英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第22話:魔法の授業

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「まずは魔法の基礎知識がどれくらいあるのか、聞かせてくれるかな」

 いきなり実践ということはなく、マギスはリックたちが魔法に対してどれだけの知識を有しているのか、それを確かめることにした。

「えぇ~? さっさと実践しようぜ、マギス兄~!」
「そうですよ、先生」
「実践! 実践! じっせ~ん!」
「いいや、これだけはダメだよ。みんなにケガをさせるわけにはいかないからね」

 リック、アリサ、ティアナがそれぞれ不満を口にしたが、今回のマギスは頑として譲ることをしなかった。
 これはエミリーに指摘されたからというのもあるが、魔法を潜り抜ける過程で彼らにケガをさせてしまっては元も子もない。
 最悪の場合、彼らの親から授業をやらせないでくれと言われるかもしれないと考えた。
 これでもマギスなりに、慎重になっているのだ。

「ここは魔導師の二人に聞いてみような。オックス、ピピ、どうだい?」

 マギスは三人から視線を魔導師の二人へ向けた。

「えっ? あの、その……ま、魔法は、周囲に漂っている魔力の欠片を集めて、自分の魔力と融合、そうして初めて魔法を使える……です」
「オックスの言う通り、なのです」
「うん、正解だ。ありがとう、オックス」
「え、えへへ……」
「……ピピは?」

 オックスの答えに同意を示しただけのピピだったが、褒められたのが彼だけだったので少しだけ不満を露わにする。

「それじゃあピピ、魔法を使うにあたり、属性の変化はどうやって与えているかな?」

 そこでマギスは新しい質問をピピにぶつけてみた。

「人それぞれで魔力の質は異なるの。故に使える属性と使えない属性に分かれておりそれらを理解することが何よりも大事になるの。魔力の欠片と自分の魔力を融合させた時に属性は決まるので複数属性を持っている人は融合時に変化を与える必要があるの」
「……うん、大正解だ。すごいな、ピピ」
「そうなの。ピピはすごいのー」

 いつも眠たそうにしており、ゆっくりとした言葉遣いのピピだったが、魔法のことを語る時だけは早口となり、マギスの質問にもほとんど一息で答えてしまった。
 さすがのマギスもこれは予想外で僅かにたじろいでしまう。
 とはいえ、褒められたピピは満足したのか胸を逸らせてフンと鼻息を荒くしていた。

「……マギス兄。ピピは魔法のことになると人が変わるから、質問する時は気をつけろよー」

 マギスが驚いていると、こっそりとリックが理由を教えてくれた。
 これが説明に時間を要するものだとピピが長時間、それも誰も口を挟めないよう一息で話すのだと考えると、マギスは今後の質問には気をつけなければならないと思うようになっていた。

「……さて! それじゃあ本題に入るけど、魔法を潜り抜けて魔導師に向かっていくことは簡単……じゃないらしい」
「らしいってどういうことだ?」
「……難しいってことだね、うん」

 エミリーに指摘されたことを思い出したマギスが言い直すと、そこへリックが疑問を口にする。
 マギスもすぐに難しいのだと答えたが、歯切れはよくなかった。

「ふざけないでください!」

 だが、そこへ怒声が響き渡った。

「……カイト君」

 声の主を見たニアが悲しそうな、それでいて困ったような顔で彼の名前を呟いた。

「マギス先生、僕たちを甘く見ないでください!」
「甘くなんて見ていないんだけどなぁ」
「見ています! 魔法を潜り抜けて魔導師を狙う? そんなこと、できるはずがありません! だからこそ僕たちは実戦授業をする時、別々に行っているんですよ!」

 キッと睨みながらそう言い放ったカイトを見ながら、マギスはゆっくりと口を開いた。

「それなら、僕が実践して見せようか」
「本当にできるなら、お願いしたいですね」

 鼻で笑うような態度でそう口にしたカイトは、マギスが失敗すると思っていた。

「分かった。それじゃあ、今この場で見せてあげようかな」

 そこでマギスはそう宣言すると、ニアへ振り向いた。
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