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第四章 偏食の騎士と魔女への道
54.覚悟の箱
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「パンの保存性については我々の方でも少し考えさせてもらった。以前きみたちに聞いたように、金属製の箱ということで用意してある。だが……やはりパン自体が固くなるのは防げないようだ。実はハロルド兵士団長に残してもらった一つを急遽拵えた鉄の箱に入れておいたんだが、一日経って食べるには固くなってしまっていた」
ショーン曹長は俺が前に話したことを受けて、メロンパンが固くなることをその目で確かめて見てくれていたらしい。
「そうですよね。店の方でも焼いて数日置いてみていますが、やっぱり固くなります。食べられないわけではないんですが、ハロルド兵士団長が今まで食べたのは焼いてその日のものばかりなので、味は落ちたと思ってしまうと思います」
「温めればいいんじゃないのか?」
俺とショーン曹長の話に割って入ったのはハロルド兵士団長本人である。
味が落ちると聞けば真剣にならざるを得ないのだろう。
「リベイク、ですが……温めるにしても、窯でただ焼き直すだけだと上のクッキー部分は焼き過ぎのような状態になるのでむしろ固くなってしまいます。まあ、クッキーなので多少固くてもそこまでおかしなことではないんですが……下のパン生地に柔らかさが戻ってもその差で少し味が落ちたと感じるかもしれません」
「なるほど……」
俺とショーン曹長は互いに一つ溜め息を吐いた。
「……まあ、多少固くても俺は構わないぞ。討伐に行って焼きたての柔らかくて甘いパンが食べたいというのもそもそも俺の我儘なんだ、完璧は求められない」
ハロルド兵士団長は俺たちを気遣うように言い、カゴの中のレモンのメロンパンをもう一つ手に取った。
「……レイさん、城で使ってる箱をお借りしていきましょう。実際に持ち運ぶ箱でリベイクの方法を試してみて、討伐中にもできる最善の方法を探すべきです」
ずっと黙って聞いていたリックが口を開き、拳を強く握りながら言った。
「……」
俺は少し躊躇があった。
もちろんリックの提案はもっともなことで、俺としてもそれ以外の選択肢はないと薄々は気付いている。
だが、実際に遠征に持って行くようなものを城の外に持ち出し、実験に使うことには気が引けてしまう。
実験そのものがどうなるかというより、大切なその箱に何かあっては迷惑をかけてしまう。
「……パンを運ぶための箱は大きなものと小さなものを二つ作っている。大きなものは持ち出して色々と試すには都合が悪かろう、小さな一つを持って帰って試してみてくれないか」
「ショーン、良いのか? 兵士団の備品の管理には人一倍うるさいおまえが……あの箱は作るのにもずいぶん手間取って、複数作ることも難しかったんだろう?」
ハロルド兵士団長はいつのまにか二つ目のメロンパンを食べ終え、目を細めて言った。
「もし、この者たちが我々を陥れるつもりならもっと早くに私をどうにかしているでしょう。私はあなたのためのパンの検分を担当しているのですから」
ショーン曹長は立ち上がり、ハロルド兵士団長の傍で左の胸に手を当てながら跪いた。
「……そうだな。この者たちの働きに懸けるには、そろそろおまえ一人の命では足りないだろう。俺の命も懸けてやる、箱をここへ」
ハロルド兵士団長が笑い、ショーン曹長は強く頷くと部屋を出て行った。
二人の顔には同じ“覚悟”が滲んでいた。
「……ありがとうございます。必ず美味しく食べられるようにします」
俺が頭を下げるのに合わせて、リックも同じように頭を下げてくれた。
一人でないことが心強かった。
ショーン曹長は俺が前に話したことを受けて、メロンパンが固くなることをその目で確かめて見てくれていたらしい。
「そうですよね。店の方でも焼いて数日置いてみていますが、やっぱり固くなります。食べられないわけではないんですが、ハロルド兵士団長が今まで食べたのは焼いてその日のものばかりなので、味は落ちたと思ってしまうと思います」
「温めればいいんじゃないのか?」
俺とショーン曹長の話に割って入ったのはハロルド兵士団長本人である。
味が落ちると聞けば真剣にならざるを得ないのだろう。
「リベイク、ですが……温めるにしても、窯でただ焼き直すだけだと上のクッキー部分は焼き過ぎのような状態になるのでむしろ固くなってしまいます。まあ、クッキーなので多少固くてもそこまでおかしなことではないんですが……下のパン生地に柔らかさが戻ってもその差で少し味が落ちたと感じるかもしれません」
「なるほど……」
俺とショーン曹長は互いに一つ溜め息を吐いた。
「……まあ、多少固くても俺は構わないぞ。討伐に行って焼きたての柔らかくて甘いパンが食べたいというのもそもそも俺の我儘なんだ、完璧は求められない」
ハロルド兵士団長は俺たちを気遣うように言い、カゴの中のレモンのメロンパンをもう一つ手に取った。
「……レイさん、城で使ってる箱をお借りしていきましょう。実際に持ち運ぶ箱でリベイクの方法を試してみて、討伐中にもできる最善の方法を探すべきです」
ずっと黙って聞いていたリックが口を開き、拳を強く握りながら言った。
「……」
俺は少し躊躇があった。
もちろんリックの提案はもっともなことで、俺としてもそれ以外の選択肢はないと薄々は気付いている。
だが、実際に遠征に持って行くようなものを城の外に持ち出し、実験に使うことには気が引けてしまう。
実験そのものがどうなるかというより、大切なその箱に何かあっては迷惑をかけてしまう。
「……パンを運ぶための箱は大きなものと小さなものを二つ作っている。大きなものは持ち出して色々と試すには都合が悪かろう、小さな一つを持って帰って試してみてくれないか」
「ショーン、良いのか? 兵士団の備品の管理には人一倍うるさいおまえが……あの箱は作るのにもずいぶん手間取って、複数作ることも難しかったんだろう?」
ハロルド兵士団長はいつのまにか二つ目のメロンパンを食べ終え、目を細めて言った。
「もし、この者たちが我々を陥れるつもりならもっと早くに私をどうにかしているでしょう。私はあなたのためのパンの検分を担当しているのですから」
ショーン曹長は立ち上がり、ハロルド兵士団長の傍で左の胸に手を当てながら跪いた。
「……そうだな。この者たちの働きに懸けるには、そろそろおまえ一人の命では足りないだろう。俺の命も懸けてやる、箱をここへ」
ハロルド兵士団長が笑い、ショーン曹長は強く頷くと部屋を出て行った。
二人の顔には同じ“覚悟”が滲んでいた。
「……ありがとうございます。必ず美味しく食べられるようにします」
俺が頭を下げるのに合わせて、リックも同じように頭を下げてくれた。
一人でないことが心強かった。
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