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第四章 偏食の騎士と魔女への道
89.魔法
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部屋の中から二人の話し声が聞こえる。
「……フロッカーさんから聞いたわ。兵士団長さんの招待なんですってね」
「あたしのために魔物を倒すって約束してくれたのよ。パパを襲った魔物もあの人が倒してくれたんだって」
「それは……ずいぶん良い男に惚れられたわね。さすが私のライバルなだけあるじゃない」
「……ねえ、このドレス本当にあたしに似合ってると思う? リッキーはもっと明るい色が良いって言ったの、でもあたし……」
そう言った部屋の中のミーティの声が沈んでいくのは外で聞いている俺にもよくわかった。
壁に耳を付けたままのリックが静かに目を伏せる。
「バカね、リックったらいつまでも子どもなんだから。イブニングパーティーで明るい色のドレスなんてよっぽど小さな子しか着ないのよ」
「そうなの?」
「そうよ。だからミーティのセンスが正しいわ」
「……うん」
それからしばらく二人は沈黙していた。
その沈黙を破ったのはローザさんだった。
「さ、できたわよ。髪が綺麗だからよくまとまってるわ、パーティーの間は崩れないと思うけどあんまり走り回ったりしちゃダメよ」
「わぁ……上手なのね。魔法みたい……」
「本物の魔法はもっと素晴らしいものよ。興味があるなら今度お見せするわ」
「……好きな人と仲良くなれる魔法もあるの?」
「……もしそんなものがあったとしても、ミーティには必要ないわね。今日の招待客の中で一番可愛いのはきっとあなたよ、自信持ちなさい」
「……一番?」
「当たり前よ。私のいないパーティーなんだからね」
二人がくすくすと笑い合う声が聞こえてきて、俺とリックは足音を立てないようにそっと部屋の前を離れた。
「やっと準備が終わったのか? おおミーティ、それで城に行くと求婚されてしまうんじゃないか?」
濃紺のドレスで髪を綺麗にまとめたミーティを見てフロッカーさんは目を細めた。
「ちょっと大袈裟よ、おじいちゃん」
「……よく似合ってるよ、ミーティ」
遠慮がちに言ったリックにミーティはすました顔のまま答えた。
「今日はローザにお願いして正解だったわ。一人で色んなところに行ける人の方が流行りにも詳しいのね、きっと」
「あはは……」
俺は苦笑しながら、ポケットの中に一抹の不安を覚えた。
ミーティは俺からのプレゼントを受け取ってくれるだろうか。
メロンパンのネックレスは流行りのものでもなければ、シックで大人っぽいものとも言えないだろう。
「オーナー、そろそろ行きましょう。招待に遅れては申し訳ないですよ」
エルダさんの大きな体は正装がよく似合った。
俺とはもちろん、リックとも違う。
俺がエルダさんの年齢になってもこういうふうにはならないだろう。
「ではローザ、悪いが留守番を頼むぞ。土産があれば貰ってくるからな」
「うふふ、お気遣いなく。リック、ぼーっとしてるとミーティに振られるわよ? しっかりね」
「っ、ローザ!」
「リッキー、早くして。遅れて行くなんてはしたないから嫌よ」
「えー! ミーティの準備がっ……!」
「リック! それ以上は言わない方がきみのためだよ、ここは言う通りにしておこう」
色々と理不尽で気の毒なリックを宥め、俺たちは城へ向けて出発した。
「……フロッカーさんから聞いたわ。兵士団長さんの招待なんですってね」
「あたしのために魔物を倒すって約束してくれたのよ。パパを襲った魔物もあの人が倒してくれたんだって」
「それは……ずいぶん良い男に惚れられたわね。さすが私のライバルなだけあるじゃない」
「……ねえ、このドレス本当にあたしに似合ってると思う? リッキーはもっと明るい色が良いって言ったの、でもあたし……」
そう言った部屋の中のミーティの声が沈んでいくのは外で聞いている俺にもよくわかった。
壁に耳を付けたままのリックが静かに目を伏せる。
「バカね、リックったらいつまでも子どもなんだから。イブニングパーティーで明るい色のドレスなんてよっぽど小さな子しか着ないのよ」
「そうなの?」
「そうよ。だからミーティのセンスが正しいわ」
「……うん」
それからしばらく二人は沈黙していた。
その沈黙を破ったのはローザさんだった。
「さ、できたわよ。髪が綺麗だからよくまとまってるわ、パーティーの間は崩れないと思うけどあんまり走り回ったりしちゃダメよ」
「わぁ……上手なのね。魔法みたい……」
「本物の魔法はもっと素晴らしいものよ。興味があるなら今度お見せするわ」
「……好きな人と仲良くなれる魔法もあるの?」
「……もしそんなものがあったとしても、ミーティには必要ないわね。今日の招待客の中で一番可愛いのはきっとあなたよ、自信持ちなさい」
「……一番?」
「当たり前よ。私のいないパーティーなんだからね」
二人がくすくすと笑い合う声が聞こえてきて、俺とリックは足音を立てないようにそっと部屋の前を離れた。
「やっと準備が終わったのか? おおミーティ、それで城に行くと求婚されてしまうんじゃないか?」
濃紺のドレスで髪を綺麗にまとめたミーティを見てフロッカーさんは目を細めた。
「ちょっと大袈裟よ、おじいちゃん」
「……よく似合ってるよ、ミーティ」
遠慮がちに言ったリックにミーティはすました顔のまま答えた。
「今日はローザにお願いして正解だったわ。一人で色んなところに行ける人の方が流行りにも詳しいのね、きっと」
「あはは……」
俺は苦笑しながら、ポケットの中に一抹の不安を覚えた。
ミーティは俺からのプレゼントを受け取ってくれるだろうか。
メロンパンのネックレスは流行りのものでもなければ、シックで大人っぽいものとも言えないだろう。
「オーナー、そろそろ行きましょう。招待に遅れては申し訳ないですよ」
エルダさんの大きな体は正装がよく似合った。
俺とはもちろん、リックとも違う。
俺がエルダさんの年齢になってもこういうふうにはならないだろう。
「ではローザ、悪いが留守番を頼むぞ。土産があれば貰ってくるからな」
「うふふ、お気遣いなく。リック、ぼーっとしてるとミーティに振られるわよ? しっかりね」
「っ、ローザ!」
「リッキー、早くして。遅れて行くなんてはしたないから嫌よ」
「えー! ミーティの準備がっ……!」
「リック! それ以上は言わない方がきみのためだよ、ここは言う通りにしておこう」
色々と理不尽で気の毒なリックを宥め、俺たちは城へ向けて出発した。
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