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59話
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嵐のような一日が過ぎ、夜が明けた。
昨晩は肝を冷やしたが、結局夜の間に敵が攻めてくることはなかった。
(……静かな朝だ)
16階のコアの部屋。 俺は差し込む朝日を浴びながら隣でスヤスヤと眠るリナと、枕元で丸まっているベルを眺めていた。
リナは昨日負傷した魔物たちの治療で疲れ果てていたのだろう。幸せそうな寝息を立てている。
(嵐の前の静けさってやつかもしれない……)
俺が気を引き締め直した、その時だった。
「キィ……(主……報告……)」
影の中から音もなく[R]ブラッド・ストーカーが姿を現した。
進化した吸血鬼の斥候は俺に恭しく一礼すると、緊迫した思念を伝えてきた。
「キィ(人間、森、入った。数、たくさん……昨日よりも、たくさん……。それと、強そうなのも、いる……)」
(たくさん……?強そうなの……?)
沢山というのがどれくらいかは分からない。
しかもブラッド・ストーカーの感覚によれば、その中には明らかに気配の違う連中が混ざっているという。
(来たか……!)
俺はすぐさま思考を戦闘モードに切り替える。
敵が大量にいるなら塔の中だけで迎え撃つのはリスクが高すぎる。入りきらない敵に包囲されれば補給を断たれてジリ貧だ。
(昨日と同じく森で迎撃して数を減らす!)
俺は1階で待機していた両翼──[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルと[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフに号令を飛ばした。
(ジェネラル!ウルフ!出撃だ!森で敵を迎え撃て!)
俺は昨日召喚し、塔の各階層に配置したばかりの新顔たちにも目を向けた。
(それと……今回は戦力を増強する!塔で待機している[N]ランクの新入りたち!お前たちも森へ行け!)
パワーファイターの[N]ミノタウロス数体、足場の悪い森でも動ける[N]リザードマン部隊、そして空からの奇襲用に[N]ガーゴイル。
せっかくの40連ガチャで手に入れた戦力だ。塔の中で燻らせておく手はない。
「グルァ!!(総員、出撃!)」
「ガウッ!!(狩りの時間だ!)」
[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルの咆哮と、[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの遠吠えが重なり森の空気をビリビリと震わせる。
ズズズズ……ンッ!!
塔の正門──[R]巨人の黒鉄門が重厚な音を立てて観音開きに開かれた。
そこから魔物たちの混成部隊が堰を切ったように雪崩を打って飛び出していく。
先陣を切るのは銀色の疾風──ウルフ部隊。
それに続くのは重量級の足音を響かせるジェネラル率いる本隊。
(よし……まずは機動力のあるウルフ部隊で敵の先鋒を叩く!)
俺は16階のコアの部屋で意識を集中させた。
物理的に動けない俺にとって彼らの目は俺の目であり、彼らの耳は俺の耳だ。
(視点共有起動! 接続先──[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ!)
フッ、と俺の視界が切り替わる。 薄暗い石造りの部屋から、緑と光が流れる森の中へ。
♢ ♢ ♢
「ハッ、ハッ、ハッ……!」
風を切る音。爪が土を蹴り上げる感触。 [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの背中に乗っているかのような……いや、一体化したかのような臨場感が脳髄を刺激する。
(速い……! 相変わらず、とんでもないスピードだ)
視界の端を木々が緑色の線となって後方へすっ飛んでいく。
彼の後ろには、必死に食らいつく[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちの気配がある。 さらに今回は空からの援護として[N]ガーゴイル数体も木々の合間を縫うように追従させている。
(……ん?)
森を数分ほど疾走したところでウルフの鼻がピクリと動いた。 俺にも感覚が伝わってくる。
湿った森の匂いの中に混じる異質な臭気。 鉄錆のような金属臭。革の油の匂い。そして──数十人分もの人間の体臭とざわめき。
(いたか……!)
