惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア

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第四章 偏食の騎士と魔女への道

83.涙

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「ミーティ、もう寝る時間だよ。ベッドに行こう」

 リックが声をかけると、今にも泣き出しそうな顔をしたミーティが窓辺で振り向いた。

「……」
「……大丈夫だよ。帰還が少し遅くなるなんてことはよくあることだよ、雨が降ったりしたからどこかで休んでいるんだと思うよ。心配しないで」

 それでもミーティが動かないので、リックは傍に寄ってその小さな体を抱き上げた。

「だって……町でみんなが話してたわ、少し遅くなることがあっても一日以上遅れることなんてなかったって……どうしよう、どうして帰ってきてくれないのかしら」

 ミーティが泣くのも無理はない。

 兵士団の帰還予定日は昨日の朝のはずだった。
 町の人々は帰還を出迎えようと、送り出した時と同じように大通りで今か今かとその時を待っていたのだが、予定の時間になっても騎馬の一つも見えない。
 やがて夜になってしまっても人々は待ち続け、待ち続けた人々がだんだんと解散したのは今朝になってからだったらしい。

 ミーティは昨日一日中、リックと共に出迎えを待って大通りにいた。
 夜になって帰りたくないとぐずったらしいが、さすがに眠気には勝てなかったようで夜遅くにリックに抱えられたまま帰ってきた。

 そして今日も朝から大通りで兵士団の帰還を待ち続け、夜になって帰ってきてからも窓からずっと外の様子を眺めていたのだ。

「もし仮に誰かが怪我をして帰還ができない場合は、無事な人が急いで帰ってお城に状況を知らせるんだ。誰も帰ってこないということはたぶん全員無事で、隊として帰還を遅らせているだけだから心配ない」

 リックはミーティに優しく言い聞かせながら小さな背中を摩った。

「……本当?」
「だってミーティはハロルド兵士団長と約束したでしょ? 英雄が約束を破るはずないよ、悪い魔物を倒して、きっと元気に帰ってくる」
「そうよね……きっと……帰ってくるよね……」

 泣きながら眠ってしまったミーティを寝かせてきて、リックは大きく溜め息を吐いた。

「……兄が帰ってこなかった日を思い出してしまいました。ミーティが落ち込むのも無理ないですよ、待ってる人が帰ってこないのはすごく苦しい」
「でも……誰も帰ってこないってことは、みんな無事ってことなんだろ? リックまでそんな不安そうな顔してたら……」

 俺が尋ねると、リックは力無く首を振った。

「ミーティの手前、ああ言いましたが……本当は状況が変わればその都度、城へ情報を伝える役を出すはずなんです。そもそもそのための兵士が何人もいるんですよ、二日も遅れるのに誰一人帰ってこないのはおかしいです」
「そんな……それって」
「……考えたくありませんが、全滅の可能性もゼロじゃないのかもしれません。もしくは隊全体で足止めを喰らうような何か……馬はぬかるんだ道ではどうしても走るのが遅くなりますし、そういう理由なら良いんですけど」
 
 俺は胃が痛む思いがした。
 何度も会って話したハロルド兵士団長やショーン曹長の顔が浮かび、なんだか無性にやりきれない気持ちになる。

「でも……カンパルアラ兵士団は強いんだろ? 全滅なんてないよ、直接一緒に訓練したリックがそんな弱気になるなよ」
「……そうですよね。明日はきっと帰ってきてくれるはずです。これで何事もなくけろっとして帰ってきたら、真っ先に駆け寄ってその場で一筆書いてもらいましょう。フロッキースは兵士団御用達の店だって」

 リックは無理に笑顔を作って言った。

 俺はミーティから貰ったガラスのネックレスを握り、兵士団の無事を願った。
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