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第二章 少女の友達
10.屋台
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「レイ……釘くらいまっすぐ打てないのか?」
呆れ顔のエルダさんは俺の手から金槌を取り上げ、盛大な溜め息を吐いた。
「すいません……ほんと、俺って不器用で……」
「力も無い上に釘も打てない、図面も引けないんじゃあ他の仕事はできそうにないな。拾ってくれたオーナーに感謝しろよ」
エルダさんは板の上に斜めに刺さった釘を力いっぱい引き抜いて言う。
「ハイ、ほんとに……」
祭りはいよいよ翌日に迫り、今日だけは店を閉めて、俺たちは朝から祭りの用意に精を出していた。
前の通りでは多くの人々が同じように祭りの支度に励んでおり、俺たちフロッキースの面々が店の前で木材を広げているのを物珍しげに見ている人もいる。
「エルダさん、こっちはもう完成しました。看板の方も僕がやりましょうか?」
「頼みます、坊ちゃん。レイ、少しは坊ちゃんを見習えよ」
「う……」
俺とリックとエルダさんとで取り組んでいるのは、店の前に立てる屋台作りだ。
工房から運んだ作業台に角材で看板を取り付けて、子どもたちの目の前でピザを作れるようにする。
屋台の前には子どもたちが焼きたてのピザを食べるためのスペースとして、普段は店内で使っているカウンターや陳列棚、丸太や板で作った簡易的なテーブルと椅子を置く。こちらはリックが一人で担当し、あっという間に終わらせてしまった。
「坊ちゃんだって痩せてるのにあの作業台を一人で抱えられるんだぞ。おまえも少しは根性を見せてみろ」
「俺は文化系なんですよ……体を動かすのは苦手なんです」
「レイさん、看板は僕が組み立てますから少し休んでください」
大して動いていない俺だがリックの言葉に甘え、作りたての丸太の椅子に腰を下ろした。
「しかしリックが大工仕事まで得意だとは……それも剣の修行の成果か?」
「腕力がないと剣は振れませんからね。それに、パンを捏ねるのも結構良いトレーニングになりますよ。レイさんもそのうち腕が太くなってくるはず」
「そうだといいけど……」
俺は捲ったシャツからひょろりと伸びた自分の腕を眺めた。
エルダさんの丸太のような腕とまではいかずとも、せめてもう少し力強さが欲しいところである。
「明日はのんびり座っていられないからな? 俺は工房でピザを焼き続けなきゃならないからここで具材を乗せるのはおまえ一人でやるんだぞ」
「え? リックは?」
「もちろん僕も手伝いますが、実際そんな暇はないかと……粉の用意はできているし朝のうちにある程度の生地は用意しておくとしても、途中でなくなれば作り足す必要がありますよね。焼き上がったピザを運ぶ必要もあるし、生地の捏ねなら僕の方が慣れていますから」
「……確かに。もしかして明日って、めちゃくちゃ忙しい?」
「だからそう言ってるだろうが」
俺は改めて明日の作業を考えてみた。
ピザ生地は朝からある程度の枚数を、あとはソースと具を乗せて焼くだけ、というところまで用意しておく。
俺は店前の屋台に立ち、子どもたちの注文を聞いてピザ生地にソースと具材を乗せる。
ピザを工房に運び、エルダさんに焼いてもらって、それをまた屋台まで運び、子どもたちから代金を貰って、渡す。
その間に生地が少なくなれば新たに捏ね上げ、具材やソースも必要に応じて作り足さねばならない。
「あれ……待ってこれ、三人で足ります? エルダさんが工房にいて、俺が屋台に立って、生地がなくなったらリックが捏ねて……ソースや具材が足りなくなったら? 子どもたちが食べた後の片付けは?」
俺は次々と浮かんでくる不安を指を折って数え始めた。
口には出さなかったものの、未だにバンビニに対して後ろ向きなミーティの世話という意味で、ひょっとするとリックの手を借りられない場合も大いに考えられる。
俺の提案は無謀だっただろうか。
今からでもある具材でパターンを決めたピザを焼いて、それをただ売る方が良いのではないだろうか。
背中を冷や汗が伝った時、俺の肩に温かい手が置かれた。
「安心しろ。窯でも生地でもソースでも、手が足りなければわしが入ろう」
「……フロッカーさん!」
「あの石窯を育てたのはわしだからな。心配するな、せっかくの祭りを失敗させるわけにはいかん」
フロッカーさんは目を細めて笑い、ちらりと店のドアの方を見た。
