英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第23話:反発する生徒

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「ニア、僕に向けて魔法を放ってくれないかな」
「…………えっ? ええええぇぇええぇぇっ!! わ、私がですか!?」

 突然のご指名に悲鳴にも似た声をニアがあげた。
 だが、マギスとしてはいたって真面目なお願いであり、彼は表情を変えることなく頷いた。

「実際に見せてあげた方が、カイトにはいいかもしれません」
「で、でも、私がマギスさんに向けて魔法を放つなんて……で、できません!」
「大丈夫です。初級魔法を放ってくれればそれでいいですから」

 軽く体をほぐしながらそう口にすると、マギスは先日模擬戦を行った場所へ歩いていく。
 その間もニアは本当に魔法を放っていいのか、何かあったらどうしたらいいのか、そのことばかりを考えていた。

「……なんじゃ、マギスよ。魔法を放つのか?」
「ニアがね」
「そのニアはやりたくなさそうじゃぞ?」
「でも、僕が僕に魔法を放っていたら納得してもらえなさそうだし、生徒にやらせるわけにはいかないだろう」

 オックスやピピなら説得すればやってくれるかもしれない。
 だが、人に向けて魔法を放つというのは思いのほか覚悟のいる行為だ。
 それが模擬戦などではなく、直撃を狙うものならなおさらだ。

「ふむ……よし! いいだろう、マギス!」
「んっ? 何がだい、エミリー?」
「我が魔法を使ってやるぞ!」
「……いや、頼んでいないんだけど?」
「遠慮するでない! 我も近頃はあまり強力な魔法を放てずにうずうずしていたところだ!」

 マギスはニアに初級魔法を放つようお願いしていた。
 しかし、何を勘違いしたのかエミリーは強力な魔法を放つつもり満々で腕をぐるぐると回し始めた。

「いや、初級魔法でいいんだけど? っていうか、エミリーには頼んでいないよ?」
「さて、しっかりと見ておくがいいぞ、皆の者! これがマギスの実力じゃぞ!」

 そう力強く言い放ったエミリーが右腕を上に向けると、頭上に巨大な火球が顕現した。

「な、なななな、なんだこりゃああああっ!?」

 驚きの声をあげたのはリックだった。
 他の面々も口を開けたまま固まっており、ニアに至っては両手で口を覆い隠して動けなくなっている。

「すっごおおおおいっ! エミリーちゃん、すっごおおおおいっ!!」

 唯一興奮しているのはティアナで、エミリーの魔法を指差しながら飛び跳ねていた。

「ちょっと待て、エミリー! それはやり過ぎだよ!」
「マギスならこの程度、問題にはならんだろう! さあ、潜り抜けてみせよ!」

 マギスが両手をバタバタさせて止めようとしたのだが、エミリーは全く気にすることなく、むしろ楽しそうに目をらんらんと輝かせながら火球を解き放った。

「ったく、これじゃあ潜り抜けても、魔法が高台を吹き飛ばしてしまうだろうが!」

 悪態をつきながら駆け出したマギスは、腰に提げていた剣を抜き放つと火球めがけて突進していく。

「きゃああああっ!?」
「危ないって、マギス兄!」

 まさかの行動にアリサは悲鳴をあげ、リックは彼の名前を叫んだ。

「……面白い、やってみるがいい、マギスよ!」
「楽しんでいるんじゃないよ、エミリー!」

 マギスが何をしようとしているのか理解したエミリーの表情は、自然と笑みを浮かべている。
 そのことを見ずとも理解したマギスはため息を漏らしながら、火球めがけて剣を振り抜いた。

「そこだ!」

 ――ザシュ!

 マギスの鋭い一閃が火球を捉える。
 すると、火球に飲み込まれるでもなく、爆発するでもなく、その場で単なる魔力の欠片となって霧散してしまった。
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