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63話
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(これだ……ッ!!)
俺の直感が選択肢に釘付けになった。
【強制進化:魔剣の覚醒】
コスト10,000 DP。
現在の全財産である10,500 DPのほぼ全てを吐き出すことになる、乾坤一擲の大博打だ。 だが、効果は──必中と範囲切断。
(速すぎて当たらないなら、当たる理屈を変えてしまえばいい!)
避けるという概念そのものを否定する、因果干渉レベルの一撃。 今のジェネラルに必要なのは、速さを競う足ではない。
理不尽な速さを理不尽な暴力でねじ伏せる、絶対的な力だ!
(ジェネラル! 受け取れ!! 俺の全魔力を……お前の剣に注ぎ込む!!)
俺は迷わず、震える意識でそのボタンを叩き押した。
[DP: 10,500] → [DP: 500]
瞬間。 ジェネラルの手にある[将軍の魔剣]がドクンッ! と心臓のように脈打った。
「グ……ォォォォォッ!!?」
ジェネラルの腕が、剣から逆流してくる莫大な魔力に軋みを上げる。
銀色だった刀身がどす黒く禍々しいほどの紅蓮の輝きを帯びて変質していく。
刀身が伸び、空間そのものを喰らいながら歪な形状へと強制進化を遂げる!
(見えた……! これが、覚醒した魔剣のステータス!)
♢ ♢ ♢
名前: [SR] 崩界の魔剣
種族: 魔剣(一時覚醒状態)
ランク: [SR] スーパーレア
特殊能力
[必中(絶対)]: 認識した対象に対し、回避不能の軌道を描く。因果を歪め、振るった瞬間に「当たる」結果を固定する。
[空間切断]: 物理的な距離を無視し、対象が存在する座標そのものを切断する。防御力無視。
[魔剣の呪い]: 使用者の生命力を著しく削る(※ジェネラルのHPが徐々に減少)。
♢ ♢ ♢
(いける……! これなら、奴を殺せる!)
ただならぬ魔力の奔流を感じ取りゴア・シェルドーの鉄仮面がピクリと動いた。
「なんだ……?武器が変化した……?」
ゴアは細剣を構え直し、ジェネラルの手元──空間が歪んで見えるほどのオーラを纏った異形の剣を見据える。
「魔剣のようだが……無駄だ。当たらなければどんな強力な武器もただの飾りだ」
ゴアの姿がブレる。 [瞬歩]の構えだ。
奴はジェネラルが剣を振り上げる隙に、に飛び込んで心臓を貫くつもりだ。 その速度は音速すら超える──。
だが。
「グルァァァァァァァァァッ!!!!」
ジェネラルはゴアを見なかった。 動く必要すらない。
彼はただ溢れ出る破壊の衝動に任せ、その場から一歩も動かずに目の前の空間に向かって魔剣を振り下ろした。
スキル発動── [次元断(ディメンション・スラッシュ)]
「遅い」
ゴア・シェルドーの姿がブレる。 音速を超える移動速度でジェネラルの剣筋から完全に離脱──したはずだった。
だが。
「なっ──!?」
ゴアの余裕が、瞬時に驚愕へと変わる。 彼が回避したはずの空間、移動した先の空間、その全ての「逃げ場」に、逃れようのない亀裂が走っていたのだ。
(当たり前だ! その剣は因果を断つ! 「避ける」という概念そのものが通用しない!)
世界がズレたような錯覚。
ジェネラルの剣閃が通った軌道上の大気、地面、木々、そして──そこにあった空間ごと、ゴア・シェルドーの身体を捉えた。
「ぐ……!?」
ゴアは回避が不可能と悟るや否や、神速の反応で細剣を盾のように構え、身をよじって致命的な直撃を逸らそうとした。
[静寂のロングコート]が魔力を放ち、衝撃を殺そうとする。
金属が悲鳴を上げる音と共に、ゴアの体が砲弾のように弾き飛ばされた。
「かっ……!?」
数本の木々をへし折り地面を削りながら転がるゴア。
彼が立ち上がった時、その姿は先ほどまでの涼しいものではなかった。
「ガハッ……! 馬鹿、な……」
鉄仮面が半分砕け散り、奥から血に塗れた素顔が覗く。
防御に使った自慢の細剣にはヒビが入り、左肩から脇腹にかけてコートごと肉が抉られ赤黒い血が噴き出していた。
(やった! 直撃だ!)
