんが言うには、全く問題はないだろうということですよ。ジーエフに来ている中で実力者と言えばヤダンさんですけど、それでも497位ですからね」
「なるほど。あなたはどう思いますか?」

 ここでリリーナはボッヘルに意見を求めた。
 話をしている間、ボッヘルはずっと厳しい表情を浮かべている。
 もしかしたら断られることも覚悟の上で、廻はボッヘルの言葉を待った。

「……俺は、正直なところ立ってほしくないと思っている」
「それはどうして?」
「いや、だってよう……」
「何かあるんですか?」

 歯切れの悪いボッヘルに廻が質問をする。
 しばらくリリーナを見つめた後、ようやくその理由を口にした。

「……だって、リリーナは可愛いじゃないか!」
「「……へっ?」」
「リリーナの可愛さ目当てに冒険者が集まるようなことがあったら、狙われるようなことがあったら、俺はどうしたらいいんだよ!」
「……えっと、それは、お付き合い目当てでってことですか?」
「当然だろう! メグルちゃんだってリリーナの可愛らしさは分かっているだろう?」
「えっと、そうですね。リリーナさんは美人で可愛い方ですから、人気は出るかなと思いますけど」
「そうだろう! はっきり言って、俺は腕っぷしには自信がない。もしリリーナが冒険者に狙われようものなら……助けられないだろう!」

 まるで泣きそうな声音でそう告げられてしまった廻はどうしたらいいのか目を泳がせてしまう。
 まさかリリーナにお願いをしに来て、ボッヘルからこれほどの拒否反応が出るとは思ってもいなかったのだ。
 だが、ここまで拒否されてしまうとリリーナのことだが夫婦の問題にもつながりかねない。

「……そ、そうですか、そうですね。分かりました、リリーナさん、変なお願いをしてしまってすみませんでした」

 そう言って立ち上がろうとした廻だったが、その手をリリーナが掴んで首を横に振っている。

「……あなた、メグルさんが困っているのに、そんなことを言っていいのですか?」
「うぐっ! そ、それは……」
「あの、リリーナさん。私は無理強いはしたくありません。経営者だからって、お二人の意見を無下にして命令をすることは嫌なんです。あくまでもお願いであって、嫌なら嫌だと言っていいんですよ?」

 廻は早口で説明したが、それでもリリーナは首を横に振っている。

「違うのですよ、メグルさん。私達は、二人で決めたことがあるのです」
「決めたこと、ですか?」
「はい。前の都市では仕事も与えられず、ただただ時間を無駄にして過ごしていました。できることと言えば、他の大工に与えられた仕事の手伝い程度で生活は苦しかったんです」
「それは……聞きました。経営者様に目を付けられたんですよね」
「えぇ。その中で何が一番苦しかったかというと、やはり満足いく仕事ができないことで、心が荒んでいくのです」

 ジレラ夫妻にとっての仕事は、心の安定剤にもなっていたのだろう。
 その仕事ができない、させてもらえないとなれば、心が荒み生活にも影響を及ぼしてしまうはずだ。

「カナタ君達から話を聞いた時は、すぐに飛びついたんですよ」
「そうだったんですね」
「そうしてメグルさんと出会い、私達は今、とても充実しているんです。その時に決めたことというのが――メグルさんと全力で助けるということです」

 その言葉を聞いた廻は、心の底から嬉しさが溢れ出し、嬉しさのあまりに涙が溢れそうになっていた。

「メグルさんは私達に仕事を与え、そしてとても優しくしてくれています。今だって、命令ではなくあくまでもお願いだと言ってくれました。……それをあなたは、ただ単に私の心配をするだけであの時の決め事を破ろうとしているのですよ?」

 感動に打ち震えていた廻だったが、最後の発言を機にリリーナの様子が変わったことに気がついた。
 いつでも優しい雰囲気を湛えているリリーナだが、この瞬間だけは怒りが込み上げているかのようにピリピリとした雰囲気が伝わってくる。

「……あ、あの、リリーナさん?」
「あなた、本当に断ってしまってもいいのですか?」
「そ、それは……」
「私はメグルさんを助けたいと思っています、本気で思っています。それは決めたことだからという以上に、恩人を助けたいと思っているのです」
「もちろん俺だってそう思っている!」
「だったら、あなたのわがままで断ってもいいのですか? ……本当に?」

 リリーナはテーブルに乗り上げるかのように体を前に出している。
 廻の角度からリリーナの表情を伺うことはできなかったが、ボッヘルの表情を見るにおそらく憤怒に染まっているのかもしれない。

「……リリーナさん? その、夫婦喧嘩はよくないかとー」
「これは喧嘩ではありませんよ、メグルさん。お互いに意見を交わし、着地点を探っているのです」
「……着地点というか、リリーナさんの意見が強いような気もしないでもないんですがー?」
「いいえ、これは夫婦の問題ですから」

 言いながらもリリーナは廻の方を振り返らない。
 この状況から、ボッヘルの答えは誰の目から見ても明らかだった。

「……換金所の窓口、問題ございません」
「……ということですので、そのお願いを受けさせていただきます」
「……えっと、その、ボッヘルさんは本当にいいんですか?」

 席に着いたリリーナの表情を伺いながら廻は改めてボッヘルにも確認を求めた。
 その表情は家を訪れた時からするととても疲れているように見えるが、それでもはっきりと答えてくれた。

「……いや、本当に問題ないよ。リリーナが言うように、俺もメグルちゃんの力になりたいと思っているし、二人で決めたことでもあるからな」
「全く、心配してくれるのは嬉しいのだけど、嫉妬で目を曇らせるのは止めてほしいわ」
「……て、手厳しいですね、リリーナさんは」

 苦笑いの廻だったが、これで換金所の窓口問題はひとまず解消された。

「窓口担当の人を早く雇えるよう私でも考えておくので、それまではどうかよろしくお願いします」
「うふふ、大丈夫ですよ。また何か困ったことがあれば声を掛けてくださいね」
「お、俺が力でも力になれることがあれば言ってくれよな!」

 ボッヘルからも協力の返事をもらった廻は、紆余曲折ありながらもジレラ夫妻の家を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...