門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

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第二章:護衛依頼

第87話:VSラコスタ①

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 二人はラコスタを挟み込みながら挑発を繰り返している。
 それでも攻撃の加えた俺への警戒を怠る事はなく、奇声を発しながらも視線は絶えずこちらを向いていた。

「……ん? あの傷はなんだ?」

 じっくり観察していて気づいたが、ラコスタの翼には俺が付けた以外にも傷が付いている。結構な深手のようだが、すでに治りかけている。
 ここに至るまでに誰かと戦ったのか? そして深手を負わされて逃げてきた?
 ……分からない事だらけだな。だが、ここでラコスタを討伐しなければ犠牲はさらに増える一方だろう。
 ならば、俺がやるべき事はただ一つ。

「はあっ!」
「どりゃあっ!」
『ギギャアアアアアアアアッ!』

 エリカもレミーも木を上り、さらに枝から枝に飛び移りながらラコスタに迫り攻撃を加えていく。
 圧倒的優位な立場から攻撃を加えていたラコスタだが、翼に傷を受けて動きがやや鈍くなり、さらに単調になってきている。
 これならば二人であっても攻撃を加える事ができるはずだ。

『ギュルララアアアアアアアアッ』
「あれは! 二人共、離れろ!」
「「――!?」」

 魔獣キラーのスキルによる直感が、危険だと警告を下した。
 俺は咄嗟に声をあげると二人は反射的に大きく飛び退く。
 何の説明もなく警告したにもかかわらず素直に従ってくれるとは、本当にありがたい事だな。
 そして、魔獣キラーの直感は正しかった。
 ラコスタの嘴が大きく開かれると、今度は奇声ではなく風のブレスを吐き出したのだ。
 渦を巻いて吐き出された風のブレスは大木を穿ち、薙ぎ倒し、吹き飛ばしていく。
 直撃を受けてしまえばこの身が引きちぎられていたかもしれないな。

「……嘘でしょ?」
「……うっわー。危なかったわー」
「気をつけろ! まだ何かを隠しているかもしれないからな!」

 風のブレスが避けられたからか、ラコスタは大きく翼を羽ばたかせるとこちらの攻撃が届かない上空から羽根を飛ばしてきた。
 さすがにこれはどうしようもない。大木の高さを超えた位置取りをしているからな。
 二人もそれを理解しており回避に専念しながら動き回っている。
 それでも俺が付けた傷に加えて、無理をしているのか治りかけていた傷も開いたようでその高度は徐々に下がってきていた。

『ギャギャ……ギギギ、ギギャアアアアアアアアッ!』
「苦しそうね!」
「はん! こうなったらレインズとは言わず、あたいがその首を刈り取ってやろうかね!」
「抜け駆けはずるいですよ、レミーさん!」
「なら競争でもするかい、エリカ?」

 挑発するかのような会話だが、人の言葉が魔獣に通じるのだろうか? デンのようなSSSランクの魔獣ならまだしも、ラコスタはAランクだしなぁ。
 だが、二人の言わんとしている事が通じたのか、ラコスタは空を見上げてこれまで以上の奇声を発すると大量の羽根を飛ばしてきた。

「近づけさせないつもりね!」
「この程度の攻撃、何度も潜り抜けてきたっての!」

 大木を盾にしながら徐々に近づいていくエリカとは対照的に、レミーは羽根の軌道を見極めてその身一つで前に進んでいく。
 しかし、もう少しでラコスタの近くにある大木に近づけるというところで再び風のブレスが吐き出された。
 これに対してはさすがのレミーも対処不可能なようで、顔をしかめながら大きく横に飛び退いてしまう。
 だが、ラコスタの狙いはレミーではなかった。

「ちっ! 大木を狙いやがったか!」
「あれじゃあ近づけない!」

 そう、ラコスタはレミーを狙ったと見せかけて自らの近くに生えていた大木を全て薙ぎ払ってしまったのだ。
 高度を下げているとは言っても、いまだに二人の攻撃が届く場所にまでは降りてきていない。
 とはいえ、現状は俺にとって好都合な展開になってきていた。
 まだ警戒はされているものの、ラコスタの意識が俺ではなく二人に向きつつある。
 一瞬の隙を突ければ一気に決着へと持っていけるかもしれない。

「どっせええええぇぇいっ!」
『ギャギャアアアアアアアアッ!』

 俺の思いを知ってか知らずか、攻撃が届かないと悟ったレミーが自らの槍を投擲して攻撃に転じた。
 予想外の行動だったのか、ラコスタは攻撃を中断して一気に高度を下げると槍を回避する。
 そこへ一気に間合いを詰めていたエリカが剣を振るいラコスタの首を狙う。
 ラコスタも黙って攻撃を受ける事はなく、首を捻り嘴で剣を弾くと同時に大きく開いて咥えてしまった。

 ――バキンッ!

 そのまま噛み砕かれた剣を見てエリカは目を見開くと、舌打ちをしながら大きく後退する。
 武器を失った二人を見据え、一気にけりを付けようと風のブレスを吐き出そうとした。

「――終わりだ! バードスラッシュ!」
『ギャギャ!?』

 この瞬間、ラコスタの意識の中で俺の存在は完全に消えていた。
 高度を下げ着弾までの時間も短くなっている。俺はこのタイミングしかないと判断し、最初で最後の一撃を放った。
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