【2章完結】前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか]

ルリコ

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1章 魔法と令嬢生活

番外編〜友人との出会い〜

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「ひゃあっ!」

 ハイカル男爵令嬢ミュラーは、とある建物に奇声を上げた。

 令嬢らしからぬ姿を抑える者はいない。

 つまり、彼女はひとりで外出しているということだ。
 だが安心してほしい、侍女長リエや父ケイリーに断らず無断の行動というわけではない。
 彼らの許可は得ている。

 それでは、家の許可を得て病弱な令嬢がいる、この建物はなんだろうか。

(ひゃー! 何度見ても伯爵様の図書館には興奮しちゃうねっ)

 そう、ここは彼女らが仕えるハネリウス伯爵が保有する図書館の前なのだ。



 私は、返す書物を司書のところに持っていった。

「これ、返すのでお願いします」
「かしこまりました」

 男爵家には少ない光魔法と、興味の出てきた歴史、前世のころから好きだった商売に関する書物を手にとった。
 月1くらいでしか訪れるので、10冊くらい一気に借りる。


 机にそれらを置いてから、小説コーナーに向かった。

 ひゃっふ。ふふふふふ。

 心の中でほくそ笑みつつ物色を始める。

「先月は……ここまで読んだかな」

 これは騎士系?
 そっちはロマンス?
 あれは吟遊詩人か!

 ふへへへへ、どうしようかな!


 白髪の可憐な少女(?)がこんなに興奮しているとは誰も思わないだろう。
 そう確信していたころ、私に声がかかった。

「ご機嫌よう、初めて見る顔ね」

 私にタメ口……? 本家の令嬢か?

 いや、私のことは知らないと見える。
 侍女と思われているのか?
 たまたまやってきた、男爵家とは関係ない他家のご令嬢かもしれない。

 まあどちらでもよい。格上なことは間違いない。
 姉が仕えるレオノーラ様という可能性もないとはいえない。
 私もレオノーラ様のお姿は知らないし、姉が主に妹を自慢するようなことをするとは思えないからだ。

「お初にお目にかかります。ハイカル男爵令嬢ミュラーと申します」

 すると、目の前の少女は慌てた表情で頭を下げた。

「大変失礼いたしました。ギヌメール子爵令嬢マリアンヌと申します。
 あなたがご令嬢だとは思いませんでした。無礼をはたらいたこと、深くお詫び申し上げます」

 子爵令嬢か……。
 私よりは格上だし許されるのではないだろうか。すぐ謝ったし。

「気にしません。私ってば令嬢っぽくないんですよ、よく言われます。だから頭をお上げなさって」

 少し冗談っぽく言った。
 マリアンヌ様は顔を上げた。

「寛大な対応、感謝いたします。お詫びとして、いまから茶会に招待させていただいてもいいですか?」

 意外とアグレッシブなのね、あなた。

「いまからですか?」
「ご予定がなければですが。図書館にいるのですから、なにか借りていかれるのでしょう?」

 詫びと称して格上の令嬢と付き合うほうを選ぶか。
 それとも、愛するラノベを物色するほうを選ぶか。

 むろん、心情的には後者なのだが。
 楽だし楽しいし。
 前者なんて緊張するに決まっている。いくら詫びでもだ!

「借りていくものはもう決めましたの。ですからそのお茶会、参りますわ」

 この功績を前面に出して、明日また小説のために図書館に行くことを許してもらおうと、皮算用を始めていた。

「ありがとうございます、ミュラー様」

 令嬢友達、ほしかったんだよね、私。





 いつにまにか借りられた伯爵邸の一室で、マリアンヌ様の侍女が給仕した紅茶とクッキーを片手に、話が結構弾んでいた。

「それで、兄君には勝ったのですか?」

 マリアンヌ様が兄君と口喧嘩で大いに揉めたという話題だ。
 発端は、外部の目がある中で彼女が手加減せず兄に論戦で勝ってしまったことだったか。

 アグレッシブだなという第一印象は間違っていなかったみたいだ。

「勝ちましたわ。お兄様の侍従をちょちょっと買収しましたのよ、おほほほ」

 買収!
 とんでもないことしてるな。
 ……でも、そこが気に入った!