だが──倒れていない。
HPがごっそり減ったのが見えたが、それでもまだ残っている。 Bランクのしぶとさは伊達じゃない!
「グルァッ!!」
ジェネラルは攻撃の手を緩めない。
好機と見るや、武器を構え直し、傷ついた処刑人へと肉薄する。
「チッ……!調子に、乗るなよ獣風情が!」
ゴアが毒づき、砕けた仮面を捨てて細剣を構える。
だが、その動きには先ほどまでの絶対的な余裕はない。痛みが、出血が彼の神速を鈍らせている。
「オオオオオオッ!!」
ジェネラルの猛攻が始まった。 横薙ぎ、突き、斬り上げ。
[SR]魔剣のデタラメな威力と、[戦士の誇り]による闘志が乗った連撃が嵐のようにゴアを襲う。
「くっ、ガッ……!」
ゴアは必死に剣を振るい、受け流そうとするが、重すぎる一撃を受け止めるたびに足が沈み、口端から血が漏れる。
(いける……! 押し込んでる!)
俺は拳を握りしめた。 あの化け物を、防戦一方に追い込んでいる! あと一押しだ!
[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルが、命を削りながら[SR]崩界の魔剣を振るう。 一撃ごとに空間が軋み、逃げ場のない斬撃がゴア・シェルドーを襲う。
だが──ゴアは倒れない。
「鬱陶しい!」
ゴアは左肩から血を流しながらも、表情一つ変えずに細剣を振るっていた。 ジェネラルの攻撃は必中だ。振れば当たる。
しかし、ゴアはその当たる箇所を致命傷にならない部位へとずらしていた。 腕、足、脇腹。 肉を削がれ骨を断たれても、この男は止まらない。
(なんて……タフさだ……!)
Bランク──単なるステータスの高さだけではない。 痛みを計算に入れた動き。出血すら利用する冷静さ。
何より、殺すことへの執念が、ジェネラルの気迫と拮抗している。
「ハァ……ハァ……ッ!」
ジェネラルの動きが、わずかに鈍った。
(まずい……! [魔剣の呪い]だ!)
俺はジェネラルのHPが恐ろしい速度で減少しているのを見て戦慄した。
敵の攻撃によるダメージだけじゃない。 [SR]ランクの魔剣を無理やり振るう代償としてジェネラルの生命力がゴリゴリと削り取られているのだ。
ゴアが冷徹な笑みを深めた。
「その剣、強力ですが……振るうたびに貴様の命を喰らっているようだな……」
見抜かれた。 ゴアの動きが変わる。
それまでの回避優先の動きから、ジェネラルの自滅を誘う持久戦へと。
「あと何回振れるんだ? 十回? 五回? それとも、次で終わりか?」
「グルァッ!!」
ジェネラルが焦りを含んだ咆哮と共に大上段から剣を振り下ろす。
だが、ゴアはその予備動作を完全に見切っていた。
「焦ったか──終わりだ」
ヒュンッ。
ゴアの姿がブレる。
ジェネラルの剣が振り下ろされるよりも速く、懐へと潜り込む。
(しまっ──!?)
ジェネラルの剣は空を切り体勢が崩れる。 無防備なジェネラルの心臓と、それを貫くために構えられたゴアの[処刑人の針]。
「チェックメイトだ、木偶の坊」
冷酷な宣告と共に必殺の突きが放たれた。
(ジェネラル──!!)
