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第四章 偏食の騎士と魔女への道
20.赤い髪
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「ふむ……柔らかいパンだな」
俺の作った柔らかいパンを食べたフロッカーさんは頷き、それだけ言った。
「このパン生地の上にクッキーの生地を乗せて焼くパンを作ります。砂糖とバターたっぷりの、甘くて美味しいパンです」
俺がメロンパンの説明をすると、フロッカーさんはエルダさんとリックに話したときと同じような反応をした。
——すなわち、苦笑である。
「……メロンパン。フルーツのメロンだよな? メロンを使うのか?」
「えーと……使いません。メロンみたいな模様を付けたくて……」
「メロンの模様? どんな?」
「……こう、網目のような」
フロッカーさんは俺の話を聞きながら何度も首を傾げて、なんだか諦めたような調子で「まあ好きにやってみなさい」と言った。
この世界のメロンに網目があるのかないのかよく知らないまま言ってしまった俺が悪いのかもしれないが、それでもあれはメロンパンだ。
クッキーパンとかパンクッキーとか呼んでしまったら、なんとなく俺が昔からメロンパンに抱いているワクワクするような気持ちや贅沢な甘さが薄れるような気さえしてしまう。
というわけで、俺は誰も納得していないまま、新しいパンをメロンパンと呼んで作り始めたのだが。
「クッキーの生地をどうやって作るんです?」
「小麦粉と卵と砂糖とバターで作れると思うんだけど。まいったな、リックは知ってるんじゃないかと思ってたよ」
「僕はお菓子作りは全然。でも、材料がわかってるならすぐ作れるんじゃないですか?」
「できるかな……なんとなく覚えてはいるんだけど……」
俺の記憶にあるのはなんとなくのクッキーの作り方だ。
それも実のところメロンパンに乗せて焼くためのレシピだったので本当に上手くいくのか自信はない。
「クッキーなら大通りの店で売ってますから、買ってきてみてもいいかもしれませんね。僕はこれから訓練所に行かなきゃいけないので、ミーティに案内してもらうと良いですよ」
とりあえずこの世界のクッキーを食べてみるのも悪くないだろうと、俺はリックのその提案に乗ってみることにした。
「またレイと二人なの?」
クッキー屋に誘った俺に、ミーティは言ってしまってからぱっと口元を手で覆った。
「ああ、いいよいいよ、そりゃミーティはリックと一緒に行きたいよね……」
「違うの、別にレイが嫌なわけじゃないのよ! ただ、リッキーもいたら楽しいと思っただけで……!」
七歳の少女に気を遣われる俺は深い溜め息を吐いた。
「好きなクッキー買ってあげるから頼むよ。俺一人じゃ町のことはまだよくわかんないし」
「もちろんよ、レイ一人じゃ迷ったら大変だもの。でも、クッキー屋さんなら大通りの方じゃなくて裏道の方のお店がおすすめよ」
ミーティは取り繕うように笑顔を見せると、すぐに出かける仕度を済ませて俺を先導して町に出た。
ミーティの言う裏道とは、大通りの裏にある細い道のことだった。
そこに住んでいる人たちしか通らない小さな通りで、いくつか並んでいる店はどれもこじんまりとしていた。
「ミーティ、こんな小さな通りのお店知ってるの?」
「お友達に教えてもらったのよ。大通りのお店より安いし大きくて美味しいの、この辺の子たちはみんなこっちのお店で買うわ」
「なるほど……」
案内されたのは裏道の中程にある、古びた木の看板の店だった。
扉も古く重そうなので、俺はミーティの前に立ってその扉を引くと、カランとベルの鳴る音と共に小鳥のさえずるような澄んだ声がした。
「あら、お客様かしら」
小さな店のカウンターの前で振り向いたのは、大きなカゴを持った女の人だった。
「……」
俺が黙り込んでしまったのは、その人の、腰まである赤みがかった艶のある長い髪があんまり美しくて見惚れてしまったせいだ。
健康的な肌にくっきりした目鼻立ちの美人は、そんな俺を見てくすりと笑った。
が、次の瞬間、俺は信じられないミーティの声を聞くことになる。
「げぇ! 魔女! なんであんたがこんなところにいるのよ!」