「まあ! 感激しますわ」
「わかってくださるのミュラー様ぐらいです。お父様にはよくはしたないと言われるの。お兄様を立てなさいって」

 やはり男尊女卑は厳しいな。

「殿方を立てなきゃいけないのはわかりますけれど……自分の功労も認めてほしいですよね」
「そうですよね! 私たち、考え方が似てますわね」

 もし彼女が地球の記憶を持っていないならば、正真正銘の現地令嬢だとするならば。
 それでも父や兄からの視線にも負けず奮闘する彼女をもっと見たいと思った。
 支えたいなと思った。

 私たちは似た者同士なんだし。

「そうですわねえ。ぜひ仲良くさせていただきたいです」

 マリアンヌ様が私を平民の侍女と間違えて、その場のテンションで話しかけたことが皮切りになって、なぜかこう話が盛り上がっている。
 不思議な出会いだなと、運命とやらに感謝した。

「ありがとうございます。私もそう思っていたところです」

 相思相愛というやつだろうか。

「悪友っていう感じですよね」

 ぽろっとこぼした私の一言にマリアンヌ様は爆笑した。
 “女傑”という名詞がとても似合う、そんな豪快な笑いっぷりだ。

「ピッタリすぎて声をたてて笑ってしまいましたわ」
「ツボにハマってなによりです」

 話しすぎて喉が乾いてきたので、お互い紅茶を口に含む。
 ここで、ひとつ提案した。

「マリアンヌ様、悪友の証明として受けていただきたいことがあるんですけれど」
「急になんですか、ミュラー様。私にできることであれば、なんでもさせていただきますわ」

 安心してほしい、簡単なことだ。

「私のことは呼び捨てていただきたいのです。それと敬語はなしでお願いします」

 距離をもう少し近くしたい。

「そんなことでよろしければ。私のことも呼び捨ててね」
「もちろんよ、マリアンヌ?」
「悪友殿は面白いわ、ミュラー」

 こちらこそだ、マリアンヌ。


「へ~ギヌメール子爵領って隣なんだね」

 侍女がばっと広げた地図を見て私は感嘆の声をあげた。

「ミュラー、地理、習ってないの?」
「地図を見た記憶がないのよ」

 これぐらいなら、季節に1回は会えるだろうか。文通も問題ないだろう。

「初めの手紙はマリアンヌから送ってね。お父様が信じないかもしれないから」
「まあ、普通に考えて私たちに接点なんてないものね」
「そうよ。よろしく」

 文通の約束もしたし、そろそろ帰らないといけない時間じゃなかろうか。
 挨拶をしようと腰を浮かせたとき、ドアがばたんと開いた。

「ミュラー! 探したんだよ!?」

 ……リンクララ様。いまあなたはお呼びではないのです。

 すぐマリアンヌを見ると、手を合わせてなにかをお願いするポーズをとっていた。
 まさか、紹介してくれと?

「ご機嫌よう、リンクララ様。お手数をおかけして申し訳ありません」

 貸しひとつってことで受けてあげるわ。

「いつもなら図書館で本に飛びついているのにいないから迷子になったかと思ったよ」

 迷子になりそうなほど広いもんね、ここ。

 彼女に従っていた侍女がこそっと耳打ちする。

「あ、ごめん! お茶会中なんだっけ。えーっとあなたは……」

 マリアンヌが立ち上がりカーテシー。

「マリアンヌ、こちらはハネリウス伯爵令嬢リンクララ様。
 そしてリンクララ様、ご紹介いたします、友人のギヌメール子爵令嬢マリアンヌです」

 ちゃんと紹介者としての口上をなぞり、あとはマリアンヌにバトンを渡す。

「お初にお目にかかりますわ、リンクララ様。マリアンヌと申します」
「ミュラーの友人なんだ? 私はリンクララです。よろしくね」

 リンクララ様が来た時点で帰りたい気持ちが増大した。
 彼女はなんというか純粋なので、よくわからないのだ。ただ苦手なのだ。

「私を探されたのに申し訳ありませんが、そろそろ門限なのです。お父様に叱られてしまいますわ」

 マリアンヌもお疲れでしょうし……と醸しだしてみる。

「なんか男爵って怒ると怖いらしいね、聞いたことある」

 どんな噂だよ。お父様?

「じゃあ残念だけどまたね」

 すぐに踵を返し部屋から出た。


「ミュラー! ほんとありがとう!」
「よしてよ、貸しひとつだからね。忘れないでね」
「そういうドライなところがいいの。もちろん忘れないわ」

 ふたりでハイタッチを交わし、謎の達成感が私たちを包んだ。
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