俺はウルフに意識を送る。
(ウルフ、速度を落とせ。気付かれないように接近して敵の規模を確認するんだ)
「グルゥ……」
ウルフは短く喉を鳴らして了承すると疾走から忍び足へと滑らかに移行した。
音もなく茂みをかき分け、小高い丘の上から眼下の獣道を見下ろす。
そこには──ゾロゾロと隊列を組んで歩く人間の集団がいた。
「おい見ろよ、本当に森の様子が変わってやがる。ダンジョンが広がってるらしいぜ」
「へへっ、こりゃ噂通り手つかずの獲物が期待できそうだな!」
「遅れるなよ! 一番乗りは俺たち『赤き猪』パーティのものだ!」
先頭を歩いているのは薄汚れた革鎧や錆びの浮いた剣を持った男たちだ。
緊張感はなく宝探しにでも行くかのようにヘラヘラと笑い合っている。
その後ろにも、似たような装備の連中が続いている。
(……弱そうだな)
俺は彼らの装備の貧弱さに拍子抜けした。
肌がヒリつくようなプレッシャーは微塵も感じない。 むしろそこらへんの村人より少しマシな程度の武装に見える。
(念のためステータスを確認しておこう)
俺は先頭を歩いている大柄な男に意識を集中した。
♢ ♢ ♢
名前: ガーツ
種族: 人間 (戦士・Eランク)
Lv: 12 HP: 45/45 | MP: 10/10
STR (筋力): 14
VIT (体力): 12
AGI (敏捷): 8
INT (知力): 3
装備
[ボロボロの鉄の剣]
[革の胸当て]
♢ ♢ ♢
(……弱い?)
俺は思わず心のなかで呟いた。
Eランクというのがどれほどのものかは知らないがステータスを見る限りウルフ部隊の[UC]ファングウルフと大差ない。
後ろに続く連中も似たり寄ったりだ。 魔法使いらしき男もいるがMPは少ないし、杖もただの木の枝に見える。
(これがブラッドストーカーの言ってた強そうな連中……? もっとこう、精鋭部隊みたいなのを想像してたんだが……)
数だけは多い。ざっと見ただけで30人はいるだろうか。
だが、その大半がこのレベルなら今の俺の戦力で十分に蹴散らせる。
(いや、油断は禁物だ。こいつらはただの先兵かもしれない)
俺は視線を列の後方へと向ける。
木々の影に隠れて見えにくいが、後方にはもう少し装備のまともな連中も混ざっているような気配がする。
(だが、まずは目の前の敵だ。ここで数を減らして、敵の出方を見る!)
俺はウルフに攻撃の許可を出した。
(行け、ウルフ! まずは先頭集団を奇襲して混乱に陥れろ!)
「ガウッ!!」
俺の指令と同時に[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの全身から殺気が膨れ上がった。
銀色の毛並みが逆立ち、[王の疾走]の構えを取る。
(狩りの時間だ!)
「ガウッ!!」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが大地を蹴る。
爆発的な加速。 [疾風の首輪]の補正が乗った速度はEランク冒険者たちの動体視力を遥かに超えていた。
「え……?」
先頭を歩いていたガーツという男が何かが目の前を横切ったと気づいた瞬間には、もう遅かった。
ドォォォォンッ!!
「がはっ!?」
噛みつきですらない。ただの体当たりだ。
だが、巨大な質量と速度の乗った激突はガーツの体を木の葉のように吹き飛ばし、背後の仲間ごとなぎ倒した。
「な、なんだぁ!?」
「狼だ!例の銀色のデカい狼だぞ!!」
悲鳴が上がる。だが、恐怖する暇さえ与えない。
「ワオォォン!!」
ウルフの遠吠えに呼応し、茂みから[N]シャドウウルフと[UC]ファングウルフたちが雪崩れ込む。
さらに頭上からは[N]ガーゴイルたちが重力を味方につけて急降下を開始した。
「ひぃぃッ! 上だ! 上からも来るぞ!」
「あがっ……!?」
ガーゴイルの石の爪が革鎧ごと冒険者の肩を引き裂く。ファングウルフが転倒した男の喉笛に食らいつく。
「魔法使い! 何してる、火を撃て!」
「無理だ! 速すぎて狙えない!」
冒険者たちはパニックに陥り武器を振り回すが、空を切るばかりだ。
連携も何もない。ただの烏合の衆だ。
(……弱い!)
