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第四章 偏食の騎士と魔女への道
68.素手
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ショーン曹長に連れられて、俺は城の中庭に来ていた。
もちろん例の鉄の箱と固いメロンパンを持って、である。
「あの、ここで火を付けて大丈夫なんですか?」
「かまわん。もし城に燃え移るようなことがあればおまえの首を獲るだけだ」
「えええ……」
ショーン曹長は顔に思い切り不機嫌の色を浮かべ、ぶっきらぼうに言った。
「早くやるぞ。私は訓練に戻らなければならん、あの青二才をボコボコにしてやる」
俺はもうショーン曹長がリックを青二才と呼ぶのを否定できず、聞こえないふりをした。
「えーと……お水はどちらに……」
「井戸ならそこにある。それで、火くらい一人でつけられるんだろうな?」
「……つけっ、つ、つけられません」
俺はリックを恨んだ。
リックの思惑にはまり、俺はこの不機嫌な曹長と共にここでしばらくパンを温め続けなければならない。
ショーン曹長は足をどすどす鳴らしながら「火種を持ってくるから待ってろ」と言ってどこかへ行ってしまった。
俺は井戸に近付き、水を汲み上げる。
クドゥスさんに貰った皿はさすがに城に持ち込むのには気が引けたので、フロッキースの工房にある陶器の皿を持ってきていた俺は、その皿に井戸の水を満たした。
中庭の真ん中で地面にしゃがんで待っていると、戻ってきたショーン曹長は木切れと瓶のようなものを持っていた。
「討伐の遠征中には焚き火をする際にこういうものを使う。実際にパンを温めるのはこの火の上になるから、同じようにやってみるぞ」
ショーン曹長は木切れを組み立て、その間に瓶の中の粉と油のような何かを振りかけた。
その上でカチカチと石を鳴らすとすぐに燃え上がり、クドゥスさんの家で俺とリックが扱っていた焚き火よりも大きな火がボウッと音を立てた。
「うわっ! 火が大きいですね……!」
「なんだ? 大きいと都合が悪いのか?」
「いえ、早く温まるので良いと思いますが……その分、見極めは難しくなるかもしれません」
水の器と固いメロンパンを鉄の箱に入れ、木切れの上に直接置く。
大きな火はボウボウ燃え上がり、ほとんど箱の上部まで覆わんばかりだ。
「なんだか箱の全体が火に包まれているが……メモにあった火の大きさは箱の下、三分の一だったよな?」
「そうですが、火を小さくするのは難しいですよね……どうしよう、あ、もう湯気が出てきた」
実際、温度が上がるのはかなり早いらしく箱の隙間からはすぐに湯気が漏れ始めている。
それとほとんど同時に砂糖の溶ける匂いもしてきていた。
「どうする、一度開けてみるか?」
「いや、さすがに早いので……もう少し……」
俺は嗅覚と、箱の中から蒸気が漏れる音を聴くための聴覚、そして湯気の上がり方を見極めるための視覚に集中した。
しばらくして蒸気が弱まったのを見計らい、俺はリックから借りていた革の手袋を付けて箱を火から下ろした。
「今の瞬間か?」
「はい、とりあえずは……」
「そうか。どれ、熱さをみよう」
その瞬間、俺は目を疑った。
熱さをみると言ったショーン曹長がたっぷり火にかけられたばかりの鉄の箱に素手で触ったのである。
「っ、何してるんですか! 火傷しちゃいますよ!」
「そんなヤワな鍛え方はしていない。魔物には火を噴いたり体を燃やしたりするものもいる。火、水、毒は兵士が何より優先して克服すべき敵だからな」
ショーン曹長は涼しい顔で言い、俺に手のひらを見せてくれた。
そこにはもちろん火傷の痕などはない。
「……そういうものなんですか」
「そういうものだ。今ので大体の箱の温度はわかった、それで肝心の中身はどうなんだ?」
ショーン曹長に促され、俺は忘れていたメロンパンを箱から出してみた。
