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第二章 少女の友達
4.ソース
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夕方、買い出しに出た俺は軍資金(俺はまだ給料を貰っていないし試作のための金をくれとは言えないので、当然これは個人的な貯蓄を切り崩している。)を持って買えるだけの食材を買って帰った。
工房の隅を借りて材料を切り、ピザ用のトッピングを用意する。
「ずいぶん小さく切るんだな」
「ピザを焼く時間で火が通ることも考えるとこれくらいの方が良いですよ。食べるのが子どもだって考えても」
俺はトマト、ピーマン、ナス、じゃがいも、コーン、そしてベーコンとチーズを用意していた。サラミと生ハムも欲しいと思ったものの、資金の都合で我慢した。
「……そういえば、ソースはどうするんだ?」
「トマトを潰したところに塩とガーリックで味付けをしたものを使います。本当はもっとスパイスとか入れた方が美味しいとは思うんですけど……俺はそのあたりの知識が少なくて」
ソースの話は、実のところ耳の痛い話であった。
俺がこのピザを思い付いた時、頭の中にあったのは以前の世界で頻繁に利用していたデリバリーのピザ店のピザだ。
もちろんピザを自作したことはある。自分で作った生地に自分が食べたいだけの食材を乗せて焼くピザは最高に美味いものだったのだが、一人では作りにくいものがあったのだ。
そう。
あのピザのチェーン店が売り出している、一枚のピザを四分割に、異なる味と具材が食べられるタイプのあれだ。
あれを個人的に作るのは容易ではない。そもそも店で作るような大きなピザを家庭用のオーブンで焼くのは難しいし、ピザ生地を伸ばすことだって難しい。
そこに四分割で違うソースと具材を乗せると、十中八九、具材とソースがぐちゃぐちゃに混ざる(経験済み)のだ。
だから一人で色々な味を食べたいならチェーン店のピザの方が都合が良かったわけで、そんなピザを子どもたちが自由に作れるとなればこれは大行列も間違いないと思ったのだが、落とし穴はソースだったのだ。
「トマトのソースか。美味そうだな」
「……本当は醤油とかマヨネーズとかがあればよかったんだけど」
俺はエルダさんには聞こえないよう、小声で呟いた。
この世界には醤油がない。つまり照り焼きは作れない。
マヨネーズもない。いや、マヨネーズくらいはあるのかもしれないが、あったところでそこまで町の人に定着していないマヨネーズだけではどうにもならない。
マヨじゃがとかマヨコーンとか、そういうジャンクな味は誰でも食べれば好きになるはずだという自信はあるが、食べたことのないソースとしていきなり子どもたちが見たとしても人気は出ないだろう。
この世界のこの町で馴染みのあるソースというと、今のところはトマトソース以外にないのだった。
「だが、トマトソースだけならどの具材を選んでも結局は同じ味にならないか? 子どもたちが自由に作ると言う割に、できあがるものは同じようなものばかりになりそうだな」
まるで俺の思考を読んだようなエルダさんの一言だった。
俺は食材を刻む手を止めた。
「……やっぱりそう思います?」
「せっかくならソースも選べたらおもしろいと思うんだがな。他の案はないのか?」
俺は遠い記憶を辿ってみる。
照り焼き以外、マヨネーズ以外だとすると。
「……バジルのソースとか。あとはホワイトソース……あ、えーと……ミルクにとろみを付けたようなソースとか……」
「バジルは癖があって子どもが嫌がるだろう。だったら、この間のシチューはどうだ? 金はかかるが、せっかくの祭だからオーナーも許してくれるかもしれん」
「あっそれ良いですね! シチューの味はミーティも好きだし!」
固いパンばかり作っているとはいえ、やはりエルダさんは一流の職人だ。
「玉ねぎを煮込んでも良いかもしれないな。深みのある甘さが出るし子どもが好きな味だ」
「なるほど……」
「あとは、オレンジで作るソースはどうだ?