俺はウルフの視界を通して一方的な蹂躙劇を冷静に見つめていた。
動きにキレがない。装備が脆い。何より、覚悟が足りない。
昨日の奴らの方が、よほど手応えがあったくらいだ。
(これなら……いける! 昨日と同じだ。このまま蹴散らして、数を減らせる!)
慢心ではない。確信だった。
この戦力差なら、無傷での完勝も夢ではない──。
そう思った時だった。
ヒュンッ────!!
風を切り裂く鋭利な音が響いた。
「ギャァァァァッ!?」
上空を旋回し次なる獲物に狙いを定めていた[N]ガーゴイルの一体が突然バランスを崩した。
胸には──石の皮膚を容易く貫通し、深々と突き刺さる一本の矢があった。
(なっ……!?)
ガーゴイルは悲鳴を上げながらきりもみ回転し地面へと墜落した。
ズシン、と重い音を立てて動かなくなる。
(ガーゴイルが……一撃で!?)
[N]ランクのガーゴイルは[石の皮膚]という特技を持ち、生半可な矢や剣なら弾き返す硬度を持っているはずだ。
それを、一撃で? しかも空を飛んでいる標的を正確に?
「おいおい、だらしねぇなぁ。たかが野良犬と石っころ相手に情けねぇ声を上げてんじゃねぇよ」
混乱する戦場に、場違いなほど落ち着き払った太い声が響いた。
(……!)
ウルフが即座に反応し、声のした方向へ視線を向ける。
パニックに陥り逃げ惑うEランク冒険者たちの列のさらに後方。 木々の影からゆっくりと歩み出てくる二つの影があった。
「助かった……! 『鋼鉄の槌』の旦那たちだ!」
「Cランクが来てくれたぞ!」
逃げ惑う冒険者たちが二人を見て安堵の声を上げる。
現れたのはこれまでの有象無象とは明らかに装備の質も、纏う空気も違う二人組だった。
(こいつらが……ブラッド・ストーカーの言っていた「強そうなの」か!)
俺はウルフの視界を借り、木々の影から現れた二人組を凝視した。
一人は全身を分厚いプレートメイルで覆い巨大なハルバードを軽々と担ぐ巨漢。
もう一人は背後で身の丈ほどある長弓を構え、油断なく次の矢をつがえる細身の男。
彼らが放つ気配はさっきまでウルフが蹴散らしていた有象無象とは決定的に違う。
俺の脳裏に強制的に彼らのステータスが割り込んできた──。
♢ ♢ ♢
名前: ガルド
種族: 人間 (重戦士・Cランク下位)
Lv: 25 HP: 480/480 | MP: 40/40
STR (筋力): 38
VIT (体力): 40
AGI (敏捷): 15
INT (知力): 12
装備
[鋼鉄のハルバード]
[フルプレートメイル]
特技
[鉄壁 (Lv.3)]: 防御姿勢時、物理ダメージを大幅に軽減する。
[挑発 (Lv.2)]: 周囲の敵の注意を自身に引きつける。
♢ ♢ ♢
名前: ホーク
種族: 人間 (狙撃手・C級下位)
Lv: 24 HP: 250/250 | MP: 50/50
STR (筋力): 22
VIT (体力): 20
AGI (敏捷): 45
INT (知力): 28
装備
[強化ロングボウ]
[風切りの矢]
特技
[精密射撃 (Lv.3)]: 急所への命中率が大幅に上昇する。
[貫通矢 (Lv.2)]: 防御力を一部無視してダメージを与える。
♢ ♢ ♢
(C級……冒険者……!?)
俺は戦慄した。
以前森で見かけた魔族たちのデタラメな強さには及ばない。
だが、それでも……!
(強い……ッ!!これがCランクとやらの実力……!?)
さっきまでの連中とは、生物としてのステージが違う。
こんなのがゴロゴロ出てきたら[N]ランクの魔物じゃ束になっても敵わないぞ……!
「さぁて……行くぞホーク」
「あぁ、ガルド。前は任せたぞ」
たった二人で場の空気が変わったのが分かる。
これは、今までの蹂躙劇のようにはいかない──!
