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第四章 偏食の騎士と魔女への道
72.執念
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「なあ、やっぱりやめないか。一度や二度上手くいったからと言ってわざわざ見せに行くものでもないと思うんだが」
気が進まないらしいショーン曹長を連れて、俺は兵士たちが訓練している待機所の地下へと向かっていた。
「でもこれは食べてもらった方が良いですよ。数日経っていてもこれくらいのパンが食べられるって思ったらハロルド兵士団長だって嬉しいと思いますよ」
「しかしなぁ……」
「ほら、早く行かないとメロンパン冷めちゃいますって!」
訓練場の扉をひらく開くとちょうどハロルド兵士団長が中央で打ち合いを終えたのか、転がっている数名の体を避けながら手前の方にあるベンチへ戻ろうとしているところだった。
「……情けない。五人でかかって何故あんなに無様に床に伸びていられるんだ」
訓練場に入るのを嫌がっていたはずのショーン曹長はハロルド兵士団長に倒されたらしい兵士たちを見てすぐにいつもの曹長らしい顔に戻り、眉を顰めた。
「そんなことを言うならおまえが相手をしろよ。パンは上手く焼けたのか?」
「……ハロルド兵士団長。大変遅くなり申し訳ありません、一つ焼いたものがレイの求める基準に達したので持って参りました」
ショーン曹長は紙ナプキンで包んだメロンパンを手に、ハロルド兵士団長に一礼をする。まるで何度も失敗して俺が合格点を出さなかったような口ぶりだ。
「ほう。ちょうど動いて小腹が空いたところだ、貰おうか」
鎧を着たままのハロルド兵士団長がどかっと音を立ててベンチに座った。
「……リベイクをしたとはいえ、数日前のパンです。傷んだりはしておりませんが、味は多少落ちるかと思います」
「わかってるよ。レイ、ショーンの焼き方はどうだった?」
メロンパンを手に取ったハロルド兵士団長がニヤリと笑い、俺に話を振る。
「あ……えっと、すごく飲み込みが早くて……たぶん実際の遠征でお任せするのに何の問題もありません。火の強さの見極めも、嗅覚や聴覚もパン屋としてもやっていけるくらいです」
「あはははっ! そうか! じゃあショーンが兵士団をクビにされたら雇ってやってくれ。よかったなショーン、再就職先が決まったぞ」
「……なんで私がクビになる前提なんですか」
口では乱暴なことを言いながら、ハロルド兵士団長が上機嫌であることは明らかだった。
二つに割ったメロンパンを両手に持ち、そのまま右手のそれに噛み付く。
「……いかがですか、ハロルド兵士団長」
「んー……うん。なるほど。少し固いような気がするが、温かいからほとんど気にならん。これは普通の味だが、他の味でも同じように温めて食べられるのか?」
「もちろんです。ショーン曹長が一つずつ箱ごと温めます、複数食べたい場合でも一つを召し上がってる間に次のものが温められると思います」
「そうか」
「……」
ハロルド兵士団長は俺に一言返事をして、黙々とメロンパンを食べ続けた。
ショーン曹長はそれをじっと見つめている。
「……あれ? そういえばリックは……?」
ひとまずショーン曹長のリベイクは問題なさそうだと思い、俺は落ち着いて訓練場を見回した。
けれどそこにリックはいない。
リックはいつも貸し出し用の鎧を着ていて他の兵士とは少し格好が違うのでわかりやすいのだが、見つけられなかった。
「リックなら救護室だぞ。打ち合いをしたんだがすぐにバテてひっくり返ってしまってな。そのうち戻ってくるだろ」
「ひえぇ……大丈夫なんですかそれ……」
俺が体を震えさせると、隣にいたショーン曹長がふんと鼻を鳴らした。