俺は先程とは違った意味で絶句し、今の濁音の付いた叫び声は本当にミーティが出した声なのだろうかと俺の少し後ろにいるはずの彼女を振り向いたのだった。
俺の作った柔らかいパンを食べたフロッカーさんは頷き、それだけ言った。
「このパン生地の上にクッキーの生地を乗せて焼くパンを作ります。砂糖とバターたっぷりの、甘くて美味しいパンです」
俺がメロンパンの説明をすると、フロッカーさんはエルダさんとリックに話したときと同じような反応をした。
——すなわち、苦笑である。
「……メロンパン。フルーツのメロンだよな? メロンを使うのか?」
「えーと……使いません。メロンみたいな模様を付けたくて……」
「メロンの模様? どんな?」
「……こう、網目のような」
フロッカーさんは俺の話を聞きながら何度も首を傾げて、なんだか諦めたような調子で「まあ好きにやってみなさい」と言った。
この世界のメロンに網目があるのかないのかよく知らないまま言ってしまった俺が悪いのかもしれないが、それでもあれはメロンパンだ。
クッキーパンとかパンクッキーとか呼んでしまったら、なんとなく俺が昔からメロンパンに抱いているワクワクするような気持ちや贅沢な甘さが薄れるような気さえしてしまう。
というわけで、俺は誰も納得していないまま、新しいパンをメロンパンと呼んで作り始めたのだが。
「クッキーの生地をどうやって作るんです?」
「小麦粉と卵と砂糖とバターで作れると思うんだけど。まいったな、リックは知ってるんじゃないかと思ってたよ」
「僕はお菓子作りは全然。でも、材料がわかってるならすぐ作れるんじゃないですか?」
「できるかな……なんとなく覚えてはいるんだけど……」
俺の記憶にあるのはなんとなくのクッキーの作り方だ。
それも実のところメロンパンに乗せて焼くためのレシピだったので本当に上手くいくのか自信はない。
「クッキーなら大通りの店で売ってますから、買ってきてみてもいいかもしれませんね。僕はこれから訓練所に行かなきゃいけないので、ミーティに案内してもらうと良いですよ」
とりあえずこの世界のクッキーを食べてみるのも悪くないだろうと、俺はリックのその提案に乗ってみることにした。
「またレイと二人なの?」
クッキー屋に誘った俺に、ミーティは言ってしまってからぱっと口元を手で覆った。
「ああ、いいよいいよ、そりゃミーティはリックと一緒に行きたいよね……」
「違うの、別にレイが嫌なわけじゃないのよ! ただ、リッキーもいたら楽しいと思っただけで……!」
七歳の少女に気を遣われる俺は深い溜め息を吐いた。
「好きなクッキー買ってあげるから頼むよ。俺一人じゃ町のことはまだよくわかんないし」
「もちろんよ、レイ一人じゃ迷ったら大変だもの。でも、クッキー屋さんなら大通りの方じゃなくて裏道の方のお店がおすすめよ」
ミーティは取り繕うように笑顔を見せると、すぐに出かける仕度を済ませて俺を先導して町に出た。
ミーティの言う裏道とは、大通りの裏にある細い道のことだった。
そこに住んでいる人たちしか通らない小さな通りで、いくつか並んでいる店はどれもこじんまりとしていた。
「ミーティ、こんな小さな通りのお店知ってるの?」
「お友達に教えてもらったのよ。大通りのお店より安いし大きくて美味しいの、この辺の子たちはみんなこっちのお店で買うわ」
「なるほど……」
案内されたのは裏道の中程にある、古びた木の看板の店だった。
扉も古く重そうなので、俺はミーティの前に立ってその扉を引くと、カランとベルの鳴る音と共に小鳥のさえずるような澄んだ声がした。
「あら、お客様かしら」
小さな店のカウンターの前で振り向いたのは、大きなカゴを持った女の人だった。
「……」
俺が黙り込んでしまったのは、その人の、腰まである赤みがかった艶のある長い髪があんまり美しくて見惚れてしまったせいだ。
健康的な肌にくっきりした目鼻立ちの美人は、そんな俺を見てくすりと笑った。
が、次の瞬間、俺は信じられないミーティの声を聞くことになる。
「げぇ! 魔女! なんであんたがこんなところにいるのよ!」
俺は先程とは違った意味で絶句し、今の濁音の付いた叫び声は本当にミーティが出した声なのだろうかと俺の少し後ろにいるはずの彼女を振り向いたのだった。
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