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第四章 偏食の騎士と魔女への道
19.パンに合わせるもの
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「なんだこれ……!」
「え? そんなに柔らかいんですか? え?」
ふにっと潰れて戻ったパンを見て、エルダさんとリックが口々に言った。
驚くのも無理はない。
二人がこれまで作って、そして食べてきたパンの表面はカリッと焼けていたのだ。いつも作っている固いパンはもちろん固いし、ピザだってカルツォーネだって生地の部分はカリカリしていた。
「これがあの粉の力ですよ……! 成功だ! この柔らかいパンなら絶対に“あれ”が作れる!」
俺は拳を握り締めた。
「なあ、ちょっと食べてみていいか? どんな食感でどんな味なのか気になるんだ」
エルダさんはすでにパンの一つを手に取っている。
「僕も食べてみたいです。エルダさん、半分こしてください」
リックが言うと、エルダさんはコッペパンを真ん中からちぎった。
柔らかいパンはもちっとちぎれる。
「おお……なんか変な感じだな、柔らかい。焼きが足りないような感じがするが、これでいいんだよな?」
エルダさんはその断面をしげしげと見つめた。
俺もまた一つを手に取り、一口分をちぎってみた。
俺の手に馴染む懐かしいパンの感触だ。
指先に力を込めれば簡単に凹んでしまう優しいパン、夢にまで見るほど焦がれたパン。
焼きそばを入れたりコロッケを入れたり鶏の照り焼きを入れたり、揚げてからきなこをまぶしたり、あんことバターを挟んだり、無限の可能性に満ちたパンだ。
俺は指先で堪能し尽くしたパンを今度は口に含んだ。
「んんん……!」
思わず声が漏れる。
焼きたての香りはふわっと鼻に抜け、ほんのりとした甘さが舌先から広がる。このふわふわとしたパンにはスープは必要ない。
「……なんか、なんですかね、すごく柔らかいです」
しかし感動を噛み締める俺の隣でパンを齧ったリックは、首を傾げた。
「……あれ? 美味しくない?」
「いや、美味しくないというか……味は美味しいですよ、少し甘みもあって。でも、なんていうか、不思議です。こんなに柔らかくてどうやって食べるんですか?」
「どうやっても食べられるよ。スープはいらないだろ? このまま食べても良いし、ピザやカルツォーネみたいに、他に味のするものを挟んだりしてもいいんだ」
俺は必死に説明したが、柔らかいパンに食べ慣れていないリックにはまだその良さを伝えきることができなかった。
「……確かにこのパンならスープはいらないな。この薄らした甘みも、ケーキのスポンジに似ている。甘いクリームを乗せたりすれば美味いかもしれないな」
エルダさんの柔らかいパンへの印象は悪くないようだった。リックと半分に分けたパンはすでに食べ切ってしまっている。
「甘いクリームも合うと思います。ハロルド兵士団長が普段から食べるようならそういうパンもありです。もちろん店で売るにしても。でも、兵士団の遠征に持っていくためには柔らかい具や傷みやすい食べ物は避けなきゃならないから……」
俺は手元に残ったパンをもう一口齧る。
「……甘くて、傷みにくい、柔らかすぎないもの……? それをこのパンに加えるんですか? なんだろう、砂糖菓子とかですか?」
リックの予想は悪くない。
俺はあまりもったいつけても仕方ないので、作ろうとしているパンの全容を明かすことにする。
何しろここから先は、この世界でのその菓子の作り方を知っている誰かの手が必要だ。
作業台に両手を付いた俺の首元で、ミーティに貰ったネックレスが揺れた。
「このパン生地に、クッキーの生地を乗せて焼くんだ。メロンパンを作る」
メロンパン。
見た目がメロンに似ているだけでメロンの要素は他に何も入っていないのだが、俺はどうしてもそれを作りたかった。
卵やバターを加えたリッチな生地に、さらにクッキー生地を乗せる。
薄力粉で作るクッキーと強力粉のパンとで膨らみ方に差が出るので失敗すると上に乗せたクッキーの生地が割れてしまうという、ちょっと難しいパンだ。
だが、砂糖もバターもたっぷり使い、高カロリーなためにそれ一つで食事を完結させられることができる。
