異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜

渡琉兎

文字の大きさ
5 / 195
第一章

第5話:初めての魔獣

 王都を出てからしばらくは、順調に進むことができた。
 なんせ都市から都市へと移動する街道を進んでおり、それが王都へと繋がる街道であればなおさら安全だろう。
 とはいえ、何事にも絶対は存在しない。
 王都とバルフェムを繋ぐ街道も、中間を過ぎたあたりから徐々に荒れ始める。

「止まって」

 そして、街道を外れた茂みの方で何かが動く気配を感じたティアナは、真剣な面持ちでそう口にした。

「どうしたんですか?」
「あそこ、見えるかしら?」

 楓を守るように立ったティアナがそう口にしながら、茂みの方を指さす。
 目を凝らして茂みを見ていると、ガサガサと何かが動いているのが見えた。
 そして、茂みの中からトカゲのような顔がニョキッと出てきた。

「え? もしかしてあれが、魔獣ですか?」
「そうよ。っていうか、カエデって魔獣を見たことがないの?」
「えっと……実は、そうなんです。訳アリなもんで」

 笑いながら楓がそう口にすると、ティアナは苦笑いしながらも背負っていた長槍に手を伸ばす。
 そして、穂先を魔獣に向けながら腰を落とし、構えを取る。

(……なんだろう。ティアナさんが構えただけで、ものすごい迫力があるな)

 これが歴戦の冒険者が出せる風格だとは知らず、楓はそんなことを考えていた。

『フシュルル……フシャアアアアッ!』
「えぇっ!? あのトカゲ、でかあっ!!」

 ティアナの殺気に当てられた魔獣は、怒りの咆哮を上げながら飛び出してきた。
 その大きさは全長一メートル以上あり、楓とほぼ同じくらいとあって、思わず驚きの声を上げてしまう。

「すぅー…………ふっ!」

 そんな楓の声など聞こえていないか、ティアナは集中力を研ぎ澄まし、息を吸うと、その息を一気に吐き出しながら鋭い突きを放つ。

 ――ドンッ!

「……へ?」

 ティアナと魔獣との距離はまだ遠く、長槍とはいえまだまだ間合いの外だった。
 それにもかかわらず、放たれた突きによって魔獣の眉間には大きな穴が開き、そのまま動かなくなってしまった。

「……え? 何が起きたの?」
「ふふーん! どう? 私、強いでしょ?」

 驚きの声を漏らした楓に対して、ティアナはドヤ顔でそう口にした。

「私の腕前を見せておいた方が、カエデも安心するかなと思ってね。弱い魔獣だったけど、本気を出してみたんだ」

 続けての言葉はやや茶目っ気が入っており、ティアナは楓にウインクをしてみせた。

「……あ、ありがとうございます!」
「これから魔獣の討伐部位を回収するけど、ここで待ってる? 一応、近くに魔獣の気配はないから安全だと思うけど?」

 異世界系の作品でよくある、冒険者の収入源として確保されることが多い討伐部位。
 この世界で生きていくのであれば、そう言った日常にも慣れなければならないと思った楓は、首を横に振ってから口を開く。

「私も近くで見ていいですか?」
「いいけど、楽しいものじゃないよ? むしろ、グロいかも?」
「構いません!」
「そう? まあ、それならいいけど……」
「ありがとうございます!」

 どうしてそんなに嬉しそうなのか、ティアナにはそれが分からなかった。
 とはいえ、楓が見たいと言っているのだから、ティアナに断る理由はない。
 こうしてティアナは、楓が近くで見ている中、魔獣の討伐部位の確保を始める。

「こいつはハイグァナという魔獣よ。こいつの討伐部位は、長い舌ね」
「そうなんですね。耳とか鼻とか、そんな部分なのかと思っていました」
「二足歩行の魔獣とかだと、耳とか鼻が討伐部位に……って、なんで分かるの?」

 よくある異世界系の作品の知識を口にしたため、ティアナは作業をしながら質問してきた。

「えっとー……ほ、本で読んだことがあったような?」
「本~? ってことは、ティアナは文字の読み書きができるんだね!」
「そうですけど、普通はできないんですか?」
「平民で読み書きができる人は少ないかも」
「計算はどうなんですか?」
「お金のやり取りはあるから、簡単な計算ならって感じかな」