ジェネラルの回避も、間に合わない。
終わった──そう思った、その瞬間だった。
「!」
ゴアの細剣がジェネラルの胸に触れる寸前でピタリと止まった。
いや、止められたのだ。
そこには──血の海に沈んでいたはずの、[N]ゴブリン・レンジャーの姿があった。 喉を斬り裂かれ、声も出せないはずの彼が折れた足で泥を這いずり、ゴアの右足首を万力のような力で掴んでいたのだ。
『ギ……ギィィ……ッ!』
声にならない咆哮。 目は虚ろだ。意識などもうないのかもしれない。
執念だけで格上の暗殺者の足を地面に縫い付けていた。
「下等生物が……ッ! 離せッ!」
ゴアが毒づき、レンジャーの手を蹴り飛ばそうとする。 だが、動かない。
「ヌンッ!!」
さらに横合いから伸びてきた太い腕が、ゴアのロングコートを掴んだ。
「ッ!?」
半身を斬り裂かれ、瀕死のはずの[N]ホブゴブリン・ファイターだ。
彼は残った片腕でゴアを抑え込み、血反吐を吐きながら嗤った。
『グルァ……!(捕まえたぞ……!)』
「き、貴様ら……! 死に損ないがぁッ!!」
ゴアの顔が驚愕に歪む。
(みんな……ッ!!)
俺は魂が震えるのを感じた。 彼らは俺の配下だ。忠実な下僕だ。
だが、これはプログラムされた忠誠心なんかじゃない。 彼ら自身の意志だ。 仲間を守り、主の期待に応えようとする魂の──
ジェネラルの意識が叩き起こされた。
「グルオオオオオオオオオオッ!!!!」
ジェネラルが吠える。部下たちが命を賭して作った千載一遇の好機。 怪物が今、ただの的となって目の前にいる!
残る全生命力を右腕に込めた。 防御など考えない。後のことなど知ったことか。
ただ、この一撃で目の前の敵を粉砕するためだけに!
空間が軋み世界が断絶する音。 ジェネラルの振るった[SR]崩界の魔剣が、ゴアの細剣[処刑人の針]ごと胴体を斜めに薙ぎ払った。
「がっ──!?」
冒険者たちを震え上がらせた不吉な魔剣がガラス細工のように砕け散る。
刃はゴアの肩口から脇腹にかけてを深々と切り裂き、鮮血の奔流を撒き散らした。
(やったか!?)
俺は勝利を確信した。
[SR]ランクの一撃だ。しかも直撃。生きていられるはずがない!
だが──。
「ガ……、はっ……!」
血の海の中でゴアは倒れなかった。 膝をつきかけ、踏みとどまる。
砕けた仮面の奥、血走った瞳が、憎悪の炎を宿してジェネラルを睨みつけていた。
(嘘だろ……!? まだ立ってるのか!?)
首の皮一枚。 [VIT 54]の頑強さと、Bランクとしての底知れぬ生命力が即死を拒絶していたのだ。
「下等生物どもが……くそっ……!」
ゴアが血反吐を吐きながら叫ぶ。
「調子に……乗るなァッ!!」
ゴアが残った力を振り絞り、自身の足首を掴んでいた[N]ゴブリン・レンジャーの顔面を革靴の踵で踏み抜いた。
さらに掴んでいた[N]ホブゴブリンを裏拳で殴り飛ばす。
「ギッ……」
既に瀕死だった二体はボロ雑巾のように吹き飛び、動かなくなった。
「グルァ……ッ!?」
[魔剣の呪い]で生命力を削りきっていたジェネラルが反応できずに棒立ちになる。
ゴアはその腹に渾身の前蹴りを叩き込んだ。
「ガハッ!?」
ジェネラルが巨体をくの字に折って吹き飛び、背後の大木に激突して崩れ落ちる。
手から[将軍の魔剣]が滑り落ち、光の粒子となって消滅した。
(ジェネラル!!)
俺は絶叫した。 だが、返事はない。
部下たちもジェネラルも、ピクリとも動かない。
(頼む……立ってくれ!)
俺は震える意識でDPカウンターを見る。
[DP: 500]
(ない……! もう、何もできない!)
ガチャも回復も罠も。 今の俺には彼らを助けるためのリソースが何一つ残っていない。
ゴアがゆらりと立ち上がる。 全身から血を流し息も絶え絶えだ。だが、殺意だけは衰えていない。
彼がゆっくりと、倒れ伏したジェネラルに歩み寄ろうとし──
ガクッ。
膝が折れた。
「ぐ……ッ!」
ゴアが胸の傷を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
魔剣の一撃は彼の肉体だけでなく、プライドも、そして継戦能力も根こそぎ奪い去っていたのだ。
「……チッ」
ゴアは舌打ちをし、憎悪に満ちた目で睨みつけた。
「勘違いするなよ……魔物風情が……!」
彼は懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。
煙幕だ。
「この借りは……必ず返す。首を洗って待っていろ……!」
捨て台詞と共に、ゴアの姿が煙の中に消える。 追撃できる者は誰もいなかった。
(……逃げた、のか?)
