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第四章 偏食の騎士と魔女への道
71.神童
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俺は心底驚いた。
ショーン曹長がリベイクしたメロンパンを食べて本当に驚いてしまい、声も出なかった。
「……おい、味はどうなんだ。黙っていられると焦るだろうが」
「あ……っ、す、すいません……」
俺はショーン曹長の前で確かに一度リベイクを見せた。
だがそれは完璧なものではなく、表面のクッキー部分は火に当て過ぎたのかやや固くなってしまっていた。
そうだったにも関わらず。
その後にバーベキュー用の網を持ってきたショーン曹長は、条件の違いを計算して完璧にリベイクをしたのだ。
偶然だろうか。たまたま、これくらいだろうかと思ったタイミングがちょうど良いところで上手く焼けたということなのか。
いや、たぶん違う。
ショーン曹長は箱の様子をじっと見ていた。
たぶん、見極めてタイミングを選んだということだ。
俺は全身の震えるような感覚がして、齧ったメロンパンを噛み締めるようにして口の中で味わった。
「上手く焼けていたか?」
「……はい。完璧です……」
「そうか。じゃあもう一度やろう、今の感覚を忘れたくない」
俺がまだメロンパンを持ったまま呆然としているのに、ショーン曹長は淡々と言ってすぐにまた一つメロンパンを取り出して箱の中へ入れた。今度は井戸から水を汲んでくるのも、ショーン曹長自身がやっていた。
箱は再び火にかけられる。
俺はようやく正気を取り戻し、ショーン曹長に尋ねた。
「あの、なんで一度目でそんなに上手くやれるんですか? 俺が見せたのだって完璧じゃなかったし火の当たり方というか……その、つまり条件だって変わってるのに、どうして」
「……そんなに驚くことか?」
「え……? 驚きます、だって俺だってリックと一緒に何時間も実験してやっと上手くいったし、タイミングを見るのにすごく微妙な湯気の変化を気にしてるんですよ。それを兵士のあなたが……」
俺がそうして言う間もショーン曹長は箱から目を離さない。
そのまま静かに口を開く。
「正解を教えられたじゃないか。メモも貰ったし一度見て味見もして、もう少し火が上部に当たらない方が良いということもわかった。それでできなかったら俺は馬鹿だろう」
「……普通は、それでもできません」
「……そうかもな。これでも昔は神童と言われたんだ、王立学校も二年飛び級して首席で卒業している。ハルさんに憧れて剣の道に進まなければ、俺はたぶん文官として王の側近になっていただろう」
俺はこの世界で学校に行っていないので、それがどれくらいすごいことなのかはわからない。わからないけれど、たぶんすごい。
そしてそんな人が国のためにその頭脳で役に立つことを捨て、兵士としても限りなく頂点に近い場所まで上り詰めたということは、すごいなんていう言葉では言い表せないほどの努力があったのだろう。
「ショーン曹長は……たぶんパン屋になっても成功する人ですね。すごいです、本当に」
「パン屋か……ハルさんがパン屋だったなら俺もパン屋になっていたかもな。ハルさんが花屋なら花屋に、ハルさんが盗賊なら盗賊になって、どの道でもあの人の右腕になる。すごいのは俺じゃない、俺をこういう人間に育てたハルさんだ」
鉄の箱から蒸気が出始めた。
ショーン曹長は細めた目でそれを睨むように見ている。
「ハロルド兵士団長がショーン曹長にはいつもはっきり物を言う理由がわかりました。きっとハロルド兵士団長にとって一番甘えられるのがショーン曹長なんですね」
「……英雄は孤独なんだ。ハルさんを支えるために何でもこなせる男でいることが俺の使命だ」
ショーン曹長は鉄の箱を網から下ろし、中を開けた。
取り出せば、そこにはふっくらと柔らかく甘い匂いをさせたメロンパンがある。
二度目の見極めも完璧だった。
ショーン曹長がリベイクしたメロンパンを食べて本当に驚いてしまい、声も出なかった。
「……おい、味はどうなんだ。黙っていられると焦るだろうが」
「あ……っ、す、すいません……」
俺はショーン曹長の前で確かに一度リベイクを見せた。
だがそれは完璧なものではなく、表面のクッキー部分は火に当て過ぎたのかやや固くなってしまっていた。
そうだったにも関わらず。
その後にバーベキュー用の網を持ってきたショーン曹長は、条件の違いを計算して完璧にリベイクをしたのだ。
偶然だろうか。たまたま、これくらいだろうかと思ったタイミングがちょうど良いところで上手く焼けたということなのか。
いや、たぶん違う。
ショーン曹長は箱の様子をじっと見ていた。
たぶん、見極めてタイミングを選んだということだ。
俺は全身の震えるような感覚がして、齧ったメロンパンを噛み締めるようにして口の中で味わった。
「上手く焼けていたか?」
「……はい。完璧です……」
「そうか。じゃあもう一度やろう、今の感覚を忘れたくない」
俺がまだメロンパンを持ったまま呆然としているのに、ショーン曹長は淡々と言ってすぐにまた一つメロンパンを取り出して箱の中へ入れた。今度は井戸から水を汲んでくるのも、ショーン曹長自身がやっていた。
箱は再び火にかけられる。
俺はようやく正気を取り戻し、ショーン曹長に尋ねた。
「あの、なんで一度目でそんなに上手くやれるんですか? 俺が見せたのだって完璧じゃなかったし火の当たり方というか……その、つまり条件だって変わってるのに、どうして」
「……そんなに驚くことか?」
「え……? 驚きます、だって俺だってリックと一緒に何時間も実験してやっと上手くいったし、タイミングを見るのにすごく微妙な湯気の変化を気にしてるんですよ。それを兵士のあなたが……」
俺がそうして言う間もショーン曹長は箱から目を離さない。
そのまま静かに口を開く。
「正解を教えられたじゃないか。メモも貰ったし一度見て味見もして、もう少し火が上部に当たらない方が良いということもわかった。それでできなかったら俺は馬鹿だろう」
「……普通は、それでもできません」
「……そうかもな。これでも昔は神童と言われたんだ、王立学校も二年飛び級して首席で卒業している。ハルさんに憧れて剣の道に進まなければ、俺はたぶん文官として王の側近になっていただろう」
俺はこの世界で学校に行っていないので、それがどれくらいすごいことなのかはわからない。わからないけれど、たぶんすごい。
そしてそんな人が国のためにその頭脳で役に立つことを捨て、兵士としても限りなく頂点に近い場所まで上り詰めたということは、すごいなんていう言葉では言い表せないほどの努力があったのだろう。
「ショーン曹長は……たぶんパン屋になっても成功する人ですね。すごいです、本当に」
「パン屋か……ハルさんがパン屋だったなら俺もパン屋になっていたかもな。ハルさんが花屋なら花屋に、ハルさんが盗賊なら盗賊になって、どの道でもあの人の右腕になる。すごいのは俺じゃない、俺をこういう人間に育てたハルさんだ」
鉄の箱から蒸気が出始めた。
ショーン曹長は細めた目でそれを睨むように見ている。
「ハロルド兵士団長がショーン曹長にはいつもはっきり物を言う理由がわかりました。きっとハロルド兵士団長にとって一番甘えられるのがショーン曹長なんですね」
「……英雄は孤独なんだ。ハルさんを支えるために何でもこなせる男でいることが俺の使命だ」
ショーン曹長は鉄の箱を網から下ろし、中を開けた。
取り出せば、そこにはふっくらと柔らかく甘い匂いをさせたメロンパンがある。
二度目の見極めも完璧だった。
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