惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア

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第四章 偏食の騎士と魔女への道

21.恋のライバル

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 魔女と叫んだミーティは、見たことのない顔をしてカウンター前の美人を指さしていた。

「あら、誰かと思えばミーティじゃない。ついにリッキーを諦めたの? そちら新しい恋人かしら? なかなかお似合いじゃない、応援してあげるわよ」
「諦めるってどーいう意味よ! リッキーは今日は忙しいの、この人は全然恋人なんかじゃないんだから! そもそもあんたに応援される筋合いないわよ!」

 俺は突如繰り広げられた舌戦に驚きすぎて目を丸くするしかできなかった。
 ミーティはこれまで一度も聞いたことのないような金切り声を上げて、すぐにでも目の前の美人の首元に食らいつきそうなほど荒ぶっている。

「ちょ、ちょっとミーティ! 落ち着いてよ!」
「黙っててよレイ! この魔女はろくでもない女なのよ!」
「リッキーなら私と結婚するから早く諦めた方が良いわよ。クッキー屋さんでデートなんて可愛いじゃない、釣り合う相手は大事にした方が良いのに」

 美人の方もまた、ミーティの暴言に一切怯むことなく平気で煽るものだから俺はだんだんと顔が引き攣ってしまう。
 すごく美人なのに、子ども相手に容赦ない。
 会話の内容から察するにミーティとは恋のライバルといったところだろうか。
 何にせよ、俺はこの小さな店の中で大声を出し続ける二人を止めなければいけない。

「っ、あなたも落ち着いてください! お店のご迷惑になりますから……!」
「あら、そうね。じゃあミーティ、帰ったら新しい恋人を紹介してちょうだいね。おうちで待ってるわよ」

 俺が割って入ると美人は一つ首を傾げ、くるりと踵を返した。
 そのままカゴを抱えて出て行ってしまった赤い髪のなびく後ろ姿にミーティが叫ぶ。

「来ないでよ! うちの店は魔女出入り禁止よ!」
「ミーティ……!」

 俺はミーティの肩を掴んで押さえたが、振り向いてカウンターの奥の店主らしきおじいさんが眉を顰めていたのを見てしまって心が折れた。
 気絶しかけたまま腰を半分に曲げて平謝りして、居た堪れないままそこにあるクッキーを全種類買って、ミーティの手を引っ張って早々に店を後にする。

「んもう! そんなに引っ張ったら痛いわよ!」

 店を出てミーティに手を振り払われて、俺はその場にしゃがみ込んだ。

「……俺だって好きでこんなことしたわけじゃないよ。ミーティがあの人とけんかするから。お店のご主人が困ってたじゃないか……」
「けんかじゃないわ、あたし悪くないもの。あの魔女がいけないのよ?」
「なんなんだよ、魔女って……あの人は誰なの?」

 俺は初めて目にしたミーティの子どもらしい勝手な振る舞いに疲弊し、買ったばかりのクッキーを齧りながら立ち上がって、ゆっくりと歩き始めた。

「粉屋の魔女のローザよ。悪い魔女なの、レイも仲良くしちゃダメだからね?」
「粉屋……ってことは、店で買ってる粉の? 取引先じゃないか」
「それを盾にして悪巧みばっかりしてるのよ! いい? とにかく仲良くしないで。レイはあたしの味方でしょ?」

 ミーティはさっき振り払った俺の手をぎゅっと掴み、真剣な目でそう言った。

 二人の手のひらの間からこぼれ落ちそうになったクッキーをミーティのもう片方の手が掴み、そのままぱくりと口に入れてしまう。
 俺はもちろんミーティの味方をしたい気持ちはあるが、もしあの美人が本当にフロッキースが小麦粉を買っている粉屋だとしたら、聞きたいことは山ほどある。

「うーん……ミーティの味方はしたいけど」
「けど、なによ? レイはあたしが悲しんでもいいの?」
「いやいや……ちなみに、あの人の何がそんなに悪い人なの? なんか、リックと結婚するって言ってたけど……そのせい?」
「……結婚なんてさせないわ。リッキーはいつだってあたしのことが一番好きって言ってくれたもの」

 俺の予想は的中していたようで、ミーティはそれきり口を引き結んで黙ってしまった。

 俺は少し歩くペースを落とし、袋から一つ取り出したクッキーをミーティの口元に差し出す。
 ミーティは歩きながらそれをぱくりと咥え、下を向いたまま咀嚼する。

「結構美味しいんだね、このクッキー」
「……歩きながら食べてお行儀が悪かったこと、誰にも内緒よ」
「言わない。女の子はちょっと秘密があるくらいの方がモテると思うからね」

 俺なりに気を利かせたそのセリフは、顔を上げたミーティに笑われてしまった。
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