森に静寂が戻る。
その時だった。
ガサガサッ……。
静寂を取り戻したはずの森で、再び茂みが揺れた。
(ッ!? また人間か!?)
俺は戦慄する。 もう戦える者はいない。ジェネラルは倒れ、部下たちは全滅に近い。
もし敵の増援だったら──終わりだ。
「キィキィ……」
「チューッ!」
茂みから飛び出してきたのは、剣を持った人間ではなかった。 黒い翼を広げた[N]ヴァンパイアバットと、配下である[UC]ジャイアントラットや[N]ハーピーたち。
上空から異変を察知して駆けつけた、偵察・搬送部隊だ!
(お前たち……! 助かった!)
俺は安堵で崩れ落ちそうになる精神を必死に支え、彼らに指示を飛ばす。
(急いでくれ! ジェネラルたちを……生き残っている者を、拠点へ運ぶんだ! リナの元へ!)
「キィ!(運べ! 急げ!)」
ヴァンパイアバットの指揮でラットたちが一斉に倒れているジェネラルの元へ駆け寄る。
巨体のジェネラルを数匹がかりで背負い、ハーピーが上空からルートを確保する。 まだ息のある[N]ホブゴブリンや[N]ゴブリン・レンジャーも泥だらけになりながら引きずられていく。
だが──運ばれていく者たちの中に、彼らの姿はなかった。
[N]ミノタウロス。 砕け散った[N]ゴーレム。
彼らはピクリとも動かない。 光の粒子となって消え始めている者もいる。
仲間たちがただの物体となって転がっている。
(すまない……。本当に、すまない……みんな……)
俺は自責の念に押し潰されそうになりながら、物言わぬ骸となって森に還っていく配下たちを見つめることしかできなかった。
俺の直感が選択肢に釘付けになった。
【強制進化:魔剣の覚醒】
コスト10,000 DP。
現在の全財産である10,500 DPのほぼ全てを吐き出すことになる、乾坤一擲の大博打だ。 だが、効果は──必中と範囲切断。
(速すぎて当たらないなら、当たる理屈を変えてしまえばいい!)
避けるという概念そのものを否定する、因果干渉レベルの一撃。 今のジェネラルに必要なのは、速さを競う足ではない。
理不尽な速さを理不尽な暴力でねじ伏せる、絶対的な力だ!
(ジェネラル! 受け取れ!! 俺の全魔力を……お前の剣に注ぎ込む!!)
俺は迷わず、震える意識でそのボタンを叩き押した。
[DP: 10,500] → [DP: 500]
瞬間。 ジェネラルの手にある[将軍の魔剣]がドクンッ! と心臓のように脈打った。
「グ……ォォォォォッ!!?」
ジェネラルの腕が、剣から逆流してくる莫大な魔力に軋みを上げる。
銀色だった刀身がどす黒く禍々しいほどの紅蓮の輝きを帯びて変質していく。
刀身が伸び、空間そのものを喰らいながら歪な形状へと強制進化を遂げる!
(見えた……! これが、覚醒した魔剣のステータス!)
♢ ♢ ♢
名前: [SR] 崩界の魔剣
種族: 魔剣(一時覚醒状態)
ランク: [SR] スーパーレア
特殊能力
[必中(絶対)]: 認識した対象に対し、回避不能の軌道を描く。因果を歪め、振るった瞬間に「当たる」結果を固定する。
[空間切断]: 物理的な距離を無視し、対象が存在する座標そのものを切断する。防御力無視。
[魔剣の呪い]: 使用者の生命力を著しく削る(※ジェネラルのHPが徐々に減少)。
♢ ♢ ♢
(いける……! これなら、奴を殺せる!)
