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第四章 偏食の騎士と魔女への道
69.実験結果の行方
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「あ、柔らかくなってますね! ちょっと食べてみてください、これ」
箱から取り出したメロンパンを革の手袋のまま二つに割ってみると、見極めは思うより正確だったらしく中まで温まってふっくらとしたパンに戻っているようだった。
「……食べるのはまずいだろう」
「え? いや、食べないと本当に柔らかいかわからないじゃないですか」
「そうなんだが……」
躊躇うショーン曹長に、俺は何が嫌なのだろうと考えて思い至る。
日が経って固くなったメロンパンなど、いくら温めてあっても食べたくないのか。あるいは俺が革の手袋で掴んでしまったメロンパンは清潔ではないということか。
優秀な兵士でお城で暮らす身分なら仕方ないかと、俺はメロンパンを自分で食べることにした。
「じゃあ俺が食べますね。本当に今のタイミングで固くなくなったのかは食べなきゃわからないので……」
と、メロンパンに噛みつこうとした瞬間。
「あーっ! こらこら! やめろ!」
「……え?」
「なんでおまえが食べるんだ! それはハルさんのために持ってきたパンだろうが!」
ショーン曹長が目を吊り上げて俺の腕を掴んだので、俺は危うくハロルド兵士団長のためのメロンパンを取り落としそうになった。
「おわっ! あ、ああそういう意味……」
「いくら温め直したとはいえハロルド兵士団長のためのメロンパンを無駄に消費するわけにはいかないだろう」
「それはそうなんですけど、とはいえこれをハロルド兵士団長に食べさせるのもどうなんでしょうか……固いかもしれませんし、そもそも焼いて何日か経ったものですよ。腐ったりはしてませんけど」
俺はショーン曹長にそう言い、しかし言ってしまってから一つミスを犯したことに気付く。
「……じゃあ俺にも食わせちゃダメだろ」
「あっ、それは本当すみません……ついうっかり……で、どうしますか? ハロルド兵士団長を呼んできますか?」
俺は慌てて話を戻そうと兵士団の待機所の方を指差した。
「……訓練中に呼び出してメロンパンを食べてもらうのはまあ良いとして。それが固かったらハルさん不機嫌になりそうだなぁ……」
ハロルド兵士団長は焚き火の傍に俺と同じようにしゃがみ込んで、らしくない顔で空を仰ぎ見た。
「それはまあ、実験なので一発で上手くいくとは思っていないのでは……」
「……おまえわかってないな。それはおまえたちの場合の話だ、これは俺の練習なんだぞ、俺がやったと思ったら絶対怒る、それもものすごく。おまえがメロンパンを無駄にしたのかと言ってそれはもう烈火の如く」
俺は頭を抱えた。
ショーン曹長の言い分はもっともだ。俺がやったならともかく、ショーン曹長がやったと思えばその不出来にはきっとはっきり文句を言うに違いない。
「じゃあ、やっぱり上手くできるまではこちらで消費しましょう。俺たちが食べることで何か言われたらもう、ハロルド兵士団長に食べさせるわけにはいかない出来だったって言うしかありませんよ」
「ああ……どっちにしろ怒られると思うと気が重いが、そうするしかないか。じゃあ半分ずつ食べよう、片方くれるか」
せっかく温めたメロンパンが冷める前に、俺はさっき割ったメロンパンの半分をショーン曹長に渡した。
「どうぞ」
「……ああ、焼きたてとはやはり少し違うな。クッキーの部分がこう……パサついた感じだな」
ショーン曹長はまじまじとメロンパンの断面を見ながら、そこに一口齧り付いた。
「クッキー部分はそもそも固く焼けている部分なので、どうしてもリベイクで固くなっちゃうんですよね。これでも水がある分いくらか良いんですよ」
咀嚼するショーン曹長に言いながら、俺もメロンパンを一口食べた。
クッキー部分はクドゥスさんの家でベストな焼き加減にしたものより少し固い。火の強さが影響しているのだろう。パンの部分は、それでも柔らかくふっくらと戻っていた。
「……うん、下のパンの部分は悪くない。どうだろうな、点数を付けるとしたらいくつだ?」
「そうですね……六十五点、というところでしょうか。もう少しクッキー部分に焼きたての柔らかさが戻るはずです、時間を短くするか、水の量を増やすか……」
俺が腕を組んで独り言を言いながら考えだすと、そこにショーン曹長が口を挟んだ。
「いや、火だ。貰ったメモとの違いは火の大きさとそれによって箱がどこまで覆われるかだった。火の大きさではなく、箱の高さを変えてみよう。少し待っていてくれ」
