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16.成形
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ガスによって膨らんだ生地に、軽く拳を当てるようにしてパンチする。
生地からはぱすぱすと音がして、溜まったガスが抜けていった。
「生地はバゲットでいうと二本分くらいです。レイさん、シチューのパンはいくつ作りますか?」
「そうだな……七つくらいかな? できればこぶしくらいの大きさにしたいんだ」
俺は左手を握って見せた後、スケッパーで生地を七つに切り分けた。
本来なら秤を使って大きさを均等にしたいが、発酵の良さを考えるとあまりあれこれと生地をいじくり回す時間は無い。
パン作りはスピード勝負だ。生地の乾燥を防ぎベストの発酵状態を見逃さないよう、作業は迅速に進めなければならない。
今回はひとまずパンにシチューが合うということを示れば良いと考えれば、多少の歪さには目を瞑るべきだろう。
この先エルダさんが協力してくれるなら、きっとベストな大きさや中の具の形についても改良できる。そのための第一試験は何よりも“味”だ。
切り分けた生地は丸め直して少し濡らした布巾の下に入れ、俺は一つ息を吐く。
「なかなか手際が良いじゃないか。ブールなら明日からでも任せられそうだ」
「このまま焼けばちょうど小さめのブールになりますけど、ここからどうやって包むんですか?」
エルダさんとリックは俺の手元をしげしげと見つめた。
俺は最初に切り分けた一つを布巾の下から取り出し、作業台に置いた。
「リック、シチューのボウルをここに置いてくれ。生地を広げてそこにシチューの具を置いて包むので、エルダさんは天板の用意をお願いします」
俺は丸い生地を手のひらで潰した。
麺棒で丸く伸ばしても良いのだが、中にフィリングを入れる場合は生地の全体を同じ厚さにして広げてしまうと生地が膨らむ過程で破れやすくなる。
丸く広げた生地の、具を乗せる中央部分の生地が厚くなるようにするのがコツだ。
「中心が厚いな」
「周りの生地を集めて閉じるパンの底になるところは生地が集まるので自然に厚くなるんです。焼成中に膨らんで中の具が飛び出さないように、上になる部分を厚くしています」
「シチュー、少し冷めたけど包めますかね……」
リックが持ったシチューはボウルの中でややとろみを付けているものの、パン生地の上におけばすぐに広がって流れてしまいそうだった。
「うーん……とりあえず具を選んで包むから大丈夫だと思うよ。パンに齧り付いて中から柔らかく煮込まれた牛肉が出てきたら美味しいはずだから、それを目指そう」
俺はスプーンでボウルの中の肉を掬い、生地の中央に置いた。肉一つでは心許ないのでにんじんや芋の欠片も選んで生地の上の肉に添える。
「だ、大丈夫か? 本当に包めるのか?」
エルダさんは何か恐ろしいものでも見るように引き攣った顔をした。
「やってみます」
俺は丸い生地を上から見下ろし、左右の生地を引っ張りながらくっつけた。続いて上下の生地もそこに寄せ、風呂敷で荷物を包むようにして生地同士を指で摘む。
この、生地と生地を合わせる部分にシチューが付着すると生地同士がくっつかなくなってしまう。はみ出すことのないよう慎重に、しかし迅速に、生地を寄せる。
しっかりと生地を合わせた後、スケッパーを使いながら作業台から生地を剥がした。
エルダさんの用意した天板の上に閉じた面を下にしてそれを置くと、自然と止めたままだった息が漏れた。
「すごい……なんなんだ、このパンは……」
「本当に包めるんですね……まったく想像ができません、どうなるんだろう」
二人の感嘆の声に、張っていた俺の肩の力が少しだけ抜ける。
「包んだものが乾燥しないように濡れ布巾を掛けておいてください。残りの分も作りますね」
