門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

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第一章:不当解雇

第27話:指導とギレインの過去

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 俺が最初に伝えた事は、打ち合いをする以前の問題だった。

「ギレインは基礎が大事だと言っていたが、素振りはやっているのか?」
「もちろんです! 毎日、千本の素振りをしてます!」
「それじゃあ、その素振りをする時に何をイメージしている?」
「……イメージ、ですか?」

 やはり、そこで躓いていたか。
 ギースの打ち込みには重みがあるものの、単に力いっぱい打ち込んでいるだけで、相手の動きを想定しての打ち込みではなかった。
 普段から深く考えずに素振りを繰り返していたのだろう。

「何もイメージせず、闇雲に素振りを繰り返すのはあまり意味がない。こうしてギレインと打ち込みをしていたのであれば、ギレインがどのように動くのかイメージして、相手の動きを考えながら素振りをするべきだ」
「で、でも、それじゃあ、千本の素振りは難しいぜ……です!」
「量より質だ。そうだなぁ……千本の素振りができていたなら体力は付いているだろう。これからは、イメージを膨らませながら百本の素振りをしてみるんだ」
「親父がどう動くかをイメージしながら、百本かぁ……」

 何やら難しそうに考えているが、これは何も難しい事ではない。
 見ず知らずの相手をイメージしろと言っているわけではなく、一番身近にいた人物をイメージしろと言っているのだから。
 俺なんて、見た事も聞いた事もない魔獣の動きをイメージして素振りをしていた頃もあったんだからな。

「とりあえず、それを十日間続けてみろ。そのうえで、ギレインから一本を取る事ができたら、本格的な指導に移ろうか」
「わかった! ……じゃなくて、わかりました!」

 言うが早いか、ギースは早速素振りを開始した。
 闇雲に素振りをするのではなく、一振りの中に意味を持たせての素振りだ。
 先ほども伝えたが、今までの素振りが無駄だったわけではない。実際に体力は付いているだろうし、剣を振るための筋肉も付いているだろう。
 後は、その剣筋に意味を持たせるだけなのだ。

「すまんな、レインズ」
「気にしないでくれ。しかし、本当によかったのか? 何度も確認するようで悪いが、息子だろう?」

 今ならば素振りに意味を持たせただけなので剣筋を変えたりはしていない。
 自分の手で息子を鍛えるなら、まだ間に合うのだ。

「いいんだよ。……俺が隊長になった経緯は、誰かから聞いたか?」
「あぁ。ついさっき、リムルからな」
「そうか……俺の前に隊長をしていた人なんだが、その人は俺の師匠だったんだ。俺なんかよりも腕が立つし、勇敢で勇猛で、俺が見てきた中でも最高の人だった」

 ギレインはギースの素振りを見つめながら、大きく息を吐いた。

「だからよ、驚いたんだ。そんな師匠が死んじまったって聞いた時はな」
「相手は、魔獣だったんですよね?」
「あぁ。何度も討伐した事がある魔獣だったんだが、一匹だけが異様に強くてな。俺たちの初手も悪かった。若い奴らに経験を積ませようと指示を出しながら狩りをしていたんだが、その若い奴らが一瞬で殺されちまったんだ」

 人間同士で実力が異なるように、同じ種類の魔獣同士でも実力が異なる事はある。
 それでも、極端な実力差が出る事は少ない。
 もし、同じ種類の魔獣同士で極端に強い個体が現れたとしたならば、それは変異種と呼ばれる、特殊な進化を遂げた個体だったのだろう。

「すぐに指示を出していたベテラン自警団が相手をしたんだが、そいつも殺されちまってな。幸いにも狼煙を上げてくれたから、すぐに師匠が駆けつけたんだが……結果は相打ちだ」
「変異種を相手にして全滅しなかっただけでも、ギレインの師匠は凄い事を成し遂げたと思いますよ」

 変異種は非常に極端な実力差を俺にも見せつけてきた。
 デンには及ばないにしても、苦戦を強いられるほどには強かったからな。

「そういえば、デンは変異種ではないんだよな?」
『我はそんなものではない。そもそも、シルバーフェンリルに変異種は存在しないし、唯一無二の魔獣じゃからな』
「唯一無二って、そりゃお前、凄い魔獣じゃないか。もしかして、ランクもAとか、それ以上なのか?」

 ここで本当の事を伝えていいものか考える。
 ……そして、考えた結果、俺は――

「……まあ、そんな感じですね」
『むっ! おい、お主。我はそんなに低いランクでは――』
「この周辺にAランク以上の魔獣っているんですか?」
『おい、レインズ! 勝手に話を進めるな! 我は――』
「気配を探ったところ、Cランク以上はいなさそうですけど?」
「あ、あぁ。確かに、この辺りには最高でCランクの魔獣しかいないが、よくわかったな」

 俺はデンに本当のランクを言わせないようにと話題を変えたが、気配を探っていた事に驚かれてしまった。

「魔獣の気配なら、俺の専売特許ですからね」
「それも、魔獣キラーのおかげって事か? マジで凄いスキルだな。こりゃあ、今頃はジーラギ国とやらはてんやわんやじゃねえか?」
「どうでしょうね。みんな、俺よりも強い人ばかりでしたから」

 魔獣キラーだからと追い出したのだから、きっと何かしら魔獣への対策はしているんだろう。
 ……まあ、そうは思えないからガジルさんとエリカには助言をしたんだけど。

「どうだかな。もしかすると、すでに魔獣に蹂躙されてたりしてな!」
「まさか。俺が出国してから五日も経ってないんですよ?」
「ガハハハハッ! まあ、そうだったか!」

 冗談が冗談に聞こえなかった俺は、最後だけは苦笑いを浮かべるに止めたのだった。
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