ショーン曹長は立ち上がり、小走りで倉庫らしき建物の方へ走って行ってしまった。
箱から取り出したメロンパンを革の手袋のまま二つに割ってみると、見極めは思うより正確だったらしく中まで温まってふっくらとしたパンに戻っているようだった。
「……食べるのはまずいだろう」
「え? いや、食べないと本当に柔らかいかわからないじゃないですか」
「そうなんだが……」
躊躇うショーン曹長に、俺は何が嫌なのだろうと考えて思い至る。
日が経って固くなったメロンパンなど、いくら温めてあっても食べたくないのか。あるいは俺が革の手袋で掴んでしまったメロンパンは清潔ではないということか。
優秀な兵士でお城で暮らす身分なら仕方ないかと、俺はメロンパンを自分で食べることにした。
「じゃあ俺が食べますね。本当に今のタイミングで固くなくなったのかは食べなきゃわからないので……」
と、メロンパンに噛みつこうとした瞬間。
「あーっ! こらこら! やめろ!」
「……え?」
「なんでおまえが食べるんだ! それはハルさんのために持ってきたパンだろうが!」
ショーン曹長が目を吊り上げて俺の腕を掴んだので、俺は危うくハロルド兵士団長のためのメロンパンを取り落としそうになった。
「おわっ! あ、ああそういう意味……」
「いくら温め直したとはいえハロルド兵士団長のためのメロンパンを無駄に消費するわけにはいかないだろう」
「それはそうなんですけど、とはいえこれをハロルド兵士団長に食べさせるのもどうなんでしょうか……固いかもしれませんし、そもそも焼いて何日か経ったものですよ。腐ったりはしてませんけど」
俺はショーン曹長にそう言い、しかし言ってしまってから一つミスを犯したことに気付く。
「……じゃあ俺にも食わせちゃダメだろ」
「あっ、それは本当すみません……ついうっかり……で、どうしますか? ハロルド兵士団長を呼んできますか?」
俺は慌てて話を戻そうと兵士団の待機所の方を指差した。
「……訓練中に呼び出してメロンパンを食べてもらうのはまあ良いとして。それが固かったらハルさん不機嫌になりそうだなぁ……」
ハロルド兵士団長は焚き火の傍に俺と同じようにしゃがみ込んで、らしくない顔で空を仰ぎ見た。
「それはまあ、実験なので一発で上手くいくとは思っていないのでは……」
「……おまえわかってないな。それはおまえたちの場合の話だ、これは俺の練習なんだぞ、俺がやったと思ったら絶対怒る、それもものすごく。おまえがメロンパンを無駄にしたのかと言ってそれはもう烈火の如く」
俺は頭を抱えた。
ショーン曹長の言い分はもっともだ。俺がやったならともかく、ショーン曹長がやったと思えばその不出来にはきっとはっきり文句を言うに違いない。
「じゃあ、やっぱり上手くできるまではこちらで消費しましょう。俺たちが食べることで何か言われたらもう、ハロルド兵士団長に食べさせるわけにはいかない出来だったって言うしかありませんよ」
「ああ……どっちにしろ怒られると思うと気が重いが、そうするしかないか。じゃあ半分ずつ食べよう、片方くれるか」
せっかく温めたメロンパンが冷める前に、俺はさっき割ったメロンパンの半分をショーン曹長に渡した。
「どうぞ」
「……ああ、焼きたてとはやはり少し違うな。クッキーの部分がこう……パサついた感じだな」
ショーン曹長はまじまじとメロンパンの断面を見ながら、そこに一口齧り付いた。
「クッキー部分はそもそも固く焼けている部分なので、どうしてもリベイクで固くなっちゃうんですよね。これでも水がある分いくらか良いんですよ」
咀嚼するショーン曹長に言いながら、俺もメロンパンを一口食べた。
クッキー部分はクドゥスさんの家でベストな焼き加減にしたものより少し固い。火の強さが影響しているのだろう。パンの部分は、それでも柔らかくふっくらと戻っていた。
「……うん、下のパンの部分は悪くない。どうだろうな、点数を付けるとしたらいくつだ?」
「そうですね……六十五点、というところでしょうか。もう少しクッキー部分に焼きたての柔らかさが戻るはずです、時間を短くするか、水の量を増やすか……」
俺が腕を組んで独り言を言いながら考えだすと、そこにショーン曹長が口を挟んだ。
「いや、火だ。貰ったメモとの違いは火の大きさとそれによって箱がどこまで覆われるかだった。火の大きさではなく、箱の高さを変えてみよう。少し待っていてくれ」
ショーン曹長は立ち上がり、小走りで倉庫らしき建物の方へ走って行ってしまった。
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