昨晩は肝を冷やしたが、結局夜の間に敵が攻めてくることはなかった。
(……静かな朝だ)
16階のコアの部屋。 俺は差し込む朝日を浴びながら隣でスヤスヤと眠るリナと、枕元で丸まっているベルを眺めていた。
リナは昨日負傷した魔物たちの治療で疲れ果てていたのだろう。幸せそうな寝息を立てている。
(嵐の前の静けさってやつかもしれない……)
俺が気を引き締め直した、その時だった。
「キィ……(主……報告……)」
影の中から音もなく[R]ブラッド・ストーカーが姿を現した。
進化した吸血鬼の斥候は俺に恭しく一礼すると、緊迫した思念を伝えてきた。
「キィ(人間、森、入った。数、たくさん……昨日よりも、たくさん……。それと、強そうなのも、いる……)」
(たくさん……?強そうなの……?)
沢山というのがどれくらいかは分からない。
しかもブラッド・ストーカーの感覚によれば、その中には明らかに気配の違う連中が混ざっているという。
(来たか……!)
俺はすぐさま思考を戦闘モードに切り替える。
敵が大量にいるなら塔の中だけで迎え撃つのはリスクが高すぎる。入りきらない敵に包囲されれば補給を断たれてジリ貧だ。
(昨日と同じく森で迎撃して数を減らす!)
俺は1階で待機していた両翼──[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルと[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフに号令を飛ばした。
(ジェネラル!ウルフ!出撃だ!森で敵を迎え撃て!)
俺は昨日召喚し、塔の各階層に配置したばかりの新顔たちにも目を向けた。
(それと……今回は戦力を増強する!塔で待機している[N]ランクの新入りたち!お前たちも森へ行け!)
パワーファイターの[N]ミノタウロス数体、足場の悪い森でも動ける[N]リザードマン部隊、そして空からの奇襲用に[N]ガーゴイル。
せっかくの40連ガチャで手に入れた戦力だ。塔の中で燻らせておく手はない。
「グルァ!!(総員、出撃!)」
「ガウッ!!(狩りの時間だ!)」
[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルの咆哮と、[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの遠吠えが重なり森の空気をビリビリと震わせる。
ズズズズ……ンッ!!
塔の正門──[R]巨人の黒鉄門が重厚な音を立てて観音開きに開かれた。
そこから魔物たちの混成部隊が堰を切ったように雪崩を打って飛び出していく。
先陣を切るのは銀色の疾風──ウルフ部隊。
それに続くのは重量級の足音を響かせるジェネラル率いる本隊。
(よし……まずは機動力のあるウルフ部隊で敵の先鋒を叩く!)
俺は16階のコアの部屋で意識を集中させた。
物理的に動けない俺にとって彼らの目は俺の目であり、彼らの耳は俺の耳だ。
(視点共有起動! 接続先──[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ!)
フッ、と俺の視界が切り替わる。 薄暗い石造りの部屋から、緑と光が流れる森の中へ。
♢ ♢ ♢
「ハッ、ハッ、ハッ……!」
風を切る音。爪が土を蹴り上げる感触。 [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの背中に乗っているかのような……いや、一体化したかのような臨場感が脳髄を刺激する。
(速い……! 相変わらず、とんでもないスピードだ)
視界の端を木々が緑色の線となって後方へすっ飛んでいく。
彼の後ろには、必死に食らいつく[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちの気配がある。 さらに今回は空からの援護として[N]ガーゴイル数体も木々の合間を縫うように追従させている。
(……ん?)
森を数分ほど疾走したところでウルフの鼻がピクリと動いた。 俺にも感覚が伝わってくる。
湿った森の匂いの中に混じる異質な臭気。 鉄錆のような金属臭。革の油の匂い。そして──数十人分もの人間の体臭とざわめき。
(いたか……!)