ただならぬ魔力の奔流を感じ取りゴア・シェルドーの鉄仮面がピクリと動いた。
「なんだ……?武器が変化した……?」
ゴアは細剣を構え直し、ジェネラルの手元──空間が歪んで見えるほどのオーラを纏った異形の剣を見据える。
「魔剣のようだが……無駄だ。当たらなければどんな強力な武器もただの飾りだ」
ゴアの姿がブレる。 [瞬歩]の構えだ。
奴はジェネラルが剣を振り上げる隙に、に飛び込んで心臓を貫くつもりだ。 その速度は音速すら超える──。
だが。
「グルァァァァァァァァァッ!!!!」
ジェネラルはゴアを見なかった。 動く必要すらない。
彼はただ溢れ出る破壊の衝動に任せ、その場から一歩も動かずに目の前の空間に向かって魔剣を振り下ろした。
スキル発動── [次元断(ディメンション・スラッシュ)]
「遅い」
ゴア・シェルドーの姿がブレる。 音速を超える移動速度でジェネラルの剣筋から完全に離脱──したはずだった。
だが。
「なっ──!?」
ゴアの余裕が、瞬時に驚愕へと変わる。 彼が回避したはずの空間、移動した先の空間、その全ての「逃げ場」に、逃れようのない亀裂が走っていたのだ。
(当たり前だ! その剣は因果を断つ! 「避ける」という概念そのものが通用しない!)
世界がズレたような錯覚。
ジェネラルの剣閃が通った軌道上の大気、地面、木々、そして──そこにあった空間ごと、ゴア・シェルドーの身体を捉えた。
「ぐ……!?」
ゴアは回避が不可能と悟るや否や、神速の反応で細剣を盾のように構え、身をよじって致命的な直撃を逸らそうとした。
[静寂のロングコート]が魔力を放ち、衝撃を殺そうとする。
金属が悲鳴を上げる音と共に、ゴアの体が砲弾のように弾き飛ばされた。
「かっ……!?」
数本の木々をへし折り地面を削りながら転がるゴア。
彼が立ち上がった時、その姿は先ほどまでの涼しいものではなかった。
「ガハッ……! 馬鹿、な……」
鉄仮面が半分砕け散り、奥から血に塗れた素顔が覗く。
防御に使った自慢の細剣にはヒビが入り、左肩から脇腹にかけてコートごと肉が抉られ赤黒い血が噴き出していた。
(やった! 直撃だ!)
だが──倒れていない。
HPがごっそり減ったのが見えたが、それでもまだ残っている。 Bランクのしぶとさは伊達じゃない!
「グルァッ!!」
ジェネラルは攻撃の手を緩めない。
好機と見るや、武器を構え直し、傷ついた処刑人へと肉薄する。
「チッ……!調子に、乗るなよ獣風情が!」
ゴアが毒づき、砕けた仮面を捨てて細剣を構える。
だが、その動きには先ほどまでの絶対的な余裕はない。痛みが、出血が彼の神速を鈍らせている。
「オオオオオオッ!!」
ジェネラルの猛攻が始まった。 横薙ぎ、突き、斬り上げ。
[SR]魔剣のデタラメな威力と、[戦士の誇り]による闘志が乗った連撃が嵐のようにゴアを襲う。
「くっ、ガッ……!」
ゴアは必死に剣を振るい、受け流そうとするが、重すぎる一撃を受け止めるたびに足が沈み、口端から血が漏れる。
(いける……! 押し込んでる!)
俺は拳を握りしめた。 あの化け物を、防戦一方に追い込んでいる! あと一押しだ!
[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルが、命を削りながら[SR]崩界の魔剣を振るう。 一撃ごとに空間が軋み、逃げ場のない斬撃がゴア・シェルドーを襲う。
だが──ゴアは倒れない。
「鬱陶しい!」
ゴアは左肩から血を流しながらも、表情一つ変えずに細剣を振るっていた。 ジェネラルの攻撃は必中だ。振れば当たる。
しかし、ゴアはその当たる箇所を致命傷にならない部位へとずらしていた。 腕、足、脇腹。 肉を削がれ骨を断たれても、この男は止まらない。
(なんて……タフさだ……!)