不思議に静まり返った工房の中、シチューの具材が包まれたパンたちは天板の上に行儀良く整列している。
あとは二次発酵をさせ、焼き上げるのみだ。
生地からはぱすぱすと音がして、溜まったガスが抜けていった。
「生地はバゲットでいうと二本分くらいです。レイさん、シチューのパンはいくつ作りますか?」
「そうだな……七つくらいかな? できればこぶしくらいの大きさにしたいんだ」
俺は左手を握って見せた後、スケッパーで生地を七つに切り分けた。
本来なら秤を使って大きさを均等にしたいが、発酵の良さを考えるとあまりあれこれと生地をいじくり回す時間は無い。
パン作りはスピード勝負だ。生地の乾燥を防ぎベストの発酵状態を見逃さないよう、作業は迅速に進めなければならない。
今回はひとまずパンにシチューが合うということを示れば良いと考えれば、多少の歪さには目を瞑るべきだろう。
この先エルダさんが協力してくれるなら、きっとベストな大きさや中の具の形についても改良できる。そのための第一試験は何よりも“味”だ。
切り分けた生地は丸め直して少し濡らした布巾の下に入れ、俺は一つ息を吐く。
「なかなか手際が良いじゃないか。ブールなら明日からでも任せられそうだ」
「このまま焼けばちょうど小さめのブールになりますけど、ここからどうやって包むんですか?」
エルダさんとリックは俺の手元をしげしげと見つめた。
俺は最初に切り分けた一つを布巾の下から取り出し、作業台に置いた。
「リック、シチューのボウルをここに置いてくれ。生地を広げてそこにシチューの具を置いて包むので、エルダさんは天板の用意をお願いします」
俺は丸い生地を手のひらで潰した。
麺棒で丸く伸ばしても良いのだが、中にフィリングを入れる場合は生地の全体を同じ厚さにして広げてしまうと生地が膨らむ過程で破れやすくなる。
丸く広げた生地の、具を乗せる中央部分の生地が厚くなるようにするのがコツだ。
「中心が厚いな」
「周りの生地を集めて閉じるパンの底になるところは生地が集まるので自然に厚くなるんです。焼成中に膨らんで中の具が飛び出さないように、上になる部分を厚くしています」
「シチュー、少し冷めたけど包めますかね……」
リックが持ったシチューはボウルの中でややとろみを付けているものの、パン生地の上におけばすぐに広がって流れてしまいそうだった。
「うーん……とりあえず具を選んで包むから大丈夫だと思うよ。パンに齧り付いて中から柔らかく煮込まれた牛肉が出てきたら美味しいはずだから、それを目指そう」
俺はスプーンでボウルの中の肉を掬い、生地の中央に置いた。肉一つでは心許ないのでにんじんや芋の欠片も選んで生地の上の肉に添える。
「だ、大丈夫か? 本当に包めるのか?」
エルダさんは何か恐ろしいものでも見るように引き攣った顔をした。
「やってみます」
俺は丸い生地を上から見下ろし、左右の生地を引っ張りながらくっつけた。続いて上下の生地もそこに寄せ、風呂敷で荷物を包むようにして生地同士を指で摘む。
この、生地と生地を合わせる部分にシチューが付着すると生地同士がくっつかなくなってしまう。はみ出すことのないよう慎重に、しかし迅速に、生地を寄せる。
しっかりと生地を合わせた後、スケッパーを使いながら作業台から生地を剥がした。
エルダさんの用意した天板の上に閉じた面を下にしてそれを置くと、自然と止めたままだった息が漏れた。
「すごい……なんなんだ、このパンは……」
「本当に包めるんですね……まったく想像ができません、どうなるんだろう」
二人の感嘆の声に、張っていた俺の肩の力が少しだけ抜ける。
「包んだものが乾燥しないように濡れ布巾を掛けておいてください。残りの分も作りますね」
不思議に静まり返った工房の中、シチューの具材が包まれたパンたちは天板の上に行儀良く整列している。
あとは二次発酵をさせ、焼き上げるのみだ。
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