 ハイグァナの大きな口を左手で開き、右手にナイフを持ち、器用に長い舌を斬り落とす。
 そして、舌を腰に提げた袋に押し込むと、今度は両手で長槍を構える。

「え? 解体とかはしないんですか?」
「することもあるけど、ハイグァナの素材はありふれているからね。新人の子とかは確保するけど、私はしないかな」
「お肉は?」
「硬くて美味しくない。食糧がない時くらいにしか食べないわね」

 せっかくなら魔獣の解体も見学したかったと思っていた楓は、別の質問を口にする。

「でも、従魔はこういった魔獣を従えるって感じなんですよね?」
「そうね。まあ、ハイグァナは獰猛で人間に懐くとは思えないわ。何より、弱いし」
「そっかー」

 どこか残念そうな声を漏らした楓を見て、ティアナが思わず呟く。

「……カエデって、変わってるわね」
「え、そうですか?」
「普通、女性は魔獣に近づくことすらしないのに、討伐部位の確保や解体について聞いてくるんだもの」
「あはは。まあ、ちょっとだけ興味がありまして」

 頬を掻きながらそう口にした楓。
 ティアナも本気で追及するつもりはなかったのか、長槍の穂先をハイグァナの死体に押し付ける。すると――

 ――ゴウッ!

「えぇっ!? も、燃えた!!」

 ハイグァナの死体が急に燃え上がり、楓はここでも驚きの声を上げた。

「この槍は魔導具でもあるの。炎の魔法が宿っていて、魔獣の死体を処理するのに役立つんだー! ほら、魔獣の死体って放っておくと、他の魔獣を呼び寄せちゃうからさー」
「へぇー! 便利ですねー!」

 ティアナは冗談でそう口にしたつもりだった。
 しかし楓は本気で便利だと思い、納得顔で何度も頷く。
 その姿を見たティアナは最初こそ瞬きを繰り返していたが、すぐに大きな声で笑いだした。

「あはははは!」
「え? あの、どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないけど……ふふふふ。カエデって、本当に変わってるね!」
「あー! ティアナさん、今のは絶対に貶してますよねー!」
「違うから、褒めてるから! ……ふふ、あはははは!」

 魔獣の死体が燃えていく前で大笑いしている女性二人。
 街道を歩いている人たちからは、奇妙に映ったに違いなかった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚
ファンタジー
調理師・宇堂優也。 彼は、交通事故に巻き込まれて異世界へと旅立った。 彼が異世界に向かった理由、それは『運命の女神の干渉外で起きた事故』に巻き込まれたから。 神々でも判らない事故に巻き込まれ、死亡したという事で、優也は『異世界で第二の人生』を送ることが許された。 そして、仕事にまつわるいくつかのチート能力を得た優也は、異世界でも天職である料理に身をやつすことになるのだが。 始めてみる食材、初めて味わう異世界の味。 そこは、優也にとっては、まさに天国ともいえる世界であった。 そして様々な食材や人々と出会い、この異世界でのライフスタイルを謳歌し始めるのであった。 ※【隠れ居酒屋・越境庵】は隔週更新です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ
ファンタジー
社畜OL、水城愛璃(みずきあいり)は、女神のうっかりミスにより25歳の若さで死んだ。 お詫びとして女神が提案したのは、オッドアイの幼女ボディへの転生。 そうして幼女の姿で異世界転生を果たしたアイリだったが、 特異体質により『感情が高ぶると暴発する魔眼』が宿っていることが発覚! しかも両目!? それを封じるため、女神から与えられたユニークスキルは、『神のサングラス』。 このサングラスをかければ、魔眼の暴発を抑えられるらしいけど……常にグラサンかけてる幼女とか怪しすぎじゃない!? だけど、とある"激レア魔道具"があれば 、なんと魔眼を完治できるらしい。 ならばその魔道具を手に入れるため、異世界を巡るしかないっ! さらに旅の道すがら、もふもふフェンリルや忍者少女、特異スライムを仲間にし、珍道中はさらに加速していって――!! まったりのんびりをモットーに、たまに魔物や刺客に襲われちゃう。 【グラサン幼女】の破天荒な異世界旅が始まる! ※更新は不定期です。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろうでも同時連載中です◇

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!  「しおり」をご利用のかたは、閑話ではなく本編にしおりを残しておくことをお勧めします。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。