Bランク──単なるステータスの高さだけではない。 痛みを計算に入れた動き。出血すら利用する冷静さ。
何より、殺すことへの執念が、ジェネラルの気迫と拮抗している。
「ハァ……ハァ……ッ!」
ジェネラルの動きが、わずかに鈍った。
(まずい……! [魔剣の呪い]だ!)
俺はジェネラルのHPが恐ろしい速度で減少しているのを見て戦慄した。
敵の攻撃によるダメージだけじゃない。 [SR]ランクの魔剣を無理やり振るう代償としてジェネラルの生命力がゴリゴリと削り取られているのだ。
ゴアが冷徹な笑みを深めた。
「その剣、強力ですが……振るうたびに貴様の命を喰らっているようだな……」
見抜かれた。 ゴアの動きが変わる。
それまでの回避優先の動きから、ジェネラルの自滅を誘う持久戦へと。
「あと何回振れるんだ? 十回? 五回? それとも、次で終わりか?」
「グルァッ!!」
ジェネラルが焦りを含んだ咆哮と共に大上段から剣を振り下ろす。
だが、ゴアはその予備動作を完全に見切っていた。
「焦ったか──終わりだ」
ヒュンッ。
ゴアの姿がブレる。
ジェネラルの剣が振り下ろされるよりも速く、懐へと潜り込む。
(しまっ──!?)
ジェネラルの剣は空を切り体勢が崩れる。 無防備なジェネラルの心臓と、それを貫くために構えられたゴアの[処刑人の針]。
「チェックメイトだ、木偶の坊」
冷酷な宣告と共に必殺の突きが放たれた。
(ジェネラル──!!)
ジェネラルの回避も、間に合わない。
終わった──そう思った、その瞬間だった。
「!」
ゴアの細剣がジェネラルの胸に触れる寸前でピタリと止まった。
いや、止められたのだ。
そこには──血の海に沈んでいたはずの、[N]ゴブリン・レンジャーの姿があった。 喉を斬り裂かれ、声も出せないはずの彼が折れた足で泥を這いずり、ゴアの右足首を万力のような力で掴んでいたのだ。
『ギ……ギィィ……ッ!』
声にならない咆哮。 目は虚ろだ。意識などもうないのかもしれない。
執念だけで格上の暗殺者の足を地面に縫い付けていた。
「下等生物が……ッ! 離せッ!」
ゴアが毒づき、レンジャーの手を蹴り飛ばそうとする。 だが、動かない。
「ヌンッ!!」
さらに横合いから伸びてきた太い腕が、ゴアのロングコートを掴んだ。
「ッ!?」
半身を斬り裂かれ、瀕死のはずの[N]ホブゴブリン・ファイターだ。
彼は残った片腕でゴアを抑え込み、血反吐を吐きながら嗤った。
『グルァ……!(捕まえたぞ……!)』
「き、貴様ら……! 死に損ないがぁッ!!」
ゴアの顔が驚愕に歪む。
(みんな……ッ!!)
俺は魂が震えるのを感じた。 彼らは俺の配下だ。忠実な下僕だ。
だが、これはプログラムされた忠誠心なんかじゃない。 彼ら自身の意志だ。 仲間を守り、主の期待に応えようとする魂の──
ジェネラルの意識が叩き起こされた。
「グルオオオオオオオオオオッ!!!!」
ジェネラルが吠える。部下たちが命を賭して作った千載一遇の好機。 怪物が今、ただの的となって目の前にいる!
残る全生命力を右腕に込めた。 防御など考えない。後のことなど知ったことか。
ただ、この一撃で目の前の敵を粉砕するためだけに!
空間が軋み世界が断絶する音。 ジェネラルの振るった[SR]崩界の魔剣が、ゴアの細剣[処刑人の針]ごと胴体を斜めに薙ぎ払った。
「がっ──!?」
冒険者たちを震え上がらせた不吉な魔剣がガラス細工のように砕け散る。
刃はゴアの肩口から脇腹にかけてを深々と切り裂き、鮮血の奔流を撒き散らした。
(やったか!?)
俺は勝利を確信した。
[SR]ランクの一撃だ。しかも直撃。生きていられるはずがない!
だが──。
「ガ……、はっ……!」
血の海の中でゴアは倒れなかった。 膝をつきかけ、踏みとどまる。
砕けた仮面の奥、血走った瞳が、憎悪の炎を宿してジェネラルを睨みつけていた。
(嘘だろ……!? まだ立ってるのか!?)