俺はウルフに意識を送る。
(ウルフ、速度を落とせ。気付かれないように接近して敵の規模を確認するんだ)
「グルゥ……」
ウルフは短く喉を鳴らして了承すると疾走から忍び足へと滑らかに移行した。
音もなく茂みをかき分け、小高い丘の上から眼下の獣道を見下ろす。
そこには──ゾロゾロと隊列を組んで歩く人間の集団がいた。
「おい見ろよ、本当に森の様子が変わってやがる。ダンジョンが広がってるらしいぜ」
「へへっ、こりゃ噂通り手つかずの獲物が期待できそうだな!」
「遅れるなよ! 一番乗りは俺たち『赤き猪』パーティのものだ!」
先頭を歩いているのは薄汚れた革鎧や錆びの浮いた剣を持った男たちだ。
緊張感はなく宝探しにでも行くかのようにヘラヘラと笑い合っている。
その後ろにも、似たような装備の連中が続いている。
(……弱そうだな)
俺は彼らの装備の貧弱さに拍子抜けした。
肌がヒリつくようなプレッシャーは微塵も感じない。 むしろそこらへんの村人より少しマシな程度の武装に見える。
(念のためステータスを確認しておこう)
俺は先頭を歩いている大柄な男に意識を集中した。
♢ ♢ ♢
名前: ガーツ
種族: 人間 (戦士・Eランク)
Lv: 12 HP: 45/45 | MP: 10/10
STR (筋力): 14
VIT (体力): 12
AGI (敏捷): 8
INT (知力): 3
装備
[ボロボロの鉄の剣]
[革の胸当て]
♢ ♢ ♢
(……弱い?)
俺は思わず心のなかで呟いた。
Eランクというのがどれほどのものかは知らないがステータスを見る限りウルフ部隊の[UC]ファングウルフと大差ない。
後ろに続く連中も似たり寄ったりだ。 魔法使いらしき男もいるがMPは少ないし、杖もただの木の枝に見える。
(これがブラッドストーカーの言ってた強そうな連中……? もっとこう、精鋭部隊みたいなのを想像してたんだが……)
数だけは多い。ざっと見ただけで30人はいるだろうか。
だが、その大半がこのレベルなら今の俺の戦力で十分に蹴散らせる。
(いや、油断は禁物だ。こいつらはただの先兵かもしれない)
俺は視線を列の後方へと向ける。
木々の影に隠れて見えにくいが、後方にはもう少し装備のまともな連中も混ざっているような気配がする。
(だが、まずは目の前の敵だ。ここで数を減らして、敵の出方を見る!)
俺はウルフに攻撃の許可を出した。
(行け、ウルフ! まずは先頭集団を奇襲して混乱に陥れろ!)
「ガウッ!!」
俺の指令と同時に[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの全身から殺気が膨れ上がった。
銀色の毛並みが逆立ち、[王の疾走]の構えを取る。
(狩りの時間だ!)
「ガウッ!!」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが大地を蹴る。
爆発的な加速。 [疾風の首輪]の補正が乗った速度はEランク冒険者たちの動体視力を遥かに超えていた。
「え……?」
先頭を歩いていたガーツという男が何かが目の前を横切ったと気づいた瞬間には、もう遅かった。
ドォォォォンッ!!
「がはっ!?」
噛みつきですらない。ただの体当たりだ。
だが、巨大な質量と速度の乗った激突はガーツの体を木の葉のように吹き飛ばし、背後の仲間ごとなぎ倒した。
「な、なんだぁ!?」
「狼だ!例の銀色のデカい狼だぞ!!」
悲鳴が上がる。だが、恐怖する暇さえ与えない。
「ワオォォン!!」
ウルフの遠吠えに呼応し、茂みから[N]シャドウウルフと[UC]ファングウルフたちが雪崩れ込む。
さらに頭上からは[N]ガーゴイルたちが重力を味方につけて急降下を開始した。
「ひぃぃッ! 上だ! 上からも来るぞ!」
「あがっ……!?」
ガーゴイルの石の爪が革鎧ごと冒険者の肩を引き裂く。ファングウルフが転倒した男の喉笛に食らいつく。
「魔法使い! 何してる、火を撃て!」
「無理だ! 速すぎて狙えない!」
冒険者たちはパニックに陥り武器を振り回すが、空を切るばかりだ。
連携も何もない。ただの烏合の衆だ。
(……弱い!)