たぶん図々しくハロルド兵士団長との打ち合いを望んだリックに対して、ハロルド兵士団長にリベイクを命じられたショーン曹長が生き霊か何かを飛ばしたに違いない。
俺は背筋を震えさせながら縮こまった。
気が進まないらしいショーン曹長を連れて、俺は兵士たちが訓練している待機所の地下へと向かっていた。
「でもこれは食べてもらった方が良いですよ。数日経っていてもこれくらいのパンが食べられるって思ったらハロルド兵士団長だって嬉しいと思いますよ」
「しかしなぁ……」
「ほら、早く行かないとメロンパン冷めちゃいますって!」
訓練場の扉をひらく開くとちょうどハロルド兵士団長が中央で打ち合いを終えたのか、転がっている数名の体を避けながら手前の方にあるベンチへ戻ろうとしているところだった。
「……情けない。五人でかかって何故あんなに無様に床に伸びていられるんだ」
訓練場に入るのを嫌がっていたはずのショーン曹長はハロルド兵士団長に倒されたらしい兵士たちを見てすぐにいつもの曹長らしい顔に戻り、眉を顰めた。
「そんなことを言うならおまえが相手をしろよ。パンは上手く焼けたのか?」
「……ハロルド兵士団長。大変遅くなり申し訳ありません、一つ焼いたものがレイの求める基準に達したので持って参りました」
ショーン曹長は紙ナプキンで包んだメロンパンを手に、ハロルド兵士団長に一礼をする。まるで何度も失敗して俺が合格点を出さなかったような口ぶりだ。
「ほう。ちょうど動いて小腹が空いたところだ、貰おうか」
鎧を着たままのハロルド兵士団長がどかっと音を立ててベンチに座った。
「……リベイクをしたとはいえ、数日前のパンです。傷んだりはしておりませんが、味は多少落ちるかと思います」
「わかってるよ。レイ、ショーンの焼き方はどうだった?」
メロンパンを手に取ったハロルド兵士団長がニヤリと笑い、俺に話を振る。
「あ……えっと、すごく飲み込みが早くて……たぶん実際の遠征でお任せするのに何の問題もありません。火の強さの見極めも、嗅覚や聴覚もパン屋としてもやっていけるくらいです」
「あはははっ! そうか! じゃあショーンが兵士団をクビにされたら雇ってやってくれ。よかったなショーン、再就職先が決まったぞ」
「……なんで私がクビになる前提なんですか」
口では乱暴なことを言いながら、ハロルド兵士団長が上機嫌であることは明らかだった。
二つに割ったメロンパンを両手に持ち、そのまま右手のそれに噛み付く。
「……いかがですか、ハロルド兵士団長」
「んー……うん。なるほど。少し固いような気がするが、温かいからほとんど気にならん。これは普通の味だが、他の味でも同じように温めて食べられるのか?」
「もちろんです。ショーン曹長が一つずつ箱ごと温めます、複数食べたい場合でも一つを召し上がってる間に次のものが温められると思います」
「そうか」
「……」
ハロルド兵士団長は俺に一言返事をして、黙々とメロンパンを食べ続けた。
ショーン曹長はそれをじっと見つめている。
「……あれ? そういえばリックは……?」
ひとまずショーン曹長のリベイクは問題なさそうだと思い、俺は落ち着いて訓練場を見回した。
けれどそこにリックはいない。
リックはいつも貸し出し用の鎧を着ていて他の兵士とは少し格好が違うのでわかりやすいのだが、見つけられなかった。
「リックなら救護室だぞ。打ち合いをしたんだがすぐにバテてひっくり返ってしまってな。そのうち戻ってくるだろ」
「ひえぇ……大丈夫なんですかそれ……」
俺が体を震えさせると、隣にいたショーン曹長がふんと鼻を鳴らした。
たぶん図々しくハロルド兵士団長との打ち合いを望んだリックに対して、ハロルド兵士団長にリベイクを命じられたショーン曹長が生き霊か何かを飛ばしたに違いない。
俺は背筋を震えさせながら縮こまった。
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