ドアの影にはウサギの人形を抱えたミーティが心細げに立ち尽くしていた。
呆れ顔のエルダさんは俺の手から金槌を取り上げ、盛大な溜め息を吐いた。
「すいません……ほんと、俺って不器用で……」
「力も無い上に釘も打てない、図面も引けないんじゃあ他の仕事はできそうにないな。拾ってくれたオーナーに感謝しろよ」
エルダさんは板の上に斜めに刺さった釘を力いっぱい引き抜いて言う。
「ハイ、ほんとに……」
祭りはいよいよ翌日に迫り、今日だけは店を閉めて、俺たちは朝から祭りの用意に精を出していた。
前の通りでは多くの人々が同じように祭りの支度に励んでおり、俺たちフロッキースの面々が店の前で木材を広げているのを物珍しげに見ている人もいる。
「エルダさん、こっちはもう完成しました。看板の方も僕がやりましょうか?」
「頼みます、坊ちゃん。レイ、少しは坊ちゃんを見習えよ」
「う……」
俺とリックとエルダさんとで取り組んでいるのは、店の前に立てる屋台作りだ。
工房から運んだ作業台に角材で看板を取り付けて、子どもたちの目の前でピザを作れるようにする。
屋台の前には子どもたちが焼きたてのピザを食べるためのスペースとして、普段は店内で使っているカウンターや陳列棚、丸太や板で作った簡易的なテーブルと椅子を置く。こちらはリックが一人で担当し、あっという間に終わらせてしまった。
「坊ちゃんだって痩せてるのにあの作業台を一人で抱えられるんだぞ。おまえも少しは根性を見せてみろ」
「俺は文化系なんですよ……体を動かすのは苦手なんです」
「レイさん、看板は僕が組み立てますから少し休んでください」
大して動いていない俺だがリックの言葉に甘え、作りたての丸太の椅子に腰を下ろした。
「しかしリックが大工仕事まで得意だとは……それも剣の修行の成果か?」
「腕力がないと剣は振れませんからね。それに、パンを捏ねるのも結構良いトレーニングになりますよ。レイさんもそのうち腕が太くなってくるはず」
「そうだといいけど……」
俺は捲ったシャツからひょろりと伸びた自分の腕を眺めた。
エルダさんの丸太のような腕とまではいかずとも、せめてもう少し力強さが欲しいところである。
「明日はのんびり座っていられないからな? 俺は工房でピザを焼き続けなきゃならないからここで具材を乗せるのはおまえ一人でやるんだぞ」
「え? リックは?」
「もちろん僕も手伝いますが、実際そんな暇はないかと……粉の用意はできているし朝のうちにある程度の生地は用意しておくとしても、途中でなくなれば作り足す必要がありますよね。焼き上がったピザを運ぶ必要もあるし、生地の捏ねなら僕の方が慣れていますから」
「……確かに。もしかして明日って、めちゃくちゃ忙しい?」
「だからそう言ってるだろうが」
俺は改めて明日の作業を考えてみた。
ピザ生地は朝からある程度の枚数を、あとはソースと具を乗せて焼くだけ、というところまで用意しておく。
俺は店前の屋台に立ち、子どもたちの注文を聞いてピザ生地にソースと具材を乗せる。
ピザを工房に運び、エルダさんに焼いてもらって、それをまた屋台まで運び、子どもたちから代金を貰って、渡す。
その間に生地が少なくなれば新たに捏ね上げ、具材やソースも必要に応じて作り足さねばならない。
「あれ……待ってこれ、三人で足ります? エルダさんが工房にいて、俺が屋台に立って、生地がなくなったらリックが捏ねて……ソースや具材が足りなくなったら? 子どもたちが食べた後の片付けは?」
俺は次々と浮かんでくる不安を指を折って数え始めた。
口には出さなかったものの、未だにバンビニに対して後ろ向きなミーティの世話という意味で、ひょっとするとリックの手を借りられない場合も大いに考えられる。
俺の提案は無謀だっただろうか。
今からでもある具材でパターンを決めたピザを焼いて、それをただ売る方が良いのではないだろうか。
背中を冷や汗が伝った時、俺の肩に温かい手が置かれた。
「安心しろ。窯でも生地でもソースでも、手が足りなければわしが入ろう」
「……フロッカーさん!」
「あの石窯を育てたのはわしだからな。心配するな、せっかくの祭りを失敗させるわけにはいかん」
フロッカーさんは目を細めて笑い、ちらりと店のドアの方を見た。
ドアの影にはウサギの人形を抱えたミーティが心細げに立ち尽くしていた。
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