俺はウルフの視界を通して一方的な蹂躙劇を冷静に見つめていた。
動きにキレがない。装備が脆い。何より、覚悟が足りない。
昨日の奴らの方が、よほど手応えがあったくらいだ。
(これなら……いける! 昨日と同じだ。このまま蹴散らして、数を減らせる!)
慢心ではない。確信だった。
この戦力差なら、無傷での完勝も夢ではない──。
そう思った時だった。
ヒュンッ────!!
風を切り裂く鋭利な音が響いた。
「ギャァァァァッ!?」
上空を旋回し次なる獲物に狙いを定めていた[N]ガーゴイルの一体が突然バランスを崩した。
胸には──石の皮膚を容易く貫通し、深々と突き刺さる一本の矢があった。
(なっ……!?)
ガーゴイルは悲鳴を上げながらきりもみ回転し地面へと墜落した。
ズシン、と重い音を立てて動かなくなる。
(ガーゴイルが……一撃で!?)
[N]ランクのガーゴイルは[石の皮膚]という特技を持ち、生半可な矢や剣なら弾き返す硬度を持っているはずだ。
それを、一撃で? しかも空を飛んでいる標的を正確に?
「おいおい、だらしねぇなぁ。たかが野良犬と石っころ相手に情けねぇ声を上げてんじゃねぇよ」
混乱する戦場に、場違いなほど落ち着き払った太い声が響いた。
(……!)
ウルフが即座に反応し、声のした方向へ視線を向ける。
パニックに陥り逃げ惑うEランク冒険者たちの列のさらに後方。 木々の影からゆっくりと歩み出てくる二つの影があった。
「助かった……! 『鋼鉄の槌』の旦那たちだ!」
「Cランクが来てくれたぞ!」
逃げ惑う冒険者たちが二人を見て安堵の声を上げる。
現れたのはこれまでの有象無象とは明らかに装備の質も、纏う空気も違う二人組だった。
(こいつらが……ブラッド・ストーカーの言っていた「強そうなの」か!)
俺はウルフの視界を借り、木々の影から現れた二人組を凝視した。
一人は全身を分厚いプレートメイルで覆い巨大なハルバードを軽々と担ぐ巨漢。
もう一人は背後で身の丈ほどある長弓を構え、油断なく次の矢をつがえる細身の男。
彼らが放つ気配はさっきまでウルフが蹴散らしていた有象無象とは決定的に違う。
俺の脳裏に強制的に彼らのステータスが割り込んできた──。
♢ ♢ ♢
名前: ガルド
種族: 人間 (重戦士・Cランク下位)
Lv: 25 HP: 480/480 | MP: 40/40
STR (筋力): 38
VIT (体力): 40
AGI (敏捷): 15
INT (知力): 12
装備
[鋼鉄のハルバード]
[フルプレートメイル]
特技
[鉄壁 (Lv.3)]: 防御姿勢時、物理ダメージを大幅に軽減する。
[挑発 (Lv.2)]: 周囲の敵の注意を自身に引きつける。
♢ ♢ ♢
名前: ホーク
種族: 人間 (狙撃手・C級下位)
Lv: 24 HP: 250/250 | MP: 50/50
STR (筋力): 22
VIT (体力): 20
AGI (敏捷): 45
INT (知力): 28
装備
[強化ロングボウ]
[風切りの矢]
特技
[精密射撃 (Lv.3)]: 急所への命中率が大幅に上昇する。
[貫通矢 (Lv.2)]: 防御力を一部無視してダメージを与える。
♢ ♢ ♢
(C級……冒険者……!?)
俺は戦慄した。
以前森で見かけた魔族たちのデタラメな強さには及ばない。
だが、それでも……!
(強い……ッ!!これがCランクとやらの実力……!?)
さっきまでの連中とは、生物としてのステージが違う。
こんなのがゴロゴロ出てきたら[N]ランクの魔物じゃ束になっても敵わないぞ……!
「さぁて……行くぞホーク」
「あぁ、ガルド。前は任せたぞ」
たった二人で場の空気が変わったのが分かる。
これは、今までの蹂躙劇のようにはいかない──!
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そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
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無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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