門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

文字の大きさ
20 / 107
第一章:不当解雇

第19話:VSギレイン

しおりを挟む
 松明の前に移動すると、ギレインが木剣を肩に担いで俺の事を待っていた。

「ようやく来たか!」
「俺は逃げたいくらいなんですけど、負けるわけにはいかなくなりました」
「ガハハッ! メリースに何か言われたか?」

 ……まあ、その通りではあるんですけど、明確な理由は違います。

「だがなあ、俺だって自警団の隊長って肩書きがあるんでな、簡単には負けてやらんぞ?」
「だったら、模擬戦を中止するって選択肢はないんですか?」
「ねえなあっ! 俺は、戦いが大好きだからよう!」

 この人、戦闘狂かよ。

「レインズさん、これを使ってください!」

 木剣を持って横に来たのは、ギースだった。
 その顔は、誰がどう見ても模擬戦を楽しみにしている少年のものであり、ここで中止にでもなったら泣き出してしまいそうなものでもある。

「そんなに嬉しいのか?」
「そりゃあな! これで、親父が一週間は酒を飲まなくなる」
「お前! 親父が負ける前提で話を進めるんじゃねえよ!」
「親父が酔うと面倒くさいから言ってるんじゃないか!」

 その面倒くさい現場に、俺は巻き込まれているんですがねぇ。

「仕方ない。メリースさんにも言ったが、勝てる保証はないからな?」
「大丈夫じゃねえかな?」

 おい、ギレイン。親父の威厳はどうしたんだよ。

「それじゃあ、模擬戦の審判は僕が務めさせてもらおうかな」

 そう言って俺とギレインの間に立ったのは、ギレインと同年代くらいの眼鏡を掛けた男性だ。

「初めまして、レインズ君。僕はミリルの父親でクランキーと言います」

 とても丁寧な口調に、俺は驚きつつも差し出された手を握り返す。

「ミリルが危ない目に遭っているところを助けていただいたとか、感謝していますよ」
「いや、当然の事をしただけです」
「一応、私も自警団の一員なのですが、魔法師なのであちらの筋肉バカとは一緒にしないでくださいね?」
「おい! 聞こえているぞ、クランキー!」

 筋肉バカか……うん、非常に納得いく体格ではあるな。

「てめえも納得してんじゃねえぞ、レインズ!」

 む、顏に出ていたか。

「それでは、始めましょう。……両者、準備はいいですか?」

 クランキーさんは俺の前から移動すると、再び間に立って右腕を上げる。
 俺とギレイン、二人が頷いたのを確認すると、三歩後退してから――

「模擬戦――開始!」

 勢いよく振り下ろされたのと同時に、ギレインが突っ込んできた。
 その迫力は結構なもので、魔獣で例えるとDランクかCランクと同等のものがある。
 振り抜かれた木剣を受け止めると、衝撃でわずかに地面が沈み込む。

「俺の初撃を受け止めるか、なかなかやるじゃねえか!」
「これ、俺じゃなかったら、脳天かち割られてたんじゃないですかね!」

 鍔迫り合いを繰り広げながら、ギレインが目の前で笑う。
 俺は足腰に力を込めると、腕の力だけをわずかに抜いて刀身を逸らせる。
 力が抜けた事に気づいたのか、ギレインは即座に後退して体勢を立て直す。
 そこへ追撃を仕掛けようと前に出たのだが、地面を蹴り上げて砂利が俺の顔に襲い掛かる。

「親父! 汚いぞ!」
「戦闘に汚いも何もねえよ!」
「その通りだな!」
「うおっと!」

 体をわずかに引いていたので、こう来ることは予想していた。
 砂利を木剣で打ち払いつつ、前に出て袈裟斬りを放ったのだが、さらに飛び退いて回避されてしまう。
 だが、集まっていた観衆の壁がさらなる後退を防いでいるので、俺はギレインを追いつめた形になった。

「やるじゃねえか、レインズ! これは、俺も本気で掛からないと、マジで負けそうだぜ」
「本気じゃなかったんですか?」

 俺はこの模擬戦をさっさと終わらせたいと思い、軽い挑発のつもりで口にしたのだが――

「……へへ、面白いじゃねえか! いいぜ、これで決めてやるぜ!」

 この人、単純すぎる。
 大きく息を吸い込んだギレインは、目を見開くと先ほどよりも速く俺の間合いに入ってきた。

「スキル――ラッシュブレイド!」

 体力が続く限り、剣を振り続ける事ができるスキル、ラッシュブレイドか。
 なるほど、このスキルがあるから、ギレインは筋肉バカになったんだな。
 鋭く振り抜かれる一撃が全て、初撃と同等の威力を持っている。
 受けるのに一度でもミスをすれば、俺の負けが決定するだろう。
 広場には木剣と木剣がぶつかり合う音が響いている。
 俺は正面から受け止め、受け流し、打ち落とす事もあったが、ギレインは全てに対して素早く体勢を立て直し、再び木剣を振るってくる。
 体力に自信があるのだろう、1分以上が経過した今でも、ギレインの瞳には勝利を確信している炎が灯っていた。

「だが、俺も負けられないんでね!」

 実力は把握した。
 ギレインの実力は、エリカよりはやや強いものの、ガジルさんには及ばない。
 対人戦の経験は少ないが、ガジルさんとの模擬戦は嫌という程やって来ているんだ。

「そこだあっ!」

 ――バキッ!

 鈍い音が響き渡り、観衆の視線が音の出所に集まる。

「……嘘だろ、おい!?」
「……武器破壊とは、恐ろしい技術ですね」

 ギレインのラッシュブレイドを受ける際、俺は全く同じところに刀身をぶつけていた。
 そして、徐々に欠けていく刀身を見つめながら、最後にこちらからも木剣をぶつける事で武器破壊を行ったのだ。

「……こりゃあ、完敗だわ」
「勝者――レインズ君!」

 クランキーさんが声高に叫ぶと、観衆からは大歓声があがった。
 俺は小さく息を吐きながら、ふと感じた視線の先へ顔を向ける。
 そこにいたのは、満面の笑みを咲かせているリムルだった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...