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第四章 偏食の騎士と魔女への道
53.味の先へ
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「はー……きみはなんて優秀なんだ。こうして本当に毎日毎日焼きたての新しいメロンパンを持ってきてくれるなんて感謝してもしきれない。このメロンパンがあると思うと訓練も頑張れるんだ、俺は今ほど自分が兵士団に入ってよかったと思うことはない」
「……ハロルド兵士団長。そういう不用意な発言はお控えください、市井の者に誤解されてしまいます」
いつも通りのハロルド兵士団長とショーン曹長のやりとりに慣れた俺は曖昧に微笑んだままテーブルの上にカゴを置いた。
「喜んでいただけて俺も嬉しいです。今日はどれから召し上がりますか? 味は昨日と同じ、紅茶とレモンと岩塩ですが、岩塩のものは前と同じですのでお口直しにしていただければ」
「ふむ……つまり紅茶とレモンは変えたんだな! ショーンが渡したあの紅茶を使ったのか?」
「はい、実は帰ってから同じようなアドバイスをオーナーからも貰いまして。それでショーン曹長に貰った紅茶を使ったクッキーと、周りに付けるザラメにも紅茶の香りを付けました」
ハロルド兵士団長が紅茶のメロンパンに興味を持っているようだったので、俺はさっそく一つを取り出してハロルド兵士団長に差し出した。
「なるほど、ザラメに紅茶の香りか……それは美味そうだ。ショーン、おまえは今日どれを食べた?」
「……本日の検分では普通の、プレーンのものを頂きました」
「じゃあこれ食べてないのか! 可哀想になぁ、食べてみたいか? ま、やらないけどな」
無駄にショーン曹長を煽ったハロルド兵士団長はニヤけたまま紅茶のメロンパンに齧り付いた。
ほろりとクッキー生地が崩れ、ふわっと紅茶の香りが漂う。
「味にはあまり紅茶の渋みが出ないようにしつつ、風味はクッキーとザラメの両方から感じられるようにしています。どうですか?」
「……美味い。昨日とは全然違う、なんというか、子どもが飲める紅茶のような……甘くて香りの良いところだけを抽出したような感じがする」
ハロルド兵士団長は噛み付いた断面をまじまじと見つめて呟き、それからふた口、三口と食べ進めた。
俺がほっと息を吐くのと同時にショーン曹長もまたそうして、リックは満足気に微笑んでいる。
「……よかった、気に入っていただけて。レモンも同じようにザラメを変えています、レモンシュガーを作ってそれを全体に付けました」
「レモンシュガー?」
「名前の通りなんですが、レモンの皮と砂糖を混ぜて乾燥させて……そういう砂糖を付けたので、これも昨日よりレモンのすっきりした感じが増して食べやすくなっていると思います」
「説明だけで美味そうだ。よし、二個目はそれを食べよう」
レモンシュガーの付いたメロンパンは黄色くキラキラと煌めいている。
「こちらです。ちょっと色に驚かれるかもしれませんが」
「おお! すごいな、まるで月のような黄色だ……これは良い、討伐はいつもなるべく月明かりのある日取りで行われるんだ。夜の闇は魔物の危険が多いから、月はいつでも俺たちの味方なんだ」
ハロルド兵士団長はその見た目をまず気に入ってくれたらしく、黄色く光るメロンパンを手に持って高く掲げた。
「……メロンパンという名前では勿体無いくらいですね。武天の月とか、そういう名前にしてほしいくらいです」
ショーン曹長のコメントには正直俺はピンと来なかったが、リックは無責任にも「いいですね、ハロルド兵士団長のためのパンって感じです」なんて喜んでいる。
いや、メロンパンはメロンパンという名前の愛嬌こそが魅力なのだが。
「ふふ、まあ名前は作った者が決めればいい。味はどうだろうか……」
ハロルド兵士団長はまず黄色いザラメに鼻を近付けてその匂いを確かめた後、ぱくりと食い付いた。
レモンの匂いは外に香るほどではないが、砂糖には酸味もしっかり移っているはずだ。
「……どうです?」
「あー……この砂糖が美味い。レモンシュガーだったか、これは天才的な発明だ。クッキーの生地にもレモンの風味があるのに、このレモンシュガーの付いた部分の美味さは格別だ。ちょっと食べてみろ、ショーン」
「良いのですか?」
「誰かと話せないとつまらん。早く、ほら」
ハロルド兵士団長は平気で食べかけをショーン曹長の口元に押し付け、早く早くと急かした。
俺もショーン曹長の感想が気になっていたところなので、それを見守る。
「……すっきりしていて食べやすいです。確かにこの砂糖のレモン風味は良いですね、レモネードのようにすっきりする」
「だろ? これは相当売れるだろうな。うん、遠征が終わったら店で売るようにしてくれ。商品名はメロンパンでもレモンパンでも武天の月でもなんでも良いぞ」
俺は照れ臭くなって下を向いて笑った。
手応えはばっちりだ。
ハロルド兵士団長が甘党で焼きたてのパンであればいくらでも食べてくれるおかげで、味の決定は思ったよりも早く済んだ。
そうして、味の次は。
