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2章 過去を暴露しよう
024 1週間の猶予
しおりを挟むAの衝撃的な話を聞いた翌日。
無理矢理寝たので起きるのは辛かった。
「やっぱり体調が悪いのではないですか? 夜久さんは治ってしまいましたよ」
「悪くないし、夜久が治ったのは素直に喜ぶべきだと思うよ」
「本当ですか? やつれてません?」
全てはAのせいである。
「少し精気が抜けただけ」
「精進料理でも食べれば治るということですか?」
「知らないよ、そんなの」
この国に精進料理があるのか。
本当によくわからない。
「寝ていい?」
「寝てもいいわけがありません!」
僕に対して異常に丁寧で、
他人のことをどうでもよく思っていて、
マジエ王国のことをよく知っていて、
貴族が嫌いで
少し天然な彼が、
ビフテキくんが、
高位貴族と繋がっている?
思わず彼をそう見てしまう。
全てはAのせいだ。
ご近所組と合流した後も気持ちは晴れなかった。
彼が、「ご近所組の中に怪しい人がいる」と告げたからだ。
昨日の話しぶりから推測するに、彼は他人の思惑が手に取るように分かるのではないだろうか。
だが思い通りに動かすほどには至らないと思う。
だから、彼が嘘を言うメリットはないと思う。
推測だらけではあるが、僕はあのときのセリフを信じたい。
「ねえちょっとコウスケ」
「ん? 夜久? どうかした?」
彼女は頬杖をついた。
僕、なにか怒られることしたっけ。
「どうかした、じゃないわ。心ここにあらずって感じね? まさかこいつのせい?」
彼女はAを指差して、2カ所も図星をついてきた。
前半はともかく後半はなぜわかった?
「夜久~なんでボクのせいなのさ」
「じゃあ暇柱と企んだの?」
「いや僕関係ないし!」
暇柱も容疑者に上がっていることから踏まえて、彼女は当てずっぽうにAを指名したみたいだ。
「コウスケくん、昨日なにかあったの? 助けになってもらったから、コウスケくんが困ったことあれば相談に乗るよ」
とAnneが覗き込んできた。
彼女は心配性だから尚更気になるのだろう。
「おう、俺も協力は惜しまない」
レタスを頬張りながら中佐さんも言葉をかけてくれた。
「2人ともありがとうございます。別に大したことではありませんので」
一瞬、元凶と目が合った。
桜流しのような満面の笑みだった。
酷いよね、そういうところ。
1人になったら、それはそれで、彼女のことが頭から離れなかった。
彼女とあの日あそこにいなかったら。
彼女は死ななかった。
僕も下半身不随に陥ることはなく、自動的に召喚されることもなかった。
他国で自分の命の心配をすることもなかった。
修復不可能に近いほど両親と傷つけ合わなかった。
あの幸せな日常が続いていた。
たらればの話だ。
意味がないことは分かっている。
それでも。
事故ったときに悶々と考えたことを、蒸し返さずにはいられない。
彼女に会いたい。
「しょうがないですねえ、先輩は」って困った顔で慰めてほしい。
申し訳ないよ。不甲斐ないよ。
こんなのが君の彼氏だなんて、思い上がりも甚だしいだろう。
お願いだ。一生のお願いだ。
僕の前に姿を現してくれ。
君は、根拠もなく安心させてくれるから。
あの日から4日がすぎた。
何度も目を逸らしてきたが、もう向き合うべき頃合いだ。
いくらご近所組のメンバーが怪しいと言っても心配させすぎている。
1週間の猶予も半分をきった。
そろそろ考えるべきだ。
今日は寝ずに、あのテラスで。
23時。就寝時間より1時間が経過した。
ドアをそーっと開けて周りを見渡す。
光がないことを確かめて件のテラスへ向かおうとするが、がちゃんと音を立ててしまった。
思わず口元を押さえた。
幸い誰も気づいていないようだ。
胸を撫で下ろした。
23時15分頃。テラスに現着。
今回は正真正銘誰もいなかった。
ここにきて曇っているなんて空とまるで通じ合っているかのようだ。
まずここでの目的をおさらいする。
僕は元の世界に帰りたい。
最愛の人__はもういなくなってしまったが、かけがえのない人がいないわけではないからだ。
そして帰ることになれば足が治る可能性だってある。
だからできるだけ、謎文書Xやビフテキくんのバックグラウンドに踏み入ることは避けたい。
つまり本性を露わにしたAとお近づきになるのは悪手、なのだが………。
例えば、僕があの情報を知っていると敵方にバレたとしよう。
もし、その時点でAに協力していたら彼が対処してくれる可能性は高い。
だがしかし、Aの提案を拒否して独り身貴族になった場合、敵方にバレたことさえ知らず処分される。
後者は絶対だ。僕に情報収集力や懐柔作戦実行力は存在しない。
まあ、かといってAに懐柔作戦ができるわけではない。一般人にはできたがな。
ということで、僕が国家機密を(不可抗力で)知りかけているというリスキーな展開になっている以上、リスクを回避し下げるためにAに協力するべきだ。
………別にそんなことはわかってるんだよ。猶予なんていらなかったさ。
でもあいつ、怖いんだ。
性格を偽って暮らせたあいつが。
とても中学生だとは思えないほど底知れないあいつが。
生きるために協力はする。
しかし、彼の全てを信じたりは決してしない。
怪しい点は証拠を集める。
いつか、どうしようもなくなったら、いっそ寝返られるように。
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異世界の性格矯正所は新しい設定で斬新で面白いと思いました!
これからも頑張ってください☺️
フェンフェンさん、感想ありがとうございます!
Xでもいいお付き合いをしてくださっているのに、さらに感想までくださるなんて、良心的すぎます………!
「無知のベール」といいますけれど、当時の私は異世界に関してそういう状態だったのです。
門外漢に聞いてみると衝撃的なことを言われたりするものですよね。
それがこの作品の設定なのです。
これからも更新を続けていきます! お互い頑張りましょう!
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます!自分にとって初めての感想、初めてのお気に入り登録になります。一生今日を忘れません。
マジエくんは3年前につくった設定で、当時異世界を知らなかったので斬新かもしれません。なぜ異世界を知らないのに書いたかと聞かれると何も答えられないんですが(笑)。たくさんの作品を知ったいま、新しい設定をつくれと言われると難しいですね………。
これからも週2投稿を続けていくので、是非完結するまでお付き合いください。ハイエルもオススメです。