革の手袋越しの感触では、それなりに柔らかくなっているような気がする。
もちろん例の鉄の箱と固いメロンパンを持って、である。
「あの、ここで火を付けて大丈夫なんですか?」
「かまわん。もし城に燃え移るようなことがあればおまえの首を獲るだけだ」
「えええ……」
ショーン曹長は顔に思い切り不機嫌の色を浮かべ、ぶっきらぼうに言った。
「早くやるぞ。私は訓練に戻らなければならん、あの青二才をボコボコにしてやる」
俺はもうショーン曹長がリックを青二才と呼ぶのを否定できず、聞こえないふりをした。
「えーと……お水はどちらに……」
「井戸ならそこにある。それで、火くらい一人でつけられるんだろうな?」
「……つけっ、つ、つけられません」
俺はリックを恨んだ。
リックの思惑にはまり、俺はこの不機嫌な曹長と共にここでしばらくパンを温め続けなければならない。
ショーン曹長は足をどすどす鳴らしながら「火種を持ってくるから待ってろ」と言ってどこかへ行ってしまった。
俺は井戸に近付き、水を汲み上げる。
クドゥスさんに貰った皿はさすがに城に持ち込むのには気が引けたので、フロッキースの工房にある陶器の皿を持ってきていた俺は、その皿に井戸の水を満たした。
中庭の真ん中で地面にしゃがんで待っていると、戻ってきたショーン曹長は木切れと瓶のようなものを持っていた。
「討伐の遠征中には焚き火をする際にこういうものを使う。実際にパンを温めるのはこの火の上になるから、同じようにやってみるぞ」
ショーン曹長は木切れを組み立て、その間に瓶の中の粉と油のような何かを振りかけた。
その上でカチカチと石を鳴らすとすぐに燃え上がり、クドゥスさんの家で俺とリックが扱っていた焚き火よりも大きな火がボウッと音を立てた。
「うわっ! 火が大きいですね……!」
「なんだ? 大きいと都合が悪いのか?」
「いえ、早く温まるので良いと思いますが……その分、見極めは難しくなるかもしれません」
水の器と固いメロンパンを鉄の箱に入れ、木切れの上に直接置く。
大きな火はボウボウ燃え上がり、ほとんど箱の上部まで覆わんばかりだ。
「なんだか箱の全体が火に包まれているが……メモにあった火の大きさは箱の下、三分の一だったよな?」
「そうですが、火を小さくするのは難しいですよね……どうしよう、あ、もう湯気が出てきた」
実際、温度が上がるのはかなり早いらしく箱の隙間からはすぐに湯気が漏れ始めている。
それとほとんど同時に砂糖の溶ける匂いもしてきていた。
「どうする、一度開けてみるか?」
「いや、さすがに早いので……もう少し……」
俺は嗅覚と、箱の中から蒸気が漏れる音を聴くための聴覚、そして湯気の上がり方を見極めるための視覚に集中した。
しばらくして蒸気が弱まったのを見計らい、俺はリックから借りていた革の手袋を付けて箱を火から下ろした。
「今の瞬間か?」
「はい、とりあえずは……」
「そうか。どれ、熱さをみよう」
その瞬間、俺は目を疑った。
熱さをみると言ったショーン曹長がたっぷり火にかけられたばかりの鉄の箱に素手で触ったのである。
「っ、何してるんですか! 火傷しちゃいますよ!」
「そんなヤワな鍛え方はしていない。魔物には火を噴いたり体を燃やしたりするものもいる。火、水、毒は兵士が何より優先して克服すべき敵だからな」
ショーン曹長は涼しい顔で言い、俺に手のひらを見せてくれた。
そこにはもちろん火傷の痕などはない。
「……そういうものなんですか」
「そういうものだ。今ので大体の箱の温度はわかった、それで肝心の中身はどうなんだ?」
ショーン曹長に促され、俺は忘れていたメロンパンを箱から出してみた。
革の手袋越しの感触では、それなりに柔らかくなっているような気がする。
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