25 / 162
第二章 少女の友達
5.二つの顔
しおりを挟む
使う生地はいつも通りの配合で捏ね上げた生地だ。
成形(と言っても丸く伸ばすだけだが)は俺がやろうと思っていたものの、俺の非力な腕では薄く伸ばしきれず、結局はエルダさんに麺棒を使って形を整えてもらうことになった。
生地を薄くしたのは固めに焼き上がることを見越したからだ。もしもデリバリー系の店で主流の厚めの生地にした場合、固くて厚い生地は噛み切れないと思ったので、いわゆる“クリスピータイプ”の薄めの生地を目指した。
この生地ではもちもちふわふわとしたハンドトス系のピザは作れないのである。
「ソースはできてるのか?」
「はい、なんとか」
俺は作りたてのトマトソースをエルダさんに見せ、味見用のスプーンを渡した。
初めてキッチンを借りて作ったソースは意外にも上手くできた。
途中、リックと遊んでいたはずのミーティが何を作っているのかと聞きにきて焦りながら適当に誤魔化したものの、「良い匂い」と言われたことで俺は自信と平静を取り戻した。
オリーブオイルにニンニクを入れて炒め、刻んだトマトを入れて煮込む。塩で味付けをしてほんの少しバジルの葉をちぎってから、水分を飛ばして完成。
暖炉の上に鉄板が置かれたような形のキッチンの使い勝手は良いとは言えないものの、複雑な機械ではないため気を付けていれば恐れるほどのものではない。暖炉は常に火が焚かれているのでそこに鍋を置けばいつでも料理ができるのだ。
「お、結構いい味だな。それで、この後は?」
「具を乗せましょう。とりあえずナスとピーマンと、あとはベーコンとチーズかな……どうですか?」
「じゃがいもとコーンも使わないともったいないだろ。全部乗せたらいいじゃないか」
俺は内心、エルダさんに、よくいるタイプの陽気すぎる先輩の影を見た。
例えば冬に鍋をする時に「全部入れようぜ」と言って肉も魚もとにかくあるものすべてを入れたり、バーベキューをやるからと誰もさばけないデカい謎の魚や絶対に火が通りきらないブロック肉を持ち込んだりする、あの手の輩だ。
嫌いではないが、俺とは正反対の性格だ。端的に言えば苦手である。
「全部……全部はあんまり……おすすめできないですけど……」
「じゃあ二枚焼くか? 生地ならまだあるが」
「うーん……あ、せっかく大きく広げてもらったからハーフにしましょうか!」
「ハーフ?」
首を傾げたエルダさんに、スケッパーを手に取った俺は丸い生地を半分に分ける形で薄く目印となるラインを引いた。
「ソースは一種類しかないので全体に塗りますが、具材は半分ずつ違う組み合わせにするってことです。右側がナスとピーマン、左側がじゃがいもとコーン。チーズとベーコンはどっちにも合うので両方に」
俺は説明しながら、トマトソースを塗った右の半分に細かく切ったナスとピーマンを散らした。
「おお……! なるほど、これがおまえが言っていた分け合うためのアイデアか!」
「エルダさんのはコーンとじゃがいもを乗せます。これも良い組み合わせですよね、美味しそうです」
最後は両側に薄く切ったベーコンとチーズを乗せて、白かったピザ生地の上はすっかり賑やかになった。
「このまま焼けばいいのか?」
「はい。薄いので、そんなに時間はかからないと思います」
エルダさんは頷き、二つの顔を持つピザを窯の中に入れた。
「同じソースだとしても具材の組み合わせで印象は変わるだろうな。おまえはどんな具材が一番美味いと思うんだ?」
「俺ですか?」
ピザが焼き上がるのを待つ間、エルダさんにそう尋ねられて俺は腕を組んで考え込んだ。
一番好きなピザと言われると迷ってしまう。
以前いた世界には本当に色々な味に具材のピザがあった。
ジェノバソースにじゃがいもを乗せたものも捨てがたいが、炭火で焼いた肉をがっつり乗せたものも好きだった。チーズが全体にかかっているだけのものも、酒のつまみには最高だった。
だが、一番と言えばやはり。
「……やっぱりトマトソースのものが好きです。ちょっと辛いやつで、ナスが乗ってて、チーズとサラミと……」
「不思議なもんだな。そんなもの、一体どこで食べたって言うんだ」
エルダさんは呆れたように笑った。
「あ、まあ、想像の話だと思ってください……エルダさんは何が一番美味しいと思いますか? このパリパリして、香ばしい生地に合う具」
「そうだな……チキンはどうだろう? 例えばオレンジのソースによく焼いたチキンは合うだろ? 薄いパンと食べれば合うように思うが」
「オレンジにチキンか……それも合いそうですね。このピザが上手く焼けて、正式に祭りの屋台で出すものとして採用されたら、ソースと具材のパターンの案を整理してみましょう。フロッカーさんやリックの意見も聞いてみたいし」
ちょうど窯の中から良い匂いがしてきた。
匂いだけなら今のところ、合格点は間違いない。
成形(と言っても丸く伸ばすだけだが)は俺がやろうと思っていたものの、俺の非力な腕では薄く伸ばしきれず、結局はエルダさんに麺棒を使って形を整えてもらうことになった。
生地を薄くしたのは固めに焼き上がることを見越したからだ。もしもデリバリー系の店で主流の厚めの生地にした場合、固くて厚い生地は噛み切れないと思ったので、いわゆる“クリスピータイプ”の薄めの生地を目指した。
この生地ではもちもちふわふわとしたハンドトス系のピザは作れないのである。
「ソースはできてるのか?」
「はい、なんとか」
俺は作りたてのトマトソースをエルダさんに見せ、味見用のスプーンを渡した。