甘党で固い無味のパンが苦手なハロルド兵士団長にはぴったりだった。
「え? そんなに柔らかいんですか? え?」
ふにっと潰れて戻ったパンを見て、エルダさんとリックが口々に言った。
驚くのも無理はない。
二人がこれまで作って、そして食べてきたパンの表面はカリッと焼けていたのだ。いつも作っている固いパンはもちろん固いし、ピザだってカルツォーネだって生地の部分はカリカリしていた。
「これがあの粉の力ですよ……! 成功だ! この柔らかいパンなら絶対に“あれ”が作れる!」
俺は拳を握り締めた。
「なあ、ちょっと食べてみていいか? どんな食感でどんな味なのか気になるんだ」
エルダさんはすでにパンの一つを手に取っている。
「僕も食べてみたいです。エルダさん、半分こしてください」
リックが言うと、エルダさんはコッペパンを真ん中からちぎった。
柔らかいパンはもちっとちぎれる。
「おお……なんか変な感じだな、柔らかい。焼きが足りないような感じがするが、これでいいんだよな?」
エルダさんはその断面をしげしげと見つめた。
俺もまた一つを手に取り、一口分をちぎってみた。
俺の手に馴染む懐かしいパンの感触だ。
指先に力を込めれば簡単に凹んでしまう優しいパン、夢にまで見るほど焦がれたパン。
焼きそばを入れたりコロッケを入れたり鶏の照り焼きを入れたり、揚げてからきなこをまぶしたり、あんことバターを挟んだり、無限の可能性に満ちたパンだ。
俺は指先で堪能し尽くしたパンを今度は口に含んだ。
「んんん……!」
思わず声が漏れる。
焼きたての香りはふわっと鼻に抜け、ほんのりとした甘さが舌先から広がる。このふわふわとしたパンにはスープは必要ない。
「……なんか、なんですかね、すごく柔らかいです」
しかし感動を噛み締める俺の隣でパンを齧ったリックは、首を傾げた。
「……あれ? 美味しくない?」
「いや、美味しくないというか……味は美味しいですよ、少し甘みもあって。でも、なんていうか、不思議です。こんなに柔らかくてどうやって食べるんですか?」
「どうやっても食べられるよ。スープはいらないだろ? このまま食べても良いし、ピザやカルツォーネみたいに、他に味のするものを挟んだりしてもいいんだ」
俺は必死に説明したが、柔らかいパンに食べ慣れていないリックにはまだその良さを伝えきることができなかった。
「……確かにこのパンならスープはいらないな。この薄らした甘みも、ケーキのスポンジに似ている。甘いクリームを乗せたりすれば美味いかもしれないな」
エルダさんの柔らかいパンへの印象は悪くないようだった。リックと半分に分けたパンはすでに食べ切ってしまっている。
「甘いクリームも合うと思います。ハロルド兵士団長が普段から食べるようならそういうパンもありです。もちろん店で売るにしても。でも、兵士団の遠征に持っていくためには柔らかい具や傷みやすい食べ物は避けなきゃならないから……」
俺は手元に残ったパンをもう一口齧る。
「……甘くて、傷みにくい、柔らかすぎないもの……? それをこのパンに加えるんですか? なんだろう、砂糖菓子とかですか?」
リックの予想は悪くない。
俺はあまりもったいつけても仕方ないので、作ろうとしているパンの全容を明かすことにする。
何しろここから先は、この世界でのその菓子の作り方を知っている誰かの手が必要だ。
作業台に両手を付いた俺の首元で、ミーティに貰ったネックレスが揺れた。
「このパン生地に、クッキーの生地を乗せて焼くんだ。メロンパンを作る」
メロンパン。
見た目がメロンに似ているだけでメロンの要素は他に何も入っていないのだが、俺はどうしてもそれを作りたかった。
卵やバターを加えたリッチな生地に、さらにクッキー生地を乗せる。
薄力粉で作るクッキーと強力粉のパンとで膨らみ方に差が出るので失敗すると上に乗せたクッキーの生地が割れてしまうという、ちょっと難しいパンだ。
だが、砂糖もバターもたっぷり使い、高カロリーなためにそれ一つで食事を完結させられることができる。
甘党で固い無味のパンが苦手なハロルド兵士団長にはぴったりだった。
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