首の皮一枚。 [VIT 54]の頑強さと、Bランクとしての底知れぬ生命力が即死を拒絶していたのだ。
「下等生物どもが……くそっ……!」
ゴアが血反吐を吐きながら叫ぶ。
「調子に……乗るなァッ!!」
ゴアが残った力を振り絞り、自身の足首を掴んでいた[N]ゴブリン・レンジャーの顔面を革靴の踵で踏み抜いた。
さらに掴んでいた[N]ホブゴブリンを裏拳で殴り飛ばす。
「ギッ……」
既に瀕死だった二体はボロ雑巾のように吹き飛び、動かなくなった。
「グルァ……ッ!?」
[魔剣の呪い]で生命力を削りきっていたジェネラルが反応できずに棒立ちになる。
ゴアはその腹に渾身の前蹴りを叩き込んだ。
「ガハッ!?」
ジェネラルが巨体をくの字に折って吹き飛び、背後の大木に激突して崩れ落ちる。
手から[将軍の魔剣]が滑り落ち、光の粒子となって消滅した。
(ジェネラル!!)
俺は絶叫した。 だが、返事はない。
部下たちもジェネラルも、ピクリとも動かない。
(頼む……立ってくれ!)
俺は震える意識でDPカウンターを見る。
[DP: 500]
(ない……! もう、何もできない!)
ガチャも回復も罠も。 今の俺には彼らを助けるためのリソースが何一つ残っていない。
ゴアがゆらりと立ち上がる。 全身から血を流し息も絶え絶えだ。だが、殺意だけは衰えていない。
彼がゆっくりと、倒れ伏したジェネラルに歩み寄ろうとし──
ガクッ。
膝が折れた。
「ぐ……ッ!」
ゴアが胸の傷を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
魔剣の一撃は彼の肉体だけでなく、プライドも、そして継戦能力も根こそぎ奪い去っていたのだ。
「……チッ」
ゴアは舌打ちをし、憎悪に満ちた目で睨みつけた。
「勘違いするなよ……魔物風情が……!」
彼は懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。
煙幕だ。
「この借りは……必ず返す。首を洗って待っていろ……!」
捨て台詞と共に、ゴアの姿が煙の中に消える。 追撃できる者は誰もいなかった。
(……逃げた、のか?)
森に静寂が戻る。
その時だった。
ガサガサッ……。
静寂を取り戻したはずの森で、再び茂みが揺れた。
(ッ!? また人間か!?)
俺は戦慄する。 もう戦える者はいない。ジェネラルは倒れ、部下たちは全滅に近い。
もし敵の増援だったら──終わりだ。
「キィキィ……」
「チューッ!」
茂みから飛び出してきたのは、剣を持った人間ではなかった。 黒い翼を広げた[N]ヴァンパイアバットと、配下である[UC]ジャイアントラットや[N]ハーピーたち。
上空から異変を察知して駆けつけた、偵察・搬送部隊だ!
(お前たち……! 助かった!)
俺は安堵で崩れ落ちそうになる精神を必死に支え、彼らに指示を飛ばす。
(急いでくれ! ジェネラルたちを……生き残っている者を、拠点へ運ぶんだ! リナの元へ!)
「キィ!(運べ! 急げ!)」
ヴァンパイアバットの指揮でラットたちが一斉に倒れているジェネラルの元へ駆け寄る。
巨体のジェネラルを数匹がかりで背負い、ハーピーが上空からルートを確保する。 まだ息のある[N]ホブゴブリンや[N]ゴブリン・レンジャーも泥だらけになりながら引きずられていく。
だが──運ばれていく者たちの中に、彼らの姿はなかった。
[N]ミノタウロス。 砕け散った[N]ゴーレム。
彼らはピクリとも動かない。 光の粒子となって消え始めている者もいる。
仲間たちがただの物体となって転がっている。
(すまない……。本当に、すまない……みんな……)
俺は自責の念に押し潰されそうになりながら、物言わぬ骸となって森に還っていく配下たちを見つめることしかできなかった。
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女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
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最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
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【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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