「……あとは、保存性です。前にお伝えしたように、このパンは数日経てば固くなり味が落ちます。討伐遠征までに、その対策を一緒に考えてほしいんです」
俺はハロルド兵士団長とショーン曹長をまっくすぐ見据えて言った。
「……ハロルド兵士団長。そういう不用意な発言はお控えください、市井の者に誤解されてしまいます」
いつも通りのハロルド兵士団長とショーン曹長のやりとりに慣れた俺は曖昧に微笑んだままテーブルの上にカゴを置いた。
「喜んでいただけて俺も嬉しいです。今日はどれから召し上がりますか? 味は昨日と同じ、紅茶とレモンと岩塩ですが、岩塩のものは前と同じですのでお口直しにしていただければ」
「ふむ……つまり紅茶とレモンは変えたんだな! ショーンが渡したあの紅茶を使ったのか?」
「はい、実は帰ってから同じようなアドバイスをオーナーからも貰いまして。それでショーン曹長に貰った紅茶を使ったクッキーと、周りに付けるザラメにも紅茶の香りを付けました」
ハロルド兵士団長が紅茶のメロンパンに興味を持っているようだったので、俺はさっそく一つを取り出してハロルド兵士団長に差し出した。
「なるほど、ザラメに紅茶の香りか……それは美味そうだ。ショーン、おまえは今日どれを食べた?」
「……本日の検分では普通の、プレーンのものを頂きました」
「じゃあこれ食べてないのか! 可哀想になぁ、食べてみたいか? ま、やらないけどな」
無駄にショーン曹長を煽ったハロルド兵士団長はニヤけたまま紅茶のメロンパンに齧り付いた。
ほろりとクッキー生地が崩れ、ふわっと紅茶の香りが漂う。
「味にはあまり紅茶の渋みが出ないようにしつつ、風味はクッキーとザラメの両方から感じられるようにしています。どうですか?」
「……美味い。昨日とは全然違う、なんというか、子どもが飲める紅茶のような……甘くて香りの良いところだけを抽出したような感じがする」
ハロルド兵士団長は噛み付いた断面をまじまじと見つめて呟き、それからふた口、三口と食べ進めた。
俺がほっと息を吐くのと同時にショーン曹長もまたそうして、リックは満足気に微笑んでいる。
「……よかった、気に入っていただけて。レモンも同じようにザラメを変えています、レモンシュガーを作ってそれを全体に付けました」
「レモンシュガー?」
「名前の通りなんですが、レモンの皮と砂糖を混ぜて乾燥させて……そういう砂糖を付けたので、これも昨日よりレモンのすっきりした感じが増して食べやすくなっていると思います」
「説明だけで美味そうだ。よし、二個目はそれを食べよう」
レモンシュガーの付いたメロンパンは黄色くキラキラと煌めいている。
「こちらです。ちょっと色に驚かれるかもしれませんが」
「おお! すごいな、まるで月のような黄色だ……これは良い、討伐はいつもなるべく月明かりのある日取りで行われるんだ。夜の闇は魔物の危険が多いから、月はいつでも俺たちの味方なんだ」
ハロルド兵士団長はその見た目をまず気に入ってくれたらしく、黄色く光るメロンパンを手に持って高く掲げた。
「……メロンパンという名前では勿体無いくらいですね。武天の月とか、そういう名前にしてほしいくらいです」
ショーン曹長のコメントには正直俺はピンと来なかったが、リックは無責任にも「いいですね、ハロルド兵士団長のためのパンって感じです」なんて喜んでいる。
いや、メロンパンはメロンパンという名前の愛嬌こそが魅力なのだが。
「ふふ、まあ名前は作った者が決めればいい。味はどうだろうか……」
ハロルド兵士団長はまず黄色いザラメに鼻を近付けてその匂いを確かめた後、ぱくりと食い付いた。
レモンの匂いは外に香るほどではないが、砂糖には酸味もしっかり移っているはずだ。
「……どうです?」
「あー……この砂糖が美味い。レモンシュガーだったか、これは天才的な発明だ。クッキーの生地にもレモンの風味があるのに、このレモンシュガーの付いた部分の美味さは格別だ。ちょっと食べてみろ、ショーン」
「良いのですか?」
「誰かと話せないとつまらん。早く、ほら」
ハロルド兵士団長は平気で食べかけをショーン曹長の口元に押し付け、早く早くと急かした。
俺もショーン曹長の感想が気になっていたところなので、それを見守る。
「……すっきりしていて食べやすいです。確かにこの砂糖のレモン風味は良いですね、レモネードのようにすっきりする」
「だろ? これは相当売れるだろうな。うん、遠征が終わったら店で売るようにしてくれ。商品名はメロンパンでもレモンパンでも武天の月でもなんでも良いぞ」
俺は照れ臭くなって下を向いて笑った。
手応えはばっちりだ。
ハロルド兵士団長が甘党で焼きたてのパンであればいくらでも食べてくれるおかげで、味の決定は思ったよりも早く済んだ。
そうして、味の次は。
「……あとは、保存性です。前にお伝えしたように、このパンは数日経てば固くなり味が落ちます。討伐遠征までに、その対策を一緒に考えてほしいんです」
俺はハロルド兵士団長とショーン曹長をまっくすぐ見据えて言った。
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