魚料理に使うと良いんだが、色が鮮やかで子どもにも良いかもしれない。いっそフルーツを乗せて焼くのもいいんじゃないか?」
エルダさんはその後も料理の知識を含めて様々な案を出してくれた。
甘いピザにするというのは俺にない視点だったが、この案なら思うより色々なパターンが生まれるかもしれない。
俺は天啓を受けたように目の前が広がる思いがした。
工房の隅を借りて材料を切り、ピザ用のトッピングを用意する。
「ずいぶん小さく切るんだな」
「ピザを焼く時間で火が通ることも考えるとこれくらいの方が良いですよ。食べるのが子どもだって考えても」
俺はトマト、ピーマン、ナス、じゃがいも、コーン、そしてベーコンとチーズを用意していた。サラミと生ハムも欲しいと思ったものの、資金の都合で我慢した。
「……そういえば、ソースはどうするんだ?」
「トマトを潰したところに塩とガーリックで味付けをしたものを使います。本当はもっとスパイスとか入れた方が美味しいとは思うんですけど……俺はそのあたりの知識が少なくて」
ソースの話は、実のところ耳の痛い話であった。
俺がこのピザを思い付いた時、頭の中にあったのは以前の世界で頻繁に利用していたデリバリーのピザ店のピザだ。
もちろんピザを自作したことはある。自分で作った生地に自分が食べたいだけの食材を乗せて焼くピザは最高に美味いものだったのだが、一人では作りにくいものがあったのだ。
そう。
あのピザのチェーン店が売り出している、一枚のピザを四分割に、異なる味と具材が食べられるタイプのあれだ。
あれを個人的に作るのは容易ではない。そもそも店で作るような大きなピザを家庭用のオーブンで焼くのは難しいし、ピザ生地を伸ばすことだって難しい。
そこに四分割で違うソースと具材を乗せると、十中八九、具材とソースがぐちゃぐちゃに混ざる(経験済み)のだ。
だから一人で色々な味を食べたいならチェーン店のピザの方が都合が良かったわけで、そんなピザを子どもたちが自由に作れるとなればこれは大行列も間違いないと思ったのだが、落とし穴はソースだったのだ。
「トマトのソースか。美味そうだな」
「……本当は醤油とかマヨネーズとかがあればよかったんだけど」
俺はエルダさんには聞こえないよう、小声で呟いた。
この世界には醤油がない。つまり照り焼きは作れない。
マヨネーズもない。いや、マヨネーズくらいはあるのかもしれないが、あったところでそこまで町の人に定着していないマヨネーズだけではどうにもならない。
マヨじゃがとかマヨコーンとか、そういうジャンクな味は誰でも食べれば好きになるはずだという自信はあるが、食べたことのないソースとしていきなり子どもたちが見たとしても人気は出ないだろう。
この世界のこの町で馴染みのあるソースというと、今のところはトマトソース以外にないのだった。
「だが、トマトソースだけならどの具材を選んでも結局は同じ味にならないか? 子どもたちが自由に作ると言う割に、できあがるものは同じようなものばかりになりそうだな」
まるで俺の思考を読んだようなエルダさんの一言だった。
俺は食材を刻む手を止めた。
「……やっぱりそう思います?」
「せっかくならソースも選べたらおもしろいと思うんだがな。他の案はないのか?」
俺は遠い記憶を辿ってみる。
照り焼き以外、マヨネーズ以外だとすると。
「……バジルのソースとか。あとはホワイトソース……あ、えーと……ミルクにとろみを付けたようなソースとか……」
「バジルは癖があって子どもが嫌がるだろう。だったら、この間のシチューはどうだ? 金はかかるが、せっかくの祭だからオーナーも許してくれるかもしれん」
「あっそれ良いですね! シチューの味はミーティも好きだし!」
固いパンばかり作っているとはいえ、やはりエルダさんは一流の職人だ。
「玉ねぎを煮込んでも良いかもしれないな。深みのある甘さが出るし子どもが好きな味だ」
「なるほど……」
「あとは、オレンジで作るソースはどうだ?
魚料理に使うと良いんだが、色が鮮やかで子どもにも良いかもしれない。いっそフルーツを乗せて焼くのもいいんじゃないか?」
エルダさんはその後も料理の知識を含めて様々な案を出してくれた。
甘いピザにするというのは俺にない視点だったが、この案なら思うより色々なパターンが生まれるかもしれない。
俺は天啓を受けたように目の前が広がる思いがした。
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