初めてキッチンを借りて作ったソースは意外にも上手くできた。
途中、リックと遊んでいたはずのミーティが何を作っているのかと聞きにきて焦りながら適当に誤魔化したものの、「良い匂い」と言われたことで俺は自信と平静を取り戻した。
オリーブオイルにニンニクを入れて炒め、刻んだトマトを入れて煮込む。塩で味付けをしてほんの少しバジルの葉をちぎってから、水分を飛ばして完成。
暖炉の上に鉄板が置かれたような形のキッチンの使い勝手は良いとは言えないものの、複雑な機械ではないため気を付けていれば恐れるほどのものではない。暖炉は常に火が焚かれているのでそこに鍋を置けばいつでも料理ができるのだ。
「お、結構いい味だな。それで、この後は?」
「具を乗せましょう。とりあえずナスとピーマンと、あとはベーコンとチーズかな……どうですか?」
「じゃがいもとコーンも使わないともったいないだろ。全部乗せたらいいじゃないか」
俺は内心、エルダさんに、よくいるタイプの陽気すぎる先輩の影を見た。
例えば冬に鍋をする時に「全部入れようぜ」と言って肉も魚もとにかくあるものすべてを入れたり、バーベキューをやるからと誰もさばけないデカい謎の魚や絶対に火が通りきらないブロック肉を持ち込んだりする、あの手の輩だ。
嫌いではないが、俺とは正反対の性格だ。端的に言えば苦手である。
「全部……全部はあんまり……おすすめできないですけど……」
「じゃあ二枚焼くか? 生地ならまだあるが」
「うーん……あ、せっかく大きく広げてもらったからハーフにしましょうか!」
「ハーフ?」
首を傾げたエルダさんに、スケッパーを手に取った俺は丸い生地を半分に分ける形で薄く目印となるラインを引いた。
「ソースは一種類しかないので全体に塗りますが、具材は半分ずつ違う組み合わせにするってことです。右側がナスとピーマン、左側がじゃがいもとコーン。チーズとベーコンはどっちにも合うので両方に」
俺は説明しながら、トマトソースを塗った右の半分に細かく切ったナスとピーマンを散らした。
「おお……! なるほど、これがおまえが言っていた分け合うためのアイデアか!」
「エルダさんのはコーンとじゃがいもを乗せます。これも良い組み合わせですよね、美味しそうです」
最後は両側に薄く切ったベーコンとチーズを乗せて、白かったピザ生地の上はすっかり賑やかになった。
「このまま焼けばいいのか?」
「はい。薄いので、そんなに時間はかからないと思います」
エルダさんは頷き、二つの顔を持つピザを窯の中に入れた。
「同じソースだとしても具材の組み合わせで印象は変わるだろうな。おまえはどんな具材が一番美味いと思うんだ?」
「俺ですか?」
ピザが焼き上がるのを待つ間、エルダさんにそう尋ねられて俺は腕を組んで考え込んだ。
一番好きなピザと言われると迷ってしまう。
以前いた世界には本当に色々な味に具材のピザがあった。
ジェノバソースにじゃがいもを乗せたものも捨てがたいが、炭火で焼いた肉をがっつり乗せたものも好きだった。チーズが全体にかかっているだけのものも、酒のつまみには最高だった。
だが、一番と言えばやはり。
「……やっぱりトマトソースのものが好きです。ちょっと辛いやつで、ナスが乗ってて、チーズとサラミと……」
「不思議なもんだな。そんなもの、一体どこで食べたって言うんだ」
エルダさんは呆れたように笑った。
「あ、まあ、想像の話だと思ってください……エルダさんは何が一番美味しいと思いますか? このパリパリして、香ばしい生地に合う具」
「そうだな……チキンはどうだろう? 例えばオレンジのソースによく焼いたチキンは合うだろ? 薄いパンと食べれば合うように思うが」
「オレンジにチキンか……それも合いそうですね。このピザが上手く焼けて、正式に祭りの屋台で出すものとして採用されたら、ソースと具材のパターンの案を整理してみましょう。フロッカーさんやリックの意見も聞いてみたいし」
ちょうど窯の中から良い匂いがしてきた。
匂いだけなら今のところ、合格点は間違いない。
212
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。
子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。
マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。
その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。
当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。
そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。
マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。
焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。
やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。
HOTランキング1位になることができました!
皆さま、ありがとうございます。
他社の投稿